第45話 婚約破棄からのヤンデレ

 いくらフリージアが俺に好意を抱いていようとも、所詮は『フォーチュン・エンゲージ』における馬鹿王子ブラッドだ。


 まだ一人、フリージアの攻略対象スパダリが現れていないが、ジークフリート、アレックス、レオン、マクシミリアンの四人が集まった。まあレオンはゾンビ化してしまっているがフリージアにより復活は可能なので……。


 結果的に四人はちゃんと生きていることからも分かる通り、一応物語はシナリオ通りに進んではいる。なら確実に俺は最初の死亡フラグである婚約破棄イベントを迎えるだろう。


 だがフリージアの逆ハーエンドへ繋げられれば俺は確実に生存できるはず。と、同時にフリージアを苦しませないようある作戦を決行することにした。


 あくまで俺が過失があると彼女に思わせるために……。



「あは! なに? 私をこんなところに座らせて」


 ベッドの縁に座ったリリー。俺は頃合いをみて彼女を部屋に呼びつけていた。リリーに「フリージアのことで話がある」と告げただけで、彼女は約束の時間より前にすっ飛んできている。


 ちょっと人を小馬鹿にしたように片足を組み孔雀の羽根でできた扇子を広げ、扇ぐ仕草はいかにも高飛車といった感じで堂に入っていた。


 俺はそんなリリーの両肩を掴み、強引にベッドへ押し倒す。リリーが持っていた扇子は彼女の手から離れベッドの上に転がっていた。


 ピンクの髪色にツインテール、男を手玉にとってそうな容姿とは裏腹にリリーは処女のような反応を示している。顔を赤く染め、俺の顔を見るなり恥ずかしそうに目を背けたのだ。


「や……優しくしてくんなきゃ、ヤなんだから……」


 胸に手を当てて、少し怯えた表情のリリーを見てしまうと、なにかグッと胸に来るものがある。


 だが彼女は大事なことを忘れている。


 あくまでフリージアが俺から離れてくれるための演技であるということを。


「少しの間、我慢しろ!」

「えっ!?」


 俺はリリーの首筋に顔を埋めた。フリージアは爽やかな香りがするが、妹のリリーは甘ったるい香りがしていた。


「んんっ! くすぐったい……」


 リリーはぶるるっと小刻みに震え、かわいく鳴いた。気の強いリリーの仕草がいちいち初心うぶでなんだか俺の嗜虐心を刺激してきてしまいそう。いじめるといっても、もちろん優しくだが……。


 困ったことになった。


 早くフリージアに来てもらわないと演技のはずが本当の浮気になってしまいそうで、俺はただただフリージアが早く部屋を訪れてくれることを願った。


 俺の願いが通じたのか、しばらくしてフリージアが俺の部屋のドアを開けていた。


「ブラッドさまっ!?」


 口に手を当てて驚くフリージア。


「フリージア! 貴様との婚約を破棄する」


 だがおかしなことが起こった。本来、卒業式の日を迎えたときに婚約が破棄されるのだが、俺は自分の意思に反して、フリージアに宣言してしまっていた。


 完全に死亡フラグが発動してしまった形だ。


「ブラッドさま……」


 フリージアは俺の言葉に驚いたようで両手で口を覆い、動揺を隠せないようだった。


「あはっ! やっぱりブラッドさまはお姉さまより私を選んでくれたんですよ」


 リリーがフリージアに対して、マウントを取るかのように見下し、手を顎下に置いて今にも「おほほほほ」とお嬢さま風に笑い出しそうだった。



 フリージアが真珠のような涙をこぼしながら俺の部屋を去ったあと、俺とリリーは乱れた着衣を直し、ソファーで対面しながら話していた。


「本当にあれで良かったんですか?」

「今のフリージアなら良い男を選び放題だろう。リーベンラシアどころか、周辺国からフリージアを一目見ようと王侯貴族がお忍びで訪れていると聞く。

あいつは俺より他の男が相応しい」


「では私を選んでくださったんですね!」

「貴様も別の男へ嫁げ。まあその前にフリージアとちゃんと和解しろ。今の貴様ならば難しいことではなかろう」

「そんな! 急に言われても困り……えっ!?」


 部屋を出て行ったはずのフリージアが俺の部屋の窓から一瞬たりとも見逃さないようジーッと俺たちの様子を見ていた。


 俺たちの様子に気づいたフリージアはゆっくりと動き出す。なぜか施錠されているはずのバルコニーの窓は簡単に開いてしまった。どうやらフリージアはミーニャを使い、鍵を焼き切らせてしまったみたいだった。


 仕方ない、フラグ回避のために用意していた保険を使うしかない。


「リリーよ、勘違いするな。俺はどちらとも結婚するつもりはない」

「「えっ?」」


 二人が一斉に俺を見る。


 ミーニャよ、これでいいんだよな?


 俺が心の中で呟いて、ミーニャを見ると我関せずといった様子で呑気に前脚で顎下を掻いている。


「ブラッドさま……やはりそんなことだろうと思っておりました。リリー、嘘はいけませんよ」


 フリージアはソファーに座るリリーに歩み寄り、後ろから、肩に触れるようにして抱きついていた。リリーはかつていじめていた姉のフリージアを畏れて震えている。


「ブラッドさまが浮気なんてされてないこと……リリーの身体に訊いてみますね」


 リリーの大事なところへ指を這わせながら、フリージアはにっこりと微笑んでいた。だが俺に向ける眼差しはまったく笑っていなかった……。


―――――――――あとがき――――――――――

中華メーカーの美プラへの攻勢もスゴいですけど、グッスマも負けてませんね。従来のPLAMAX、新規のPLAMATEAに加え、VALKYRIE TUNEというシリーズまで企画してるようです。世はまさに美プラ戦国時代なのですよw

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る