第63話 裏切り行為

――――【ブラッド目線】


 欲望に正直に従うなら、股間が許す限り美少女たちの百合な戯れをずっと見ていたかった。否、股間じゃなくて時間だ。


 しかし温泉街の関係者が話していたブリューナク王国がリーベンラシアに宣戦布告したとなれば、悠長に温泉に浸かっている暇などない。


 すでに宣戦布告の噂は温泉街の方々に広がっているようで家財を積んだと思しき荷馬車に家族を乗せて、ひっきりなしに去ってゆく。みんな戦禍を恐れて、疎開しようとしているのだろう。


 王族であるブラッドならば、「逃げるな! 戦え!」などと言いそうだが、前世で庶民だった俺なら親父、お袋、愛を連れて安全な場所に逃げる。


 今なら愛、フリージア、リリーの三人を連れて逃避行……なんだか駆け落ちみたいで嫌だな。


 とりあえず三人を安全なところに逃がして、俺は辺境を開拓しながらスローライフを送るという選択肢もありだろう。



――――テルモエの町長の屋敷。


 足湯にもなっている広場の噴水の傍には町長の屋敷があった。家人が慌ただしく家財道具を運び出している中、俺は王太子を名乗る。


 家人は平伏するが俺がそのまま手を休めるな、と命ずると遠慮なく運び出しを再開していた。気持ちは王太子どころじゃないのだろう。


 唯一手の空いていた年少の執事……いやおそらく町長の息子に案内され、町長と面会していた。町長の執務兼応接室を見るに、壁に掛けられているであろう絵画などの金目の物はすでにない。デスクとソファーだけが辛うじて残っている。


「まさかブラッド殿下直々にいらしていたなんて」

「ああ、先日の植物モンスターとやらを見物に来ていた」


 町長ともなると俺の顔を知っているのだろう。町長はやたらと汗を掻いている。早く町から出たい気持ちと俺への恐怖心が板挟みになっているのかもしれない。


「逃げたい奴がいればさっさと逃がせ。いても邪魔になるだけだからな。貴様もそうなのだろ?」

「本当ですか!? 私は……」


 目を泳がせながら、返答に窮する町長。そんな町長に俺は助け舟を出した。


「俺も実は逃げようと……」


 俺が町長と同じ気持ちだったことを告げようとすると町長が暑がったため息子に窓を開けさせたために外の声が飛び込んできた。


「皆さま! ご安心ください! 逃げなくてもブラッドさまが私たちをお救いくださいます」

「そうよ、ブリューナクなんて怖くなんてないんだからね! ブラッド殿下が小指で一捻りよ!」


 んげ!?


 俺がオモネールたちと合流したら、さっさと辺境に疎開しようなんて考えていたら、温泉に浸かっていたはずのフリージアとリリーが噴水のある広場で盛大に演説を始めてしまっているじゃないか!


 愛はそんな二人に合いの手を入れ、見事にサクラをやっている。今まさに戦禍を逃れ、疎開しようとしていた人たちは足を止め、フリージアとリリーの演説に聞き入っている。


 ――――逃げようとしていたことが恥ずかしい。


 ――――おれは戦う!


 ――――国ためじゃない、家族のためにだ!


 ああああーーーーーっ!!!


 これじゃ俺が逃げられないじゃないか!!!


 相手の戦力も分からないのに無茶苦茶だ……。


「父上! ブラッド殿下が戦うということでしたら、僕も戦います!」


 えっ!? この子、なに言ってんの!?


 俺は戦うなんて一言も言ってないのに、町長の息子は幼いにも拘らず殊勝な想いを父親である町長に訴えていた。まだ十歳未満の子どもに戦う意志を示されては大人としては立つ瀬がない。


「ルーク……戦いは大人の仕事だ。おまえは母さんを守って逃げなさい。ここは私が守る」

「うむ、というわけだ……」


 こんな言い方は極力したくないのだが、実質俺のセフレとなってしまったフリージア姉妹……。二人に退路を断たれてしまった以上、戦うしか道はなさそう。


 源泉掛け流しを謳うテルモエ。温泉からの排水がまだ熱いのか、下水溝で湯気をあげていた。これが背水ならぬ排水の陣という奴かな?



 フリージア姉妹により否応なく戦うことを義務づけられてしまった俺。一旦王都に戻るための客車内で二人に理由を訊ねると……。


「ブラッドさまが負けるわけありません」

「ちょっとはブラッド殿下の格好いいところ、見せてよね!」


 なんて暢気なことを言っている。愛なら、もしかしてブリューナク王国について詳しく知っているかもしれないと訊ねようとしたが、俺は口を噤んでしまう。


 そんなこと訊いたら、すぐにブラッドが俺だと分かってしまうじゃないか!


「おっかしいなぁ……ねーぽんに聖女を任したのに、なんで戦争なんか仕掛けてくるかな? まあおにぃと愛の邪魔をする悪い子は許さないけどー」


 ねーぽん? ああ、愛の友だちの物静かな子のことか。って、もしかして愛たちはクラス転移してきた可能性もあるのか……。


 愛のつぶやきにより、愛側の事情も少しずつ分かってきたところで突然馬車が停止した。窓から外を覗くと負傷した騎士が下馬して、こちらに両手を振っていた。


 馬車が停車したことで駆け寄ってきた騎士は意外なことを口にする。


「王都が……王都がぁぁ……陥落しました!」

「なんだと!?」

「ビスマルク陛下の安否すら今は……」


 騎士は首を左右に振って、目に涙を浮かべる。


「王都には諸侯などの軍勢が集まっていたはずだ! そんな数日程度で落ちてたまるか!」


 フリージアが騎士に回復魔法を施していたが、俺が騎士の肩を強く掴んだことで、苦痛に顔を歪ませる。すぐに完治とはいかないらしい。


「その諸侯たちが問題だったのです。ブリューナクと手を組んだ諸侯はジークフリート殿下を担ぎ出して……」


 あいつ……。


 だがこれは好機だ。


 反逆者を一層するための……。


―――――――――あとがき――――――――――

執筆している時点でコトブキヤ『BUSTER DOLL ナイト DARKNESS CLAW』の予約日でした。なにかシステムに変更があったのか順番待ちで順次購入していく感じになってましたね。今回の特典が、なんとスク水パーツ!!! 作者、ボタンを連打しましたよw

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