第67話 今日から本気出してくれ!

「む、向きが変わったぁぁ!!!」

「こっちに来るなぁぁぁーーーーーっ!!!」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁーーーー!!!」


 俺に絡んできた高橋だったが、すっぽ抜けの末、縦回転で吹っ飛んでいった。途中で空気抵抗の影響なのか水平方向へと回転が変化し、ジークフリートを担ぎ上げた連中に襲いかかっていて、現場は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


 どっかで見たことのある光景だなぁ、と思い出してみるとクソ広告風を装っているのに中身は時間食い虫の良ゲー、ダダ○バイバーだった。


 高橋が通過した跡はかつて人間だった者のパーツがプラモのランナーから切り出されたみたいに転がってる。


 真っ赤に染まって口に出すのも憚られるくらい凄惨な光景が広がっていたけど、俺も死にたくないし、妹である愛に危害を加えられたら堪らない。それにフリージア姉妹になにかあればミーニャがこの大陸を吹き飛ばしかねないのだ。


 少なくとも高橋という男は放置しておけば愛に言い寄ってくることは間違いない。あんな男に愛を嫁どころか彼女……いやクラスメートにすらさせたくない!


 愛がクラスの男子について語ることはなかったから知らなかったが、知っていたら俺はモンスタークレーマーと化して学校に文句を言いにいっていたと思えるくらいあり得ない男子だ。


 前世では志半ばで潰えたが、転生した今なら愛が最高の男の子と結ばれるよう粉骨砕身で努力したい。


 愛に言い寄ってきた変な虫に猛烈な怒りを感じて、かつて俺に従っていた諸侯や兵士たちの屍を踏み越えることすら気にならなくなっていた。


 生き残った者たちは……。


「ブラッド殿下がお怒りだ!」

「裏切った者を許さないつもりらしいぞ!」

「今から謝罪すれば間に合うかもしれない!」

「いや、あのブラッド殿下だぞ、皆殺しにされるかもしれん」


 後々の処遇を巡って言い合いを始めていた。その中で裏切った諸侯の一人が核心を突いた言葉を口にする。


「じゃあ、戦って勝てる者はいるのか?」

「「「そ、それは……」」」


 KOもののパンチを受けたボクサーみたいにふらふらと立ち上がった高橋にみんなの注目が集まった。


衛生兵ヒーラー! 奴にMPが空になるまで【回復ヒール】を掛けろ!!!」


 ミトラという帽子を被り、鎖帷子くさりかたびらの上にサーコートを纏った衛生兵たちが一斉に高橋へ【回復】を掛けていた。


 すると数秒も経たない内にふらふらだった高橋は定まらなかった視線ははっきりと、おぼついていた足取りは力強いものへと変わっていた。


 回復した高橋は片腕で両手剣ツヴァイハンダーを持ち、切っ先を俺に向けて宣言する。


「さっきは油断したが、次はそうはいかないぜ! てめえをそこらに転がってる奴らと同じように細切れにしてやる」

「止めておけ、また同士討ちが起こるだけだ」


「うるせえ!!! てめえをやればすべて解決すんだよ、この脳筋クソ野郎がっ!」

「俺は貴様のように脱糞はしていないのだがな」


 血の匂いに混じり、鼻を突く茶色い毒ガスの臭気に流石の高耐久を誇る俺の鼻も曲がりそうだ。馬車で待機する愛たちはひそひそとなにやら話をしたあと、蔑んだような目で高橋を見ているようだった。


「格好をつけようとして漏らすなど……ぷっぷふっ」


 最後まで言おうとしたのだが、吹き出してしまい口にできない。


「てめえは絶対に殺す!!!」

「そんなにいきむとまた出てしまうぞ。ひり出す……済まん、間違えた。くり出すのは剣技だけにしておいてくれ。それ以上漏らされたら、困る」


 高橋はまた漏らしそうなのか俯いて、かなりお年を召したお年寄りのように身体を震わしている。


「ブラッド、そんなの早く倒しちゃって! 臭いのに近寄って来られたら迷惑だから」


 愛から声援をもらい、俺はうれしかった。思わず「愛! 俺は頑張る!」なんて返しそうになって慌てて手を口で覆った。


 するとクソ橋が顔を上げて、凄む。


「てめえ……鼻を塞ぐとかふざけんじゃねえぞ!」


 どうやら口を噤んだのが、高橋にとっては挑発に取られてしまったらしい。そんなつもりはまったくないのに……。


「そうよ、そう! 愛の言う通りですわー!」

「ブラッドさま、どうかお怪我だけは……」


 リリーとフリージアの声援には俺はただ拳を上げて応えた。


「花を摘みにいきたいというのであれば、三分間待ってやる。また漏らして糞尿を撒き散らして、飛んでいかれたらリーベンラシアはクソ塗れになってしまうからな」

「余計なお世話だ!」


 高橋は力を溜めている。


 うんこは溜めないでくれ。俺はそれだけを願った。


 三分が過ぎ、溜め終わったのか高橋は両手剣を頭上に掲げ、切りかかってくる。


「これがおれの最速最大最強の斬撃だっ!!!」


 小学生かな?


 高橋は頭上から斜めに剣を振り下ろした。


 勢い的には首を一撃で落としそうな斬撃だったが今から断頭台に掛けられても死なない練習にはちょうどいいと思い、食らうことにした。


 たぶん高橋くらいの斬撃で首を飛ばされてしまうなら断頭台で簡単に首は跳ねられてしまうだろう。


 高橋の持つ両手剣の樋がヒュッと音を立てながら、俺の首に迫る。


 そのとき見ている光景が急にゆっくりになる。



 ふと俺は思った。



 もしかして、俺もこいつと同じように転生したことでチート持ちなっていた? それにも拘らず、部位を替えながら毎日毎日欠かさず筋トレしたことで限界突破してしまったとか?


 それと並行してこの世界にあるありとあらゆる本を乱読したのだけど……。



 知力は25だ!



 体力9999に対して知力は25。20も上昇したことをよろこぶべきなのか? ちなみに犬のステータスを覗いてみたところ、20だった……。かつての俺は犬にも劣る知力だったらしい。


 ゴブリンはというと50。


 俺の知力はゴブリンの半分で出来ているらしい……。


 かといってステータス異常系の魔法に弱いかというとそうでもない。どうやっても防げないのはフリージアの【教誨室ラブブリズン】のみ。だからフリージアがムラムラすると俺は彼女に連れ込まれて、セざるを得なくなる。


 俺の首に当たった両手剣の感触は肩叩き棒とよく似ていた。


「一つ訊かせてくれ。今のは本気じゃないよな?」


 痛いどころか気持ち良い攻撃(?)を受けた俺は高橋に訊ねていた。


―――――――――あとがき――――――――――

話題になってるのか、なってないのか、いまいち分からないんですが、KADOKAWAがあの動画工房を子会社したそうですね。

動画工房と言えば、『未確認で進行形』のOPのOP揺れ神作画を思い出してしまう知力25の作者でしたw

なに言ってるか分からない御仁はとにかく公式があるのでYouTubeで見て下さい。見れば分かるさ!

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