第59話 妹との再会

――――【ブラッド目線】


 ビスマルクたちは謎のモンスターの襲撃に騎士団と諸侯を動員するか協議していた。俺も対応協議の場へ呼ばれてしまっている。


「国王陛下! いますぐ諸侯に総動員をかけ、謎のモンスターを討伐すべきです! このままでは王都へ迫るのも時間の問題」

「いやいや、モンスターの動きは神出鬼没。いたずらに兵を動かしても無駄というもの」


 大臣たちが喧々諤々けんけんがくがくと大声を張り上げる中でビスマルクは腕を組み、沈思黙考しているようだった。


 だが俺はそんな悠長なことをしている暇はないように感じていた。なにか今までの相手とはレベチではないかと不安が過る。


「ブラッド殿下、どちらへ!?」

「花を摘みに行くことすら、いちいち貴様らに伝えねばならんのか? 俺はこの国の王太子だぞ」


 俺が席を離れると隣にいた教育担当の大臣が訊ねてくる。


「行かせてやれ」

「しかし……」

「余か許可するのだ。不満か?」

「滅相もございません……」


 この子にして、この親である。割と理性的なビスマルクでも口答えする臣下には厳しい……。それはともかく目を閉じていたビスマルクが大臣を諭してくれたおかげで俺は退屈な会議の場から離れることができた。



――――王宮城門前。


「オモネール、ソンタック、コビウル! 貴様らに王都の守備を命ずる。なにかあればひげ親父に従い、戦い抜くのだ」

「私も殿下と共に!」

「オレ抜きでー、殿下を行かせるわけにはー!」


「ぼふぅ……水臭いですぞ、殿下! 我らは死ぬときは一緒と……」

「俺が死ぬだと? 戯け者め! そんなことを考える暇があれば兵をできるだけかき集めろ」

「ご、ご無礼をお許ししてくだされぇぇ……」


 俺を心配するあまり失言してしまったコビウル。鳩みたいに勢いよく頭をペコペコさせるものだから

オモネールとソンタックが笑う。釣られて俺も笑いそうになった。


「親父には適当なことを言って、ごまかしておいてくれ」


 急ぎで執事に用意させた馬車へ乗り込み際にオモネールたちに告げる。三人は御意と俺に敬礼で返していた。


 俺の見立てではオモネールたち三人が喧嘩することなく、この世界の敵と立ち向かえばラスボスの配下の四天王全員を合わせたくらいの強さはある。まず負けることは考えにくい。


 異世界から来たチーターでもなければだが……。



 臣下というより仲間となったオモネールたち。その三人は馬車が見えなくなるまでずっと直立不動で俺に向かって敬礼していた。


 守りたい、面白い仲間たちを!


 街道をひた走る馬車。王都周辺を過ぎると変わり映えのない麦畑が広がる光景に見飽きて、手持ち無沙汰になる。ふと馬車の客室に目を移すとブラウンの大きなトランクケースが積まれていた。


「なかなか気が利く奴がいたものだ」


 急ぎだというのに俺の衣装の替えを用意してくれていると思い、俺はトランクケースを開ける。


 だがすぐに開けたことを後悔した。


 なぜなら箱はパンドラならぬヤンデレが詰まっていたからだ。


「ブラッドさま! 私を置いて旅立とうなど許しがたい暴挙です。いついかなるときもブラッドさまと結合したいというのに……」


 開けた途端に手を取られ、引きずり込まれてフリージアからディープキスの洗礼を受ける。


「き、貴様は何を考えて……」


 言いかけて言うのを止めた。なぜならフリージアはこう返すから。


 ブラッドさまのお子を身ごもることです。


「ブラッドさまのお子を百人身ごもることです」


 フリージアの返答が俺の考えたことの百倍で草しか生えない。


「もういい、貴様はそこから出ろ」

「ありがとうございます」


 トランクケースの中を教誨室ヤリ部屋にでも変えられたら、本当にフリージアと結合したままにされかれない。


 トランクから出たフリージアだったが、俺はもう一つが気になって仕方ない。まさかまさかと思うのだが、もう一つのトランクケースには……。


「ブラッド殿下ね、早く開けなさいよ! 暗くて狭くて開けられずにいたらどうしようかと本当に怖かったんだから!」


 俺は思わず額に手を当て、天を仰いだ。


「貴様ら俺がどこに行くと思っているのだ! 俺は……」


 言いかけて途中でマズいと思い、口を噤んでしまう。


「どうせお姉さまと抜け駆けで種付け旅行に行くつもりだったんでしょ! このスケベ、変態、種付け魔! 私にもちょっとくらい……分けなさいよ」


 リリーの思考はフリージア以上におかしい……。


 変態から種付けされるのが好きなんだろうか?


 よく分からない性癖に辟易しているとフリージアが行く手を指差して、呼びかける。馬車の行く手には人が転がっていたからだ。


「まあ大変! ブラッドさま、リリー、あの方たちを救護してもよろしいでしょうか?」

「俺が止めろと言っても貴様はするだろう。好きにしろ、戯け者め」

「ありがとうございます」


 救護もなにも街道のど真ん中で倒れていたら、止まらざるを得ないだろう。


 街道に沿って倒れている兵士たちを手分けして救護しようとしたのだが、身体にまったく外傷はなく……。



 ――――ぐ~、ぐ~、ぐ~。



 ただ眠っているたけのようだった。いやまだ油断はできない。『フォーチュン・エンゲージ』には永遠に起きない凶悪なスキルを持った植物モンスターがいるのたから。


 その名も万年杉ミリオンシーダ!!!


 俺の危惧をよそにリリーは兵士の頬を孔雀羽根のゴージャスな扇子で遠慮なく叩いていた。


「ほら、寝てないで起きなさいよ!」

「ううう……はっ!? こんな美人の令嬢に起こされるなんて、ここは天国か!? 死んで良かった!」


「馬鹿言ってないで、起きたらさっさとそこをどいて! 通れないじゃない!」

「し、失礼いたしました!」

「失礼ついでにあんたたちのお仲間も起こしに行ってよ」


 リリーの起こした兵士はリリーに敬礼すると慌てて、寝ている兵士たちを起こし始めていた。


 なんだ……万年杉じゃなかったのか。


 俺が安堵したそのときだった。


 聞き覚えのある声が後ろからしたので、振り返った。


「あれ? なんでブラッドとフリージアが仲良く二人でいんの?」


 なっ!?


 振り返った先にはブレザーにプリーツスカートという見慣れた制服を纏ったJKがいた。


 なんで愛がここに居るんだよーーーーーッ!!!


―――――――――あとがき――――――――――

メガニケの夏イベのミニゲームが激ムズ! 作者が下手過ぎるんかな? とか思っていたら、他のちしかんさんたちもそう思う方が多かったらしく、改善されるらしいです。良かった良かった。

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