第80話 脳筋式マインクラフト

――――【ブラッド目線】


 俺は王都近郊にある岩場に来ていた。なぜ、こんな簡単なことを思いつかなかったのだろう……、己の馬鹿さ加減が嫌になる。まあ、今更悔いたところでどうにもならないので筋トレがてら作業を開始した。


 俺の目の前に広がる岩場はギアナ高地にあるテーブルマウンテンがかわいく思えるほど、人間いや魔物が登頂することを阻んできた……と聞いている。


 岩山の天頂が雲で覆われ、俺のいる麓からでは見えないのだ。


 しかも魔力がどういう仕組みか見当もつかないが岩場に吸収され、浮揚などの魔法で天頂へたどり着こうにも魔力切れを起こして墜落死する者が後を絶たない。


 なら自力で登ろうとしても垂直どころかお椀のように壁が斜め前に突き出ており、登頂することを拒絶するかのようにより困難さを際立たせていた。


 生前、俺の身体を見た知人からボルダリングやフリークライミングに誘われたが、そのときは上司の一之瀬からまるで嫌がらせのように大量の仕事を押し付けられ、誘いを断り続けなければならなかった。


 だがいまなら!


 俺は大きく息を吸い、新鮮な空気で肺いっぱいに満たした。


 そして……。


 まるで円盤投げの円盤を投げるかのように岩場に背を向ける。それとは真逆に腰を捻るため手は前を向いていた。


「ふんっ!」


 捻れた身体がまるでゴムが解放されるかのようにステップを踏みつつ、捻れが解けてゆく。それに伴い勢いは凄まじく速い!


 俺の手刀が岩場の前で空を切ったときだった。



 ブオオオオオオオオォォォォォォンッ!!!



 真一文字に広がった真空の刃が岩場を浸食してゆく。それが終われば姿勢を低くして、アンダースローのようなフォームを取ったりとテーブルマウンテンのスライスに勤しんだ。


 二十段ほど刻めたところでふと気づいた。


 もしかして、向こうまで届いている?



 ほんの少し切れ目を入れたはずが、切り込みをずっと辿ってゆくと岩場の向こう側にまで貫通してしまっていた。


 俺は東京二十三区より広い面積を持つテーブルマウンテンを輪切りにしていたのだ。ちなみに距離は伊能忠敬式で歩数で測っている……。


 だるま落としの要領で切れ目の入った岩場を蹴り込むと面白いように綺麗に飛んで、蹴った段が抜けていった。


 石材となったテーブルマウンテンの岩の行き先はリーベンラシアの王都!


 俺がテーブルマウンテンで作業を終えたころには天頂にかかっていた雲が上がっており、景色が微かに見えるようになっていた。



 王都に着いた俺は切り出した岩を両手で抱えられるくらいのブロックへ切り刻み、並べてゆく。


 成り上がりと言えば秀吉! そんな秀吉が信長に仕えていたときに一夜にして城を作ったエピソードがある。あれはあくまで秀吉が部下に命じて建てさせたものだが、大工さんでも部下でもなく、王子である俺自ら再建したのが誇らしかった。


 まあ壊したのが俺だから、建て直すのは当たり前といえば、当たり前体操ならぬ当たり前筋トレ。



――――翌日。


「ふぁーぁ!」


 筋トレだけならそこまで疲れていなかったが、フリージアとリリーに残りの精力搾り取られたために昼になりようやく起きてくると避難民たちが皆、テントの外に出てきて王都の方を凝視していた。


 フリージアたちは半ば無理やりぎみにお姫さまだっこして彼女たちのテントに返しておいたが……。


「こ、これは……」


 オモネールはあまりのことに二の句が告げないようだ。俺は彼らの驚きようを見届けると無言のままテントに戻る。


 それもそのはず王都にはテーブルマウンテンの岩でできた新しい王城と街……そしてそれを囲う城壁が完成していた。


 イメージは元在った旧王都を真似ている。


 違うのは建材がほぼテーブルマウンテンの岩に置き換わっていることくらい。これで魔法はおろか物理に対しても相当堅固な城塞都市ができたと思う。



 二度寝して起きたときだった。


「大変ですっ!」


 筋トレを終えた俺は筋肉を休めるためにテントでお昼寝しているとオモネールが飛び込んでくる。


「はっ!?」


 目を覚ますとオモネールが血相を変えており、俺も両隣を見て、顔が青くなった。俺は大の字で寝ており、広げた手はひたすら柔らかな感触に包まれていたからだ。


 まるで叡智なお店の手洗いコースのように俺の腕を大事そうに胸で抱えたフリージアとリリー。フリージアの隣には愛まで寝ている。


 この娘たちはいつの間にテントに侵入してきたんだろう?


 フリージアを俺だと思い込み、誘われるがままに彼女に付いてきてしまったのだと思われるが……。愛には好きでもない男の寝床には入らないようにちゃんと注意しておかないといけない。


「愛と言ったな。そこに座れ」

「もう座ってるよ、ブラッド」


「そうか、そうだったな……、いや聞く姿勢のことはどうでもいい。問題は貴様の態度だ。年頃の娘が好きでもない男と同衾するのは如何なものかと思う」


「どうしたの、ブラッド? 柄にもなく説教なんかして、っぽいよ」


 きょとんとした目で俺を不思議そうに見てくる前世の妹。


「愛のこと心配してるの?」

「そ、そんなわけなかろう。俺と貴様は赤の他人! 貴様がどこの誰と浮き名を流そうが俺の知ったことではない」

「ホントに?」


 いますぐ、そんなわけあるかーっ! と叫びたい。でも言った途端、ブラッドが俺だと露見してしまうのは確実。


「性の乱れは心の乱れ! 俺はただ風紀を乱すなと言いたいだけだ」

「えっと、ブラッド……ごめんね、一ミリもブラッドの言ってることに同意できないよ」


 ですよね……。


 フリージアが俺の股間を、リリーが俺の胸元を撫でて物欲しそうにしているのだから。せめてこの二人を追い出してから、愛と話し合いを持つべきだった……。



――――【クリスタ目線】


「ラッキー♪」


 王さまゲットぉぉぉーーー!!!


 もう私に運が巡ってこないかと思ったら、倒れてる王さまを拾っちゃった!


 助けた恩を着せまくって、私のおじに……そして王宮でお姫さまみたいな優雅な生活を送るんだ。


―――――――――あとがき――――――――――

作者の手元にはまだ届いていないのですが、蝸之殻のバニーガールアイリンが発売されてるそうですね。なかなかのハイクオリティのようで開封するのが楽しみです。これはもしかして、ブラノワが蝸之殻から出ることを期待してもいいんでしょうか!?

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