第69話 鬼畜王子キンニク SEED
「聞いているのかっ!」
「ブラッド殿下っ! 私になど構わず、この者どもを倒してください!」
「うるさーい! 死にたくなければ黙っていろぉ」
俺がムシャムシャとリンゴをかじっていると小太り短足、平たく言ってデブゴブリンに間違われてしまいそうな男子が舌足らずな口調で俺たちの言動にキレていた。
この見目麗しい人間しかいない『フォーチュン・エンゲージ』においては珍しいくらい不細工と言っていい。
肌の色が
どうもこの乙女ゲー世界は醜い者ほど、優先して狩られる傾向にあるということが分かってきた。
「ドラック! そいつを甘噛みしてやれっ!」
「うぐっ! うぐっーーーー!!! は、早く私に構わずやってくださいぃぃっ」
そんなことを思っているとドラゴンはデブゴブの命令に頷き、咥えたオモネールの腕に尖った歯を突き立てる。
食い千切られてこそいないが骨が軋むような音がしているがオモネールは激痛が走っているはずなのに声を殺し、自らを犠牲にしてまで敵を倒してくれと懇願している。
オモネールたちは最早部下じゃない。
俺の大切な仲間だ。その仲間を傷つけた代償はきっちり身体で払ってもらう。もう少しで種のある芯まで辿り着きそうなので時間稼ぎにブラフをかけてみた。
「おい、ブサイク。おまえの飼っているドラゴンが俺の臣下を食いちきりでもしたら、分かっているだろうな。俺の臣下のオモネールには【
「う、うそだ! そんな見え透いた嘘に騙されないぞ!」
「俺がうそを言っていると思うか? まあ信じる信じないは貴様次第だかな」
あと一口で芯だってときにデブゴブが丁重に人質を扱わないものだから、脅しをかけておいた。
「と、とにかく武器を捨てろぉぉぉーーっ」
「は? 貴様の目はどこについている。俺はナイフはおろか身に寸鉄すら帯びていないぞ。馬鹿も休み休み言え、この馬鹿者が!」
おそらくなんだが、デブゴブはいじめられっ子体質なんだろう。この手の男子は力を手にすると気に食わないことがあれば、すぐにキレてしまう。だからあまり挑発したくないんだが、そこはブラッド……無意味に挑発してしまっていた。
「許さない、許さない! ぼくを馬鹿って言った! 親にも馬鹿って言われたことないのに!」
「よかったじゃないか、いま貴様は馬鹿だと知れて」
知力25の馬鹿王子から馬鹿だと言われるとは……。
ご愁傷さまである。
デブゴブは俺が周囲から馬鹿王子と呼ばれていることを知っているのか分からないが、多分知らないだろう。知ったら、さらに火を油を注ぐことになるはずだ。
時間稼ぎが功を奏し、オモネールを助ける算段がついたときだった。
「お、大木ぃぃ……おれを助けろ」
両腕が千切れ、情けなく連行されてゆく高橋がデブゴブに声をかけた。どうやらデブゴブは大木と言うらしい。
「ははは! ざまぁ!!! やだね。高橋は散々ぼくのことをいじめてきたんだ。天罰が下ったんだよ、バーカ! キミみたいな無能と仲間だと思われるのはゴメンだからね」
「て、てめえ!」
俺の読み通り、大木というゴブリン男子はいじめられっ子だったらしい。見た目通りのいじめっ子、高橋を見捨てる言葉を吐いて、大木は高橋と決別しているようだった。
どれほどのいじめを受けていたのか、俺には分からないが、大人の俺からしたらそれはそれ、これはこれ、みたいな対応をすると思う。
つまり高橋を助けて恩を売っておく。
そうしておけば馬鹿にもされないし、仲間もできるってものなのに……。
大木の注意が削がれたようでドラックと呼ばれたドラゴンはオモネールを口に入れたまま大欠伸をかいていた。高橋が敵である俺にナイスアシストしてくれたことで隙ができた。
ブッ!!!
俺はリンゴの種を吐き出した。
俺とドラゴンとの距離はだいたい二十メートルあるかないかで、ギリギリ声の届くくらい。そんなことを考えてる間に種はドラックに当たってた。
まあ俺の吐いた種は威力から考えて……。
鯨より遥かに長く海に潜れる俺の肺活量から生み出される射出物はレールガンの発射速度を凌駕していた。
「えっ!?」
オモネールを咥えていたドラックは下顎だけ残して頭や上顎がすべて吹き飛んでなくなっており、それに気づいたオモネールが驚いている。
力なく倒れたドラックから転げ落ちたオモネール。なんとか立ち上がったところを見るとそこまで重症でないようで俺は胸を撫で下ろした。
俺はオモネールを放り投げる。すると愛たちの護衛を務めてくれていた騎士がキャッチ……できなかったようで一緒になって倒れてしまった。
「た、たいへんです! 早く二人とも治癒しなくては!」
「ブラッド殿下、勢いつけすぎですわ!」
慌ててフリージアが【回復】をかけてことなきを得たが……。
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、ぼくのドラックがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」
大木はテイマーなのか可愛がっていたと思しきドラゴンが倒れたことで頭を抱え、発狂しそうなほど叫んでいた。
「貴様のドラゴンがどうなろうと知ったことではない。だが俺の臣下を傷物にしてくれた落とし前、つけてもらおうか!」
俺は大木の髪を掴んで睨むと大木の股ぐらが見る見るうちに黒く染まっていった。ドラゴンに咥えてられながら耐えていたオモネールは涙することはおろか失禁などしなかったというのに……。
―――――――――あとがき――――――――――
レールガンならガンダム SEEDというよりオルフェンズのような気もするんですが、そこはお許しをw
本作は主人公があれしたりするようなことなく、ハッピーエンドを迎える予定ですので、ご安心下さい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます