第70話 クズ王子の脱獄

――――【ブラッド目線】


「ひいっ!」


 その場にいたジークフリート派全員が俺に帰順したわけではなかったので魔法やら矢が飛んできた。  


 大木はそれらが自分に当たるんじゃないかとビビっていたようだが、俺が「ていっ」と手を振り払うまでもなく掛け声だけで消し飛んだり弾き返してしまってた。


 俺はいじめられっ子だった大木が立場が逆転した瞬間にいじめっ子気質になるのが許せなかった。


「貴様がいじめられるのは貴様自身が弱いからだ! 貴様のいた世界では死ななかったかもしれないが、ここではそう易々と生きられると思うな! 死にたくなければ己自身を磨け! いじめた奴らに仕返しするのではなく立派になった姿を見せ、悔しやがらせてやれっ! そのために貴様は今から俺の奴隷から始めてもらう、異論は一切認めない。まずはスクワット千回からだっ!!!」


「そんな! できないよ!」

「大丈夫だ、俺も付き合ってやる。さあやるぞ!」

「まさかここで?」

「もちろん、ここでだ!」


 俺がじっと大木を見ていると、冗談で言ってるわけじゃないと分かってくれて、大木は渋々だがスクワットを始めた。


 大木を生かしたのには理由がある。


 この世界の謎が気になったのだ。


 この世界では「私なんてかわいくない」という自称不細工はいても、容姿を見ると元いた世界の地下アイドルが全裸土下座するくらいかわいい子だったりする。


 フリージアがその典型例だ。


 イケメンか美女しか居らず、不細工らしい不細工が存在しない『フォーチュン・エンゲージ』という世界に大木という異物が、この世界の空気と食事を摂取しながら過ごせばイケメン化するのか?


「いち、にい、さん……」


 大木はスクワットの回数を小さな声で数えていた。


 他人からすればどうでもいいことなのかもしれない。だが俺には気になって仕方なかったのだ。


「ああ、声が小さいから一からやり直しな」

「そんなっ!」


 大木はかなりの滝汗を掻いて、二十回をこなしていたが、声の小さいスクワットなどやる意味がないので俺は何度もダメ出しをして、大木が生まれたての子羊みたいに立ち上がれなくなるまで付き合っていた。



――――【ジークフリート目線】


 ドーン! ドーン! ドーン!


「ああ! うるさいっ!」


 ボクはこの国の王子だというのにこんな狭いところに監禁した上、ゆっくりと寝させてもくれないのか! 


 まあ十時間くらい寝たような気がするけど……。


 外から響くけたたましい騒音に目を覚ましたボク。音だけじゃなく、城自体が揺れてる!?


 地震でも起こってるんじゃないかってくらい牢内が揺れて、天井から埃が落ちてくる。ボクは悪い空気を吸わないよう目鼻口を腕で覆っていた。


 それも一回じゃなく何度も何度も。


 窓から様子を見たかったがボクの身長を遥かに越える高さにあるため、飛び跳ねたくらいじゃ絶対に届きっこない。


「おい! なにが起こってるんだ?」


 業を轟々に煮やしたボクは牢番をしている衛兵に訊ねたけど、牢前の通路を慌ただしく行ったり来たりしていて、この国の王子であるボクにまったくボクに注意が向くことがない。


 手首にはめられた魔封錠がとにかく忌々しい!


 こんな物さえなければ、こんな牢獄程度一発で吹き飛ばしてやれるというのに……。


 なんでこのボクがこんな不当な扱いを受けなきゃならないんだ!


 ボクはこの国で父上の次に偉い存在なんだぞ!


 ボクが牢から出られたら、おまえたちは全員解雇して、おまえたちの妻も娘もボクの妾にしてやるからな!!!


 そんな恨み節を思っていたとき、ちょうどボクの牢屋の鉄格子付近を通る衛兵がいたので手を伸ばして袖を掴むことに成功した。


「なんですか! いま忙しいんです、食事の時間はとっくに過ぎてます。昼間になっても起きないジークフリートさまが悪いんですからね!」


 衛兵はあろうことか王子であるボクを愚弄した!


 ぐぬぬ……。


 ボクの食事を取り上げ、こっそり自分の物にして食ってしまうなんて、意地汚いにも程がある!


 食べ物の恨みは怖いんだ!


 ここから出られた暁には、ボクがおまえの恋人を嫌というほど喰ってやるから覚悟しておけ!


「今はそんなことを咎めてるんじゃない! なにが起こってるのか、教えろ!」


「友好国であったブリューナク王国が突如として、我が国に宣戦布告と同時に侵攻してきたのです。ホントにジークフリートさまのお相手をしている暇なんてないんですから、離してくださいっ!」


 ボクに掴まれた袖を強引に引き剥がして衛兵は立ち去ろうとする。


 そのときだった。


 強い衝撃が狭い牢内に伝わったかと思ったら、暗く光を遮っていた天井が抜けて、鉄格子もぐにゃぐにゃにひしゃげている。


「ううっ! あ、足がぁぁ……」


 ボクを蔑んだ目で見ていた衛兵はざまぁみたことか、瓦礫に足が埋まり動けないでいた。


「ははは! ボクの食事を抜くなんて真似したから、罰が当たったんだよ! 次に生きて出会うことがあったら、ボクの靴の裏を舐めて忠誠を誓うことだな。さらばだ!」

「ジ、ジークフリートさまが逃亡したぞぉぉぉ!」


 衛兵は余計な真似をする!


 ボクが悠々と牢獄を抜け出したかと思ったら、ボクは兵士たちに取り囲まれてしまっていた。


―――――――――あとがき――――――――――

こちらを書いている時点(7/17)で、あの作品の改稿に取り組んでいます。本編では詳しく書けなかったあれやこれやを書いて……発表でにればハッピーハッピー、ハッピーセットなんですが、どうなることやら。とりあえず楽しく書けてるのが救いですね。

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