第68話 ゆとり世代 vs Z世代

――――【ブラッド目線】


「舐めんなっ!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 高橋は硬い両手剣ツヴァイハンダーがしなってるんじゃないか? ってくらい物凄い勢いで俺を滅多斬りしていた。


 もちろん、エッジを立てて……。


 一分ほど高橋の好きなようにやらせてみたんだが、目視で確認できる限り俺の身体に変化は……。



 皆無ッ!!!



 あまりに効かない攻撃すぎて俺は高橋という愛のクラスメートとじゃれ合ってるんじゃないか、とすら思ってしまう。


「一つ訊ねたい。俺と貴様は戦っているんだよな? 俺は決して貴様にレクチャーしてるわけじゃないよな?」

「なに言ってやがるっ!!! てめえになんぞ教わるわけねえだろ、カスがっ!!!」


 あとから、そんなつもりじゃなかった。「おれは戦闘する気なんてなかった」とか文句垂れられても困るので確認しておく。


 本気で愛のことが好きなら、まず二百キロのバーベルを担いでスクワット一万回をこなせたとき、愛の兄として実家の家の門の前に立つことを許そうと思っていたのに残念で仕方ない。


「いまなら全裸で土下座するなら……寛大な俺だ。貴様の命乞いを受け入れても構わんぞ」

「誰がてめえになんか頭を下げるか! 寝言も休み休み言え!!! この腐れ脳筋野郎が!!!」


 俺自身の強さが転移チーターと比較して、どれくらいなのか知りたいと思って発言したことが、ブラッドを介すると、とんでもなく挑発的な言葉に変換されてしまう。


 外見上の変化はないが溜まった政務の片づけで肩を中心に首や腰に凝りが生じてしまっていて、程よく叩いてくれたおかげで血行不良が改善、俺の戦闘準備は完全に整っていた。


「貴様はいつになったら本気を出してくれるんだ? 俺はそこまで暇じゃないんだ。さっさと異世界から召喚されたというチート能力を見せてくれ」


 眉間に青筋を浮かべた高橋はやっと本気を出すつもりになったらしく両手剣の切っ先を天に向けて高く掲げた。



過ぎゆく刹那の電光シュネルブリッツ



「おれのスキルを食らえばてめえなんぞ、そこに転がってる死体と同じにやる。おれを散々虚仮にしてくれたことを後悔させてやんぜ!」


 剣身にはバチバチと音を立て雷のようなジグザグの光がまとわりついていた。


「虚仮脅しか? そんな物で俺がビビるとでも?」

「ビビるとかビビらねえとか、どうでもいい! こいつを食らったらてめえはあの世ゆき確定だ、ゴラ!」


 厨二心をくすぐるようなスキル名に俺はワクワクを覚えた。スキル名からして、どんな速さで俺を斬りつけてくれるのかと期待したのだが、高橋の動きは蠅が止まってしまうんじゃないかって思えるほど遅かった。



 やっぱり避けたら、白けるかな?



 当たってやるべきか、避けるべきか。


 空気を読んでしまう悲しきゆとり世代の俺は高橋のおっそいスキルが来るまで逡巡していた。


 仕方ない、あの手で行こう!


 俺が決めあぐねていた対処を決断したその瞬間、剣が俺の眼前に迫っていた。


 その脇を通過する高橋。


 スキルを放った高橋は俺の後ろにいた。高橋は俺を確実にやったと思っているのか、忍者みたいに片膝をついて、俺とは反対の方向を向いている。


 案外ナルシストなのかもしれない。


 だがそうそう世の中は上手くいかないものだ。


「それでは自慰することも、自らの尻を拭うことすら、ままならんな」

「なに言って……」


 俺が剣身を両手でしっかり掴んでいるのにも拘らず、無理やり駆け抜けようとするからその力に耐えきれなくなって高橋の両腕は剣の束を掴んだまま残ってる。


 駆け抜けていった高橋は俺にドヤ顔を向けていたのだが、肘から先が無くなっている腕を見て……、


「お、おれの……おれの腕がぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 叫んでいた。


「いまさらだが教えておいてやろう。あまり強いスキルを使うと自壊することがある。身の丈にあったスキルを使いこなせ」


 やはり人の言うことは素直に聞かないと……。


 諸侯と兵士たちは俺の言葉を聞いていたのか甲冑を脱ぐ準備を始めていた。


 そっちかよ……。


「見たくもないエレファントを見せるなっ!!!」

「「「ええっ!? 言われたから脱いだのにっ!」」」


 素直に聞いた諸侯と兵士にブラッドはつくづく理不尽だった。


「脱ぐ暇があったら、その馬鹿を拘束しておけ」

「「「はいいいいぃっ!!!」」」


 俺だったら絶対嫌なシチュだ。


 全裸の男子に囲まれ、拘束されるのだから。


「現地人は弱いんじゃなかったのか? その現地人より弱い貴様は蛆虫以下の存在だな」


 両腕がなくなり、パニック状態の高橋を運び終えようとしたときだった。


「そこまでだ!」


 人を見た目で判断するのはあまりいいこととは言えないが、太っていて滑舌の悪い、いかにもオタクっぽい男の子が俺に呼びかけてきていた。


 その傍らには……。


「ブラッドさま……申し訳ございません……」


 顔に無数の青あざや切り傷を負ったオモネールがいた。傷だけでなく最悪なことにオモネールの身体は顔だけ出して、ドラゴンの口の中にあったのだ。


「抵抗は止めろ! 変な真似したらこいつをドラックが食べちゃうぞ!」


 シャコッ♪


 俺は休憩がてらポケットから取り出したリンゴをかじって、状況を眺めていた。


 あったあった。これならオモネールは無事助けられそうだ。


―――――――――あとがき――――――――――

コトブキヤ……アルカナディアシリーズでまさかのASMR界隈に参戦! ルミティアは本渡楓さん(防振りのメイプル役)、ヴェルルッタは岡咲美保さん(天スラのリムル役)とガチだった。恐らく他のディアーズも参戦するんでしょうw

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