第76話 醜い内輪揉め【ざまぁ】

――――【ジークフリート目線】


「なんなんだ、あれは……」


 アレスが頭を抱えて、青い顔をしている。ブラッドの化け物じみた強さを目の当たりした結果だ。


「いやあれは夢だったのだ。あんな人外がいるわけがない。ジーク、私の頬を抓ってくれ」

「分かった、じゃあ遠慮なく」


 くそっ!


 認めたくないものだな!


 ボクの次にイケメンな男を!


 ブラッド? あいつはもっと認めたくないっ!


「いだだだだだぁぁぁぁっ!!!」


 ボク以外のイケメンは許さない! そんな恨みを込めて思い切りアレスの頬を引っ張ってやった。捻りを込めたあと離すとアレスの頬が赤くなって、吹き出しそうになった。


 ははっ、いい気味だ!


 彼女持ちの男は死ねばいいんだっ!!!


 おっとアレスに釣られて現実逃避している場合じゃなかった。赤く腫れた頬をさすり、夢から覚めたアレスにボクは訊ねる。


「あいつは助けなくて良かったのか?」

「井川を生け贄に……いやいや彼はボクたちを逃がすために奮戦してくれたのだ。彼の尊い犠牲に黙祷を捧げよう」


 王都から撤退のため同乗する馬車の中で、まだ生死不明なのにアレスの言葉は冷酷過ぎる。そんなアレスにボクは憤りを感じ、言ってやった。


「なんて酷い奴なんだ! ボクはアレスがそんな薄情な男だとは思わなかったよ」


「なるほど……確かに私は薄情なのかもしれない。ただ私を批判する前にキミが井川を助けに行ったらどうだ? それにブラッドはキミの兄なんだろ、泣いて詫びを入れれば許してくれるかもしれないぞ」


 なっ!?


「このほぼ国王のボクが格下のブラッドに頭を下げる? ふざけんじゃないよ! それに井川はボクの仲間じゃない。アレスが連れてきたんだろう。そもそも弱い奴を連れてきたキミに責任がある!」


「ふむ……そうきたか。しかしだ、そもそもジークがキミの兄の強さを私たちに伝えていなかったのが問題だ。その程度も把握できないくらいキミは無能なのかい?」

「は? いま、ボクのことを無能と言った?」


「ああ、言った。先日の爆音で耳が遠くなったわけでなく元々、私の言葉すら理解できないほど頭が悪いのなら何度でも伝えてあげよう。無能に無能と真実を告げてやったんだ、怒るよりむしろ感謝してもらいたいものだね」


「はあ? ボクは無能じゃない! むしろ優秀すぎて、嫉妬のあまり評価されてないだけだ! それよりもなんなんだよ、アレス! ボクは前々からキミのスカした態度が大嫌いだったんだよ」


「嫌いで結構。あくまで私はジークが以前からブラッドを蹴落とし、国王になりたいと泣きついてきたから手を貸してやったまで」


「はあ? いつボクがアレスに泣きついたんだよ! ボクはただブラッドがムカつくと言っただけだ。勘違いするな!」


 まったく! アレスはただリーベンラシアがブリューナクより貧困に喘いでいるから、援助してやってもいいかも~って話をつけに行ったときに、すこし愚痴ったら話に尾ひれをつけてくる。


「アレスにはボクの方が格上の存在だってことを分からせてやんなきゃって思ってたんだよ!」

「奇遇だな。それについては私も同意する。では馬車降りて決着をつけようか」


 アレスは御者に命じて馬車を停めさせた。


 ボクは御者がドアを開ける前に外へと飛び出す。抜いた剣でシュシュッとアレスの肩を打ち抜くモーションを練っていた。だけどアレスは馬車から一向に降りてくる気配がない。


「いけ!」


 アレスは馬車から降りてくるどころか、そのまま御者に命じて馬車を走らせていった。


「えっ?」


 それに続く騎馬と歩兵の群れ。ボクがいるにも拘らず、彼らはボクに向かって……いやアレスの馬車を追いかけてゆく。ボクは揉みくちゃにされ、身体を地面へと横たえてしまった。


「やめろ! ボクはリーベンラシアのほぼ国王なんだぞっ! 止まれ! ボクに馬を! ごふっ! や、やめ……あぶっ! 誰だ、ボクを踏むのはっ! い、痛いっ、やめ、やめてぇぇぇ……」


 ボクがいるのにお構いなしに行進は続き、何度馬の蹄や靴に踏まれたのか分からない。


 彼らが立ち去ったあと、ただ砂煙だけが舞い上がっていた。ボクは彼らに足蹴にされた上にただ一人置いていかれたのだ。


 えっと……これって、ボク一人でブラッドたちと戦わなくちゃいけないってこと!?



――――【ブラッド目線】


「ブラッドさま、斥候より伝令が……」

「そうか、こちらに呼べ」

「御意」


 俺がテントで復興計画を練っているとオモネールが恭しく入ってくる。


 オモネールと入れ替わりでグラスランナーのように小柄な青年がテントへ来た。


「ジークフリート殿下とブリューナク国王アレスは王都の東のドルトハイトにまで撤退。そこで両者は口論となりジークフリート殿下はアレスに同盟を破棄された一人放置された模様です」

「そうか、ご苦労であった」


 俺は斥候に握手を求める。握手を交わした斥候は感激しているようだったが、俺はその隙にそっと彼のポケットへ手を差し入れていた。


 握手をしたとき、俺の【筋肉審判マッスルジャッジメント】は彼に二心がないことを証明していたが……。


 王都は蛻の殻か……ならいけるな!


 斥候が「監視を続けます」と出ていったあと異世界マインクラフトを夢見て、テントを脱走しようとしたときだった。


「ブラッドさま……」


 眼前にはフリージアがおり、蒼く澄んだ瞳をうるうるに潤ませ俺の胸元に飛び込んできた。


―――――――――あとがき――――――――――

やはり自慰苦くん、彼にはぼっち・ざ・えっちが似合いますねw

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