第79話 泳がされる愚弟
疎開キャンプから物凄い勢いで逃げ去るジークフリート。俺はオモネールの操る【
「いかせてよろしいのですか?」
「好きにさせろ。愚弟をここに置いておけば、貴様たちや避難民の負担になるだけだ。やれ食事がマズいだの、俺と同じ扱いにしろだの、テントに見目の良いメイドを寄越せだの……まったくこの非常時になにを考えているのやら」
「ブ、ブラッドさまぁぁぁ……」
オモネールは端正な顔立ちに似つかわしくなく鼻水を垂らしながら、落涙していた。
「見苦しいぞ、とりあえず鼻を拭け」
「もぶじわげあじません……」
ぶひ~っとオモネールが鼻をかんでいるとコビウルが戻ってきた。
「ご苦労。で、首尾どうだ?」
「それが……ボフゥ……」
コビウルは俺の問いに首を横に振り、すぐにうなだれてしまう。彼には行方知れずのビスマルクとソンタックの捜索を依頼というか、自主的にやってくれていたのだ。
俺はただ訊ねただけに過ぎない。
三人で見逃してやったことも知らず、ドヤ顔で走り去るジークフリートを見ていて、俺は思いついたことを伝えようとした。
だがオモネールが言い終わる前に答えてしまう。
「ジークフリートに……」
「はい尾行は手配済みにございます」
おおう……。
さすがオモネール、仕事が早い。
「しかし、さすがブラッドさまにございます。敵であった忠臣を生かし帰順させただけでなく、心の底より忠誠を誓わせるなど、やはりブラッドさまは名君中の名君であらせられる」
「ボフゥ、確かに……。人の特性を見抜き、適材適所に配置する慧眼……まさに人の上に立つべくして生まれた逸材! そんなブラッドさまにお仕えできることをこのコビウル、最大のよろこびにございます」
え? 俺、なにかした?
なにもしてないのに誉められることほど気持ち悪いこともない……。ただ二人が色々と手を回してくれたことに感謝していた。
報告を聞いたあと、テントから出る。俺のために用意された大きなテントの向こうには平地を埋め尽くさんばかりのテントが並んでいた。ずっと避難してきた人たちにずっとテント暮らしを強いるのは忍びない。
そう思うと居ても立ってもいられず、俺は異世界マイクラを始めようとすると、なかなかの
ぺこりと頭を下げた好青年の容姿は黒髪にマッシュルームカットという曲がり間違うとダサくなる髪型なのに妙に板についている。
「ブラッドさまのおかげでモンスターを複数体、召喚できるようになったんです。それで……みんなからキモいと呼ばれてたいびるんをジークフリートを尾行させてます。ブラッドさまに愛嬌があるって言われて、ぼくもいびるんもどれだけうれしかったことか……ああ、ブラッドさまに仕えられてぼくはしあわせだなぁ~」
えっと、どちらさまでしたっけ?
モンスターを召喚、ジークフリートを尾行……というフレーズからまさかとは思ったが、思い当たる節は一人しかいない。
「大木!?」
「はい、ブラッドさまの
痩せて、めちゃくちゃイケメンになっちょる……。
いや骨格変わってね?
そんな短期間で人は変われるのか?
「まさかいびるんを監視に使うなんて思いも寄らなかったです。ブラッドさまは一言で言って天才ですね。強くて、格好良くて、頭がいいなんて……憧れてしまいます」
俺はただ「いびるんってスパイしてそう」とか他愛もないことをつぶやいただけで大したことはしていない。
そんな気持ちでいたからだろうか、大木への労いの言葉を掛けるどころか、ブラッド語で悪態をついてしまう。
「俺は男に憧れられても、まったくうれしくない」
「さすがブラッドさま! もっと多くの美女を集め、ハーレムを築かれるのですね。不肖、この大木忠臣……ブラッドさまの子種を欲しがる美女を集めることに粉骨砕身の心持ちで挑みます」
ひっ!?
フリージアとリリーだけでも毎日求めてこられるのに、さらに夜を共にする女の子が増えたら困る!
「うむ、その心掛け、実に良い。励めよ、忠臣!」
俺がぽんと大木の肩に触れ、労いの言葉を掛けたときだった。
「愛さまっ! ぼく、ブラッドさまに誉められたよっ!」
愛が俺たちのことを見ており、感極まった大木は愛に向かってゆく。以前の大木なら変態がJKに抱き付こうとするなんて、犯罪臭ぷんぷんだったのにイケメンになった途端、美男美女ばかりドラマでも観ているかのよう。
だが愛は……。
「おーきん、ごめんね。愛とハグしていいのは、おにぃだけなの」
大木のハグをスルリと躱した。そういえば愛のヤツ、実家に戻ったとき、俺をテディベアとでも思っていたのかいつもハグしてきてたな。いまはフリージアをブラッドと思い込んでるから彼女とばかりハグしてるけど……。
「愛さまのおにぃさまが裏山です」
スルーされ際に一言吐いた大木はバランスを崩したまま、オモネールと話していたコビウルの背中へと抱きついてしまう。
「ボフゥ、忠臣殿……これは一体……」
「いやっ! これは違うんです! その好きとかそういうのじゃ……」
「気持ちはうれしいのだが、私はその友情というのはそういうのとは違うと思う、ボフッ」
抱きつかれたコビウルは言葉では否定しつつも、顔を赤くして満更ではなさそうな雰囲気を醸し出していた。
「あーっ、なんか新しい恋が始まりそうだねー」
罪作りな愛はボソッと俺につぶやている。
乙女ゲー(BLサイド)が始まるのか!?
―――――――――あとがき――――――――――
改稿しながら参考資料がてらラノベを読んでます。あれですね、○○学院と言った感じのファンタジーで、ヘソ出し制服の作品です。
Web小説との違いを見比べながら、楽しんでます。
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