第78話 闇堕ち王子

「聞いているかっ!」


 ジークフリートが眉間に皺を寄せ、俺に詰めよる。はっきり言って、オフトゥンの中でもぞもぞするフリージアに注意が削がれ、ジークフリートどころじゃない。


「ジークフリートさま! ブラッドさまはお疲れになられているのです。ここはどうか穏便に……」


「はあ? ボクだって疲れてるんだよ! わざわざボクの方からブラッドのところまで出向いてやったのに寝転びながら、ボクの相手をするとか信じらんないよ」


 自分から来ておいて、これである……。


 ジークフリートに付き合ってるだけで、休憩してるはずの俺が疲れてくる。いや疲れる理由は別か……。


「オモネール、下がっていい。馬鹿の相手は疲れるだろ。【治癒】を受けたとはいえ、まだ無理をするな。次の戦いに備え、休んでおけ」

「ですが……馬鹿……あ、いえジークフリートさまはお心が不安定でいらっしゃいますので……」


 馬鹿って、はっきり言っちゃったオモネール。


 それには俺も激しく同意だけど。


「オモネール!!! さっき、ボクのこと馬鹿って言っただろ! もう一回言ってみろよ、怒んないからさ!」


 ジークフリートは怒らないと言いつつ、すでに眉間に皺を寄せ、の額に青筋を立てている。絶対にキレるだろうと思いつつ二人の様子を見守っていた。


「ではお言葉に甘えて……自覚のない馬鹿に馬鹿と言うことがそんなに悪いことなのでしょうか? 先ごろのモンスター討伐において、ブラッドさまがジークフリートさまのためを思い、戦功を譲ろうとされたのにすべてを無碍にされてしまった。実に嘆かわしいことです」


「はあ!? 違うだろ! あんな見え透いた罠を仕掛けてきて、ボクを陥れたんだ。あれは許されざるべき行為だ」


「ククク……ジークフリート! 貴様の負けだ。見え透いた罠なら何故見破れない? それすら見抜けなかった貴様の落ち度を差して、オモネールは貴様が馬鹿だと言ってるのだ。それくらい察しろ、この馬鹿者め」


「ブラッドまでボクのことを馬鹿にするっ! 馬鹿って言った奴が馬鹿なんだよ!」


 小学生レベルの言い争いで頭が痛くなる。


「こんな奴の相手をする必要はない。オモネールは他の仕事をしろ。馬鹿の相手は俺がしておく」

「ですが……」

「貴様らしくないな……、俺に口答えするなど」


「失礼いたしました……、まだ仕事が残っております故、失礼いたします」

「うむ、よい心がけだ」


 オモネールはテントから立ち去ってゆく。



 よし!



 一人減った。


 オフトゥンを被せているからフリージアと絶賛仲好し中とはバレていないが、流石に弟や部下に見られながら、致すほど俺は変態な性癖ではない。


「ブラッド! ボクは寛大だから、おまえの部下の無礼は不問にしておいてやる。だが今度、ボクを馬鹿にしたら許さないからな!」


 スゴいよ、ジークフリート。


 俺に許しを乞いに来たはずなのに上から目線で物を言えるんだから……。


「好きにしろ、それよりも用が済んだのならさっさと立ち去れ。俺は暇な貴様と違い疲れてる」

「ボクが出向いてやったのに、なんて態度だ。呆れて物が言えないよ」


 おまいう?


「イラついたなら帰れ、俺は寝る」

「はあ? なに言ってるんだよ、ボクはおまえが許すまでここを離れてやらない。早く起きろ」


 激高したジークフリートは俺のオフトゥンを無理やり捲ろうとする。俺は捲られまいとオフトゥンの両端を掴んで抵抗するが……。



 ビリッ! ビリビリッ!



 千切れるかのような嫌な音がしたかと思ったら、端だけ掴み、俺の胸から下がジークフリートの目の前に晒される。


「あっ、あっ、ああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 そこには満足げにイキ果てたフリージアがおり、彼女の秘密の花園に俺の種蒔きが完了したことを示している。


 次の春には二人の想いが結実することでしょう!


 みたいな言い逃れ不可避な状況である。


 俺がフッたのにジークフリートの想い人であるフリージアは彼には一切目もくれることなく、俺に種付けされているのだ。


「うそ……だよね? フリージア、うそだと言ってくれよ。キミとボクは結ばれる運命なのに、なにブラッドと結ばれてるんだよ! 信じらんない、フリージアはそんな淫らなことする女の子じゃないと思っていたのに……」


 ジークフリートはへなへなと膝の力が抜け、しりもちをついてしまう。一方のフリージアは小刻みに身体を揺らしながらも、俺の胸の中で幸せそうに眠っていた。


「み、みんな嫌いだぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」


 いくら馬鹿っぽくなったジークフリートでも状況を覆すことが困難だと悟ったのか、立ち上がると一目散にテントから出ていってしまった。


「ううん……ブラッドさま……。なにかありましたか?」


 ジークフリートが立ち去って間もなく一番罪作りな性女さまが目を覚ます。


「いやなんでもない」


 イキロ……。


 俺は心の中でジークフリートにエールを送る。


 今の状況を整理すると俺とフリージアは言いたくはないが、セフレの関係だ。


 婚約破棄から寄りを戻したのか、と言われれば微妙ではある。


 フリージアさえ、ジークフリートと交際したいと言ってくれれば、いつでもどうぞなんだけど……彼女曰わく、


「ずっとブラッドさまとこうしていたいです……」


 ということなので、ジークフリートの未来は希望の光すら吸い込まれるブラックホールのように暗いだろう……。


―――――――――あとがき――――――――――

こちらを書いているときは、そろそろ7月も終わりです。あれの改稿作業も終盤なのですが……。

それはさておき、ブキヤのASMRに手を出してしまいましたw おねんねするときに流し聴きしたいと思います。

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