第64話 友だち? 違うねー

 王都へ通じる街道を進んでいると逃げてきた人々と出会でくわす。着の身着のまま逃げてきた人たちも多く、最低限の荷物しか持っていないようだった。避難民に行く手を阻まれ、先に進むのもままならない。


「どうするしますの! これじゃ戻れませんわ!」


 立ち往生してしまった馬車の客車内でリリーが両手で頭を抱えて、悲壮な声を上げていた。フリージアは窓から負傷者がいないか心配そうに見つめている。


 王族の紋章が入った馬車にも拘らず、逃げ惑う人たちはそれに気づく者はいなかった。


 これじゃ、王都の様子を見に行くにもままならない。ブラッドならば剣を抜いて自国民を切り捨てながらでも前に進むだろう。


 いったい、どうすれば……。


 はっ!


 切り捨てる……それだ。


「狼狽えるな。道が無ければ作ればいい」


 俺は馬車を飛び降り、街道の脇の森へ入る。


「ブラッド、なにするの?」

「まあ見ておけ」


 愛が窓から顔を出して、俺を不思議そうに見ていた。と、妹である愛に格好をつけてしまったが、正直自信はなかった。


 俺は木の根元を蹴って、吹っ飛ばそうとしていた。全力で蹴れば木は折れるはず……。


 木の硬さがどれくらいなのか、確かめるためにつま先でこんこんとつつく。軽く、そう軽~くだ。



 ゴンッ!!!



「は?」


 つま先でつついただけの木は根っこごと抜けて、凄まじい勢いで吹っ飛んでゆく。どこに落ちたのかすら分からない。


「さすがブラッドさまです」

「うそでしょ!?」

「ムキムキブラッド大草原」


 フリージアたちが三者三様に感想を述べていた。


「俺がこんな身体になったのはすべてフリージアのせいだ」


 愛に正体がバレないように言い訳をしておいたのだが、なんだかフリージアを責めているみたいになってしまう。まあ間違ってはいないのであるが……。


 これ面白い!


 俺が木々を連続で蹴ってゆくとまるでマシンガンの弾が発射されたかのように吹っ飛んでいった。


「おっと少々早すぎたかな?」


 蹴りながら走っているのに馬が俺に追いつくのが辛そうにぜいぜいと息を切らしている。



 そのとき、ふと思った。



 俺は馬車に乗る意味があるのかと。もしかして俺一人で走って行った方が良かった? いやいやそれじゃ雨風が防げなくて、風邪を引いてしまうかも。


 脳筋は風邪引かないと思われがちだが、トレーニーは回復力を筋肉に全振りするから、免疫力が低下して実は風邪を引きやすい。


 他の人からしたら、どうでもいいことが頭の中で逡巡しているときだった。もう王都の外壁が遠くに見えたかと思ったら、紺色のブレザーを着て、だらしなくネクタイを下げ襟元ははだけた者たちが現れる。


 愛と同じ学校の制服を着た男子を見た途端、学校に行かせたくなくなった。いや、戻れるかも分かんないけど。



 はだけたシャツから覗くタトゥー。



 高校生なら普通そういう物は隠しておくべきだ。まったく最近の高校生は……。


 俺がコーンロウをばっちり決めた男子高校生に呆れていると、ポケットに手を突っ込みながら凄んでくる。


「それで攻撃してるつもりか? ああん? 木を投げて勝てんなら、楽だよなぁ」

「あれが攻撃に見えたのか? 悪いのは頭だけでなく、目も悪いとは残念な生き物を見た気分だ……」


「雑魚の現地人のくせしやがって、舐めてんんじゃねえぞ、コラァァァ!!!」


 原始人と現地人を掛けたんだろうか?


 今は現地人ではあるが、俺は現代人だったんだけどな。異世界の文化文明が明らかに劣っているかの発言に少々苛立っていると、いかにも不良高校生っぽい男子は俺の後ろにいる馬車に向かって、手を振っていた。


「愛ちゃ~ん!!! なんでそんなところにいんだよ! おれといっしょに来なよ! 現代人を奴隷にして、楽しく暮らそうぜ!」


 猿みたいな男子のアピールに愛は……。


「だれだっけ?」


 首を傾げていた。


 なんだ、ただのモブか。あんな奴が彼氏だと紹介された日には絶望して、電車に飛び込む……って、もう突き飛ばされたあとだったな。


「愛ちゃん、おれは高橋だよ! 戦士になったおれの格好いいところを見てくれ。こんな現地人、すぐにぶっ殺して、愛ちゃんを助けてあげる」


 人聞きの悪いことを言う。高橋という男子は、俺が愛を誘拐したみたいな口振りだ。


 誘拐どころか保護したと言って欲しい。


 おまえのようなクズから守るためにな。それが前世で愛の兄だった者の役目だ。いや使命、天命と言っていい。


「ブラッド、それは友だちじゃないしー、邪魔ならどけていいよー」

「はははは! 言われるまでもない。俺の覇道を邪魔するクソは肥溜めに棄ててやる」


「どうやったか知んねえが愛ちゃんを洗脳しやがって! 舐めんな、現地人がっ!!!」


 高橋は背中に背負った両手剣を抜くといきなり俺に襲いかかってくる。しかし俺の身体は自然に動き、高橋の斬撃を白羽取りにしていた。


「ウソだろ!? チート持ちのおれの攻撃が指二本で防がれるとか、あり得ねえって!!!」

「ククク、どうだ蟹挟みキャンサーシザースは?」


 俺は人差し指と中指で両手剣ツヴァイハンダーの剣身を捉えていた。


「ぬ、抜けねえーーーーーッ!!!」


 高橋は両手剣を引き抜こうと腕や肩、胴体を必死に動かしてもがいているが、一向に剣が抜けることはない。


 愛の底知れぬ能力には驚くばかりで、もしかしたら高橋という男子も凄いんじゃないかと危惧していたが、まったく大したことがなくて拍子抜けしてしまう。


「貴様は愛に声を掛ける資格すらないな」


 前世の妹に言い寄るハエに俺は言い放つ。もちろん愛には聞こえないように……。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、最近ですね、ラノベを読みまして勉強しました。その勉強内容というのはおセンシティブについてだったんですが……正直驚いてます。

とある作家さまからラノベだと限界突破できるよ~と聞いてたんです。叡智なタイトルのラノベだったのですが突破どころの話ではなくディープキスすら出てこなくて頭を抱えました。

推測なのですが同じKADOKAWAでもレーベルによりセンシティブの基準が異なるのかもしれません。カクヨムさまはかなり許容してくださっているということで……感謝感謝です。

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