第62話 ドキッ! ヤンデレだらけの混浴温泉2
元々がエルフの隠し湯ということで温泉街から少し離れた場所に露天風呂はあった。
露天風呂の周りを見るとその一角に小さな滝があり、湯気をもうもうと上げて熱々のお湯を露天風呂へ供給している。
また滝の上には世界史の教科書に出てくるローマの水道橋のミニチュア版みたいな石作りの橋がある。どうやらこちらが源泉で温泉街にはここからお湯を引いているらしい。
『フォーチュン・エンゲージ』ではフリージアとスパダリで訪れるイベントがあるだけなので詳しい背景はそこまで語られていないのだ。
なのに愛がやたらと詳しい……。
よほどフェイバリットなゲームだったのかな?
その割に俺の部屋に忘れていったりしていたけど。
俺が一人で露天風呂に入っていると俺の目の前を白とも銀とも判別しがたいもふもふが犬掻きしながら流れてくる。スイーっと俺の前を通過していった。いや、いまはお湯に浸かり、もふもふはしてないな。
「貴様、愛を見た途端にフリージアの陰に隠れてばかりだな。それでも最強を誇る聖獣か?」
「あいつはヤバい。魔王……いいや神に等しい存在なんだよ。あいつの前じゃ、ボクの尻尾が逆立ったまんまなんだから」
「愛が神? 貴様はなにを言ってるんだ。愛は俺の妹だ。神なわけあるか」
「ふ~ん、不遜だね。ボクにそんな態度をとっていいのかい? なんならあいつにキミが兄だってこと、バラしちゃうよ」
「勝手にしろ。俺はおまえみたいに愛を恐れていない。ただ昔の妹の雰囲気とは違うことに違和感を覚えているだけだ」
「ま、どうでもいいけどね」
それこそ成獣ともなればフェンリルであるミーニャはこの大陸すら吹き飛ばせるほどの力を持つことになる。そんなこいつが恐れる愛って……。
俺にとってはかわいい妹でしかないのに。
ミーニャは愛を恐れて、露天風呂へ逃げてきたらしかった。わざわざここに来るって俺よりも愛の方が苦手のようだ。
もふもふしてないミーニャはさながらイタチみたいに細い身体つきをしている。
「随分と貧相な身体をしてるんだな。俺がトレーニング方法でも教えてやろうか?」
「うるさいなぁ。ボクはこれで完璧なんだよ」
「そうか、俺がせっかく愛の弱点を教えてやろうと思ったのに……貴様はみすみす見逃してしまうとは残念だな」
「なにっ!? 教えて! 教えてってば!」
ミーニャはぷかぷかとお湯に浮いて漂っていたのに俺の言葉を耳にした途端、慌てて犬掻きをして寄ってきた。ぷにぷにした肉球で肩を叩いて懇願しているようだったが、俺が妹の情報をクソ生意気な畜生ごときに教えるはずもなかった。
「静かにしろ。誰か来る」
「ミャッ!?」
俺に頼み込むのに必死だったミーニャは人の足音に気づいていないようだった。なるほど、こいつも油断するということが分かり、安心する。簡単に破滅エンドにさせてたまるか! って、もんだ。
微かに落ち葉を踏む音がしたからと思ったら、大きなバスタオルをチューブドレスのように纏う三人の美少女が姿を現す。
もちろんフリージアたちだ。
「お待たせいたしました」
「別に待ってなどいない。一人でゆっくり浸かりたかっただけだ」
フリージアは湯船の前に来ると俺に深々と頭を下げた。それじゃ旅館の女将じゃないか! って突っ込みたくくらいに……。
頭下げる際、腰を折ったフリージアだが、彼女のふくよかな谷間がお披露目されてしまう。彼女の全裸は何度も見ているが、全裸では補給できない叡智成分だ。
温泉街の内湯、外湯ともに男女に分けられているのだが、露天風呂だけはエルフと令息の伝説に則り、混浴となっている。
三人が来たことでそろそろ風呂から上がろうと思っていたのに、フリージアの谷間のおかけで出るに出られない。俺の下半身はフリージアに反応してしまったから。
こんなグロテスクなモノを妹の目の前に晒すわけにいかなかった。フリージアに見つかりでもしたら、露天風呂でも一滴残らず搾り取られるに違いないのだから。
俺の心配をよそに、まるで銀糸を集めたかのようなフリージアの髪、派手なアニメキャラかと見紛うリリーのピンク髪、紫檀のように黒く輝く愛の髪……三者三様に美しい髪をまとめ、湯船へと浸かっていった。
リリーがつま先で湯加減を窺っている。
「まあ! 太刀魚が泳いでいます」
太刀魚? そんなものが温泉にいるわけがないと思った瞬間だった。
まさか太刀魚って!? 俺の下半身かっ!
これは明らかに俺の潜望鏡が狙われている。フリージアが大きく息を吸い込むとただでさえふくよかなのにさらに胸元が大きくなったような気がした。
そんなことしたら、愛に俺が完全にメス堕ちしたとか勘違いされてしまうっ!
いったいどうすれば、俺の名誉が保てるんだ?
湯船にフリージアの頬が浸かり、今まさに潜水を開始しようしていると愛が動き出す。
「おにぃ、なにしてんの?」
今まさに潜ろうとしていたフリージアの胸元を後ろから掴み、耳元で囁いていた。
「愛は知ってるんだよー。いくら筋肉を鍛えても乳首はよわよわってことを」
「ひっ!?」
フリージアのバックポジションを確保した愛はタオルの上から撫でてフリージアを責めていた。もうそうなるとフリージアは潜るどころの話ではない。愛に陥落させられそうになっているフリージアを見たリリーはとんでもないことを言ってのける。
「お姉さまの不始末は妹の私が拭わなくてはなりません。私がお姉さまの代わりに太刀魚を確保してみせますわ」
湯船へ顔を浸けたリリーだったが、なぜかすぐに浮上してきた。
「い、いやぁぁぁーーーっ! 見ないで、見ないでったらぁぁぁ!」
湯船から植物の蔦のようなモノが生えてきて、リリーを湯船から引き剥がしただけでなく、彼女の身体に亀甲縛りのように巻きついていた。リリーの肢体が縛られることにより強調され、美しい!
いやそうはならんやろ!!!
「愛分かんな~い。杉だから」
リリーを縛り上げた犯人と思しき人物をガン見するもすぐさま否定した。まさか愛は二人に嫉妬して俺に近づこうとするのを阻止した?
「とりあえず俺はあがる。良い湯だから貴様らは遠慮なく堪能していろ」
「えっ!? ブラッドさま、行ってしまわれるのですか!?」
「私を助けなさいよぉぉ!」
「おにぃ、もっと仲良くなろっ」
「め、愛さまぁぁぁ!!!」
「蔦がわらひのだいじなときょ、締め付けてくりゅぅぅぅっ!!!」
カオスな露天風呂からあがった俺はさきほどまでの温泉街とはまったく違う雰囲気に飲み込まれていた。
明らかに歩く人々の顔色は不安に怯えている。
――――おいおい聞いたかよ!
――――そりゃブリューナクだろ?
――――ああ!
温泉饅頭ならぬ温泉ケーキを売っていた露天で話し込んでいた温泉街の関係者の肩を掴み、訊ねる。
「おい、その話……詳しく聞かせろ」
俺は焦りからか、無意識の内にブラッドのような態度で関係者と接してしまっていた。
「なんでもブリューナクがリーベンラシアに宣戦布告したみたいで……」
「なんだと!?」
関係者は俺の剣幕に圧されながらも、辿々しく答えていた。
―――――――――あとがき――――――――――
温泉に入る際はタオルを湯船に浸けないようにしましょうw 本作はフィクションです。
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