第71話 媚びない

――――【ジークフリート目線】


 ボクは牢獄を出た途端、甲冑とマントを身につけ臨戦態勢にある者たちに囲まれた。


「「「「ジークフリート殿下!」」」」


 だがそれは牢番の衛兵の呼び掛けに応えたものじゃない。


「同じリーベンラシアの人間として、ジークフリート殿下を拘束するなど恥を知れ!」

「ううっ……」


 一人の武装した者が瓦礫に埋もれ動けない牢番の身体を足蹴にする。ボクを取り囲んでいたのは、反ブラッド派でみんなはボクの支持者たちだった。


「救出が遅くなり、申し訳ありませんでした」

「もっと早く助けに来て欲しかったな。おかげで牢の中で努力しすぎてしまったじゃないか!」

「さすがジークフリート殿下ですな」


 食って寝てばかりで、まったく努力なんてしてないけど!


 彼らは一斉に片膝をついて臣下の礼を取る。



 ぎんもぢいいっ!!!



 ブラッドよりも優れた容姿に知性、卓越した剣術、強力な魔法、一目見ただけで誰をも惚れさせてしまうような人間的魅力、そして類い希な努力家!


 そうだよな!


 みんな分かってるじゃないか。


 ボクのにひれ伏して、跪いてる大人の彼らを見ていると身体がふるふるしてくる。


「ジークフリート殿下をこのような狭いところに押し込めるなど、言語道断!」

「ブラッド殿下はオモネールたちばかりを重用し、我々を蔑ろにしている」


 ボクの支持者たちは不平不満を拳を突き上げ、口にする。ボクの支持者の取り纏め役と思しきアルフォンソ侯爵が片膝をつきながら摺り足で一歩前に出る。


「ジークフリート殿下! ここは是非とも国王陛下にブラッド殿下を王太子の座から引きずり下ろすべきだと訴えましょう!」

「はははは! ブラッド、勝ったような気になっていられるのも今の内だ!」


 ボクは彼らの期待に応え、立ち上がり拳を突き上げると拍手喝采をしてくる。



 喝采は数秒と保たず疎らになったので、ちらとアルフォンソ侯爵に目配せすると……。


 拍手はまた大きな音を立てて、牢獄内で響いていた。



 やだなぁ、そんな期待なんてしてないのに。


 いいぞ、もっとやってくれ!



 ボクは彼らに一時間ほど拍手させていたけど、聡明なボクを称えるにはまだまだ足りていない。それよりも今後のことを考えないと! ボクは後先考えない馬鹿なブラッドとは違うのさ。



 父上が座り指揮を取っているであろう玉座の間を制圧したのだけど、その姿はない。捕まえた者たちに訊いても誰も口を割らないでいた。


 まあいい、あとで探し出せばいいことだ。


 ボクは父上の代わりに玉座へと腰掛け、肘掛けに手を置き、頬杖つきながら脚を組む。王宮の半分の区画を押さえたとの報告を受け、アルフォンソ侯爵に訊ねた。


「しかし、よく兵を集められたものだな」

「はい、ブリューナク王国のアレス国王のご支援を受けたものですから」

「なにっ!? アレスが? いや彼はまだ即位はしてなかったはず……」


 そんな話をしているとボクを警護していた臣下たちがざわつき、ドア付近を取り囲んだがアルフォンソ侯爵が声をかけると綺麗に左右に分かれ、道を開けていた。


 ボクの正面には目たことのある懐かしい顔があった。


「やあ、ジークフリート! 久しぶりだね」

「アレス!」


 アレスは朗らかな笑顔を向け、歩み寄ってくる。


 そしてボクに向かって差し出されたアレスの手。


 立ち上がって握手するのが礼儀だけど、ここはボクの国だ。ここで立ち上がってしまえば、対等な立場だと思われてしまう。


 ボクは玉座に座りながら握手したが、アレスは気に留めることなくどこ吹く風だった。


「ブリューナクはとても他国と戦争できる財力なんて、とてもじゃないがなかったはずだ」

「ああ、異世界召喚に成功してね。私に協力するなら、キミをリーベンラシアの国王に推したい。どうかな?」


 くそう!


 アレスの申し出にボクは……。


「し、仕方ない。受けてやるよ。だけどボクを国王にしないと許さないからな! なっても立場は対等だからな」

「じゃあ、交渉成立だね」


 余裕の笑みを浮かべたアレスだったけど、ブラッドの次にムカつく!


 ボクの方が誰よりもモテるんだからな!!!



 父上の探索はアルフォンソ侯爵たちに任せ、アレスとお互いの近況を話し合っていると見るからに無礼者が応接室に入ってきた。


「邪魔するぜ」

「衛兵! なにをしている!」

「いいんだ、ジークフリート。彼は仲間だよ」

「なっ!?」


 こんな傭兵以上にやさぐれたような奴が仲間だなんて!


「彼は勇者の井川って言うんだ」

「ちーすっ、よろしくな王子」


 ぽんぽんとボクの肩に気安く触れる井川。その場で叩き斬ってやりたいけど、ボクが国王になるまでここは我慢だ!


 その井川はなにか大きな袋を引きずっていて、ボクが気になる素振りを見せていたら、袋を閉じていた紐を開いて見せる。


 袋の中には……。


「コビウル?」


 辛うじて意識はあるようだが猿ぐつわをされ、声は出せないようだ。顔はなんとかコビウルだと分かるのだけど、相当殴られこぶと痣だらけになっている。身体も指が変な方向に向いていた。


「こいつ、コビウルって言うのな! ウケる! こいつのせいでよぉ、国王を捕まえんのに失敗したわ! だからムカついてボコボコにしてやった」


 井川はコビエルの頭の上に足を乗せて言い放った。


 あははは! いい気味!!!


 ブラッドなんかに仕えるからいけないんだ。


「おい、ゴミウルさんよ。助けて欲しかったら、オレらに媚びを売ってみろよ」


 名前をわざと間違えて、コビウルを挑発する井川は猿ぐつわをナイフで切った。


「ボフボフボフ……命だけは助けて……」


 コビウルはかすれるような声で命乞いをしようとしていた。


 だけど……。


「くださいなんて言うと思ったかボフ? 私が媚びを売るのはブラッドさまのみ! おまえたちみたいな三下に絶対に媚びなど売るものか!」

「んじゃ、おまえの部下全員皆殺しな!」


 井川はコビウルの腹を蹴りつけると応接室にぞろぞろと捕らえた兵士たちを連れてきてしまう。


「こんなところで斬首はしないでくれ」

「ちっ! 仕方ねえな!」



 コビウル率いるブラッドの臣下たちを処刑しようと城の外に出ようとしたときだった。


 王都の外からなにか高く空へまっすぐに上がっていく。そのときは下手くそな魔導師が魔法を撃ち間違えたのかと思っていた。


「殿下! 処刑の準備が整いました!」

「ああ、コビウルと話させてもらおうか」


 コビウルたちの身体が断頭台に縛り付けられている。


「ブラッドからボクに鞍替えするなら、靴磨きとして仕えさせてやる。どうだ?」

「ボフフフフ……ブラッドさまの靴ならよろこんで磨かせてもらう。だが貴様のような王の器も皆無な男の下につくなら、死んだ方がマシだボフッ!」


「こいつ!!! ボクがせっかく助けてやろうと思ったのに!!! 今すぐコビウルの首を跳ねてやれっ!!!」


 特別に用意された席で高みの見物を決め込んでいたときだ。



 ヒュルルルルルルルルルルーーーーーー!!!



 王都で最も堅牢を誇るアダマン城門に向かって、真っ赤になった物体が落ちてくる。



 ドオオオオオオオオオオオオオーーーーン!!!



 轟音と共に城門は吹っ飛び、爆風がボクのところまで届いてきてしまっている。


「くっ! なにが起こった!?」

「分かりません!」


 アレスや井川は【光の壁シャイニングシールド】を張って耐えていた。


「えっ!?」


 ボクが覆っていた腕を除けると数秒続いた爆風で街の光景は一変していた。民家は綺麗に吹き飛び、僅かに石造りの頑丈な建物の残骸しかない。


 更地になった先にはまさかの人物がボクの前にいた。


「ブラッドォォォォォォォォ!!!!!!!」

「クククク……随分と俺の臣下が世話になったみたいだな。この落とし前……どうつけてもらおうか」


―――――――――あとがき――――――――――

なんだと? ちさたきのプラモだと!? そんなの上納するしかないでしょ!!!

ということで誘惑にあっさり負けて、PLAMATEA リコリスリコイルの二人をポチってしまった作者でした。

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