第57話 王国乗っ取り1
――――【ねーぽん目線】
ハンナさんが持ってきてくれたフェルトとお裁縫道具。お裁縫道具の入った箱はアンティーク調の装飾が施されていて、箱を開ける前から私をわくわくさせてしまう。
開けると赤いフェルト生地の仕分けに代々メイドさんたちの間で受け継がれてきたんだろうと思わせる年季の入ったブロンズの裁ちばさみと糸切りばさみ、それと針山、刺繍糸などが入っていた。
私が早速作業を始めると……。
「まあ! 聖女……南美さまは針仕事がとてもお上手なんですね!」
「は、はい……でもこれくらいしか得意なことがなくて、運動も勉強も……ダメでした」
「いえいえ、なにか一つでも得意なことがあるのは素晴らしいことですよ」
「ハ、ハンナさん!?」
私の後頭部に柔らかくて温かい感触が当たった。胸元にハンナさんの両手が回ってきたことで分かる。彼女は私を抱きしめてくれていたのだ。
友だちというより、優しい姉のように……。
そういえば、愛ちゃんから「ねーぽんは自己肯定感が弱々なー、もっと自信持っていいよー。愛が保証する」って言ってもらってた。でも私は愛ちゃんと比べて……とか思ってた。
「す、すみません……つい南美さまが妹のように思えて……」
「いえ、「ありがとうございます。うれしかったです、ハンナさんに抱きしめられて」
私はハンナさんにフェルトを使った裁縫を教えながら、二人で和気藹々と異世界での楽しいひとときを過ごしていた。
――――王宮庭園。
決して大きくはないけど、木々や草花の一本一本にまで手入れのされた庭園に招かれ、私はアレスと傘付きのテーブルの下で対面していた。
元いた世界じゃ浮いてしまうに違いない長く白いジャケット、肩にはゴールドの
「冷めない内に頂こう。南美は蜂蜜は好きかな?」
「はい……」
アレスは私のために蜂蜜をスプーンで掬って紅茶に入れてくれていたのだけれど、私は彼に見惚れてしまって、何杯も入ってしまう。粘度の増した紅茶に口をつけてみた。
甘すぎる……。
私が紅茶の入ったカップをソーサーに置くまで、微笑みながらアレスが見つめてくる。紅茶もだけど、こんなに甘くてしあわせになってもいいのかと思えるくらいだった。
「どうしたんだい? 身体が震えているよ」
「う、うん……」
アレスに感謝の気持ちを伝えたくて、気に入ってもらえるか不安でいっぱいだったけど、勇気を振り絞って言ってみる。
「アレス! ……あのね私お守りを作ってきたの」
「お守りとは?」
「はい……これ」
「もしかして、これは私と南美かな?」
「う、うん……でもこんなの子どもじみてるよね?」
「そんなことないよ。すごくうれしい。南美が私のために作ってくれたんだ。大切にするよ。それと私の人形は南美が持っていてくれないか? そうしたら、私と南美はいつでも一緒にいられる」
私がハンナさんと作っていたのはアレスと私のぬいぐるみ……。
恥ずかしかったけど、アレスは私を模したぬいぐるみを抱きしめて、目を閉じ感慨深げだった。
「南美……私からお願いがあるんだが……」
「うん、どうしたの?」
「ぬいぐるみじゃなく、南美もこうやって抱きしめたい」
「えっ? えっ!? えええーーっ!?」
「ダメ?」
「だ、ダメじゃないけど……私たち、まだその……付き合ってるわけじゃないから」
「私は南美と一緒に過ごしているうちにキミのことが好きになってしまったんだ。もちろん聖女なんて関係なくね」
「そ、そんな……急に言われても……」
「じゃあ、手に触れても?」
「そ、それくらいなら……」
私がアレスに手を差し出すと白い手袋を外して、直に素肌同士が触れていた。それだけで鼓動が音を立てて鳴ってるんじゃないか、と思うほど早くなってしまう。
男の子の手を触れるなんて……。
しかもただの男の子じゃなくて、アイドルなんか比べ物にならないくらいの美男子に。
でもそんなしあわせな時間は長く続かなかった。
私たちの目の前に横田さんたちが現れたのだ。彼女は私とアレスの交流を笑う。
「くっさ! おいおい、王子さまよぉ、おまえの目は腐ってんのかよ。いやいや根本にぞっこんとか、目じゃなくて頭もいかれてたか?」
だけどアレスは真剣だった。優しげな瞳は消えて、椅子から立ち上がり横田さんに本気で怒っている。
「私のことを悪く言うなら、ともかく南美のことを悪く言う者は何人たりとも許さない。いますぐここで南美に非礼を詫びるなら、一ヶ月の投獄と百叩きの刑で許そう」
「あははは! あたしが根本に謝るだって? 冗談きっつ!」
横田さんがお腹を抱えて笑うと周りにいたクラスメートたちも同じように笑いだした。
でもどうして?
愛ちゃんのおかけで孤立していた横田さんが堤くんを従えて、他のみんなも横田さんに従っているようだった。
「謝るつもりはないと……。ではキミたちをブリューナク王国から追放する!」
「はあ? 追放されんのはあんたの方よ! みんな、やっちゃって!」
「分かった」
堤くんがロボットみたいに無機質な返事をするとみんながアレスに向かって襲い掛かってきていたの。
「南美、私の後ろに下がっていてくれ。キミは私か必ず守る」
―――――――――あとがき――――――――――
作者はあまり多く本を読むタイプではないのですが、色々ありまして、ちらほら読んでます。そこで読者さまにお訊ねしたいんですが、叡智なタイトルで叡智なことを期待して書籍を購入、でも叡智じゃなかったら、金返せ~! みたいな気持ちになるか、ならないか教えて頂きたいのです。良かったらコメ欄にお願いいたします。
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