第43話 悪行のすべてがバレる【ざまぁ】
フリージアは御者がドアを開けるのも待たず、自ら馬車のドアを開け、駆け出してくる。水色を基調とした涼しげな外出用のやや丈の短いドレスを身に纏い、足下は歩きやすいよう編み上げブーツを履いていた。
太陽の光がフリージアの銀髪を照らすと美しい輝きを放つ。まるで彼女がこの世で最も輝いているかのように……。
だが駆け寄ってきたフリージアは俺の目前で躓きそうになる。
俺はこの手でしっかりとフリージアの身体を受け止めた。ふわふわとしていて縫いぐるみのように軽い。
原作通り進行するなら俺は彼女を婚約破棄する。だから最低限の接触で、と思いつつも彼女の醸し出す幸薄そうな雰囲気からついつい世話を焼いてしまいたくなるのだ。
「なぜ来たのだ!!! 俺がモンスターを取り逃がしでもしたら、貴様はただで済まないというのに……」
「ご心配してくださるのですね」
「き、貴様の心配などしておらん!」
「私は信じておりましたから。ブラッドさまが魔物になど敗北するなどあり得ないと。そして必ず私の下に帰ってきてくださることを」
「ならば王都で待っておれば良いものを……」
「待てません……ブラッドさま抜きの生活など、もうあり得ないんです……」
「戯れ言を……。帰るぞ!」
「ブラッドさま……」
受け止めたフリージアを彼女の肩を掴み、突き放した。フリージアは胸元に手を当て、悲しそうに俺を見つめていた。
「オモネール、ソンタック、コビウル! 俺はフリージアの馬車に乗る。俺の馬は貴様らに預けた」
三人は深く頷く。
「なにをしている。早く乗れ」
「はい!」
俺が馬車の手すりを掴み、フリージアに手を差し出すと彼女は満面の笑みを浮かべ、俺の手を掴んでいた。
「や、やめろ! 馬車の中とはいえ、人前だぞ。キスしてくるな」
「私と一緒に馬車に乗ったということはブラッドさまもそのおつもりだったのでは? それに馬車の中だと……私、ムズムズムラムラして参ります」
女の子がムラムラとか言っちゃダメ!
フリージアがカーセックスみたいないけないことを覚えないように俺は帰り道、必死で説得し続けた……。
――――王都。
王宮に呼び出された俺は討伐の報告書をまとめていた。知力が僅か五でできるか不安だったが、どうやら魔法を使うときくらいしか影響してなさそう。
無事報告書をまとめると文官が回収にしにきて、しばらくすると俺の異世界での父親兼国王のビスマルク八世のいる玉座の間へと移った。
「はははは! 父上! この度のモンスター討伐はボクがやったんです。ブラッドは遅れて間に合わなかったんですよ。ただの馬鹿ですよね」
分かっていたこととはいえ、ジークフリートがビスマルク八世の前でさも自分の手柄のように得意満面でドヤる。よくもまあ、譲られた武功でここまで得意になれるなんて一種の才能なんじゃないかとすら思ってしまった。
俺の報告書を見たビスマルク八世はジークフリートの下へ歩み出し、奴の手を取る。
「そうか、よくやったな、ジークフリート……」
しかし、なにかおかしい。
息子が活躍したというのに、ビスマルク八世は簡単にジークフリートを誉めたあと、ずっと俯いていた。
だが急に顔を上げると眉間に皺を寄せ、烈火の如き形相でジークフリートを睨みつけている。
「などと言うかと思ったか! この馬鹿息子がっ!!! 貴様が嘘をついていることなど、すべて余の耳に入っておるわ!!!」
「ひっ!?」
ジークフリートは父親から突然叱責されたことに驚き、腰を抜かしていた。
「ジークフリート、貴様はブラッドがフリージアに同意なく性的暴行を加えているなどと嘘をついていたな! だがそれを覆す証言者が現れておるわ!」
ビスマルク八世が側近に声をかけると意外な人物が恐縮した面もちで玉座の間へと入ってくる。
「ガ、ガイル!?」
「やっぱり王族さまだったのか!?」
俺とガイル互いに人差し指を差し合う。ガイルは非礼だと思ったのか、人差し指をすぐに下げて跪いていた。
「なんで俺が王族だと分かったんだ……」
「ハンカチを落としていったから……それでもしかしたらと思って届けたら、こんなことになっちまった……」
「ガイルとやら、おまえはブラッドとフリージアの仲睦まじい姿を見たのであろう? 我が愚息に説明してやってくれぬか?」
「はいぃぃ!」
ガイルは国王から直々に声を掛けられ、恐縮しながらもジークフリートに俺とフリージアのデート内容を説明していた。ジークフリートは内容を聞きながら、ずっとギリギリと音を立てていたけど。
まだ自分の否を認めないジークフリートにビスマルクの第二の矢が
「そなたに問う。おまえたちを助けたのはかの者か?」
ビスマルクがジークフリートに指を差して老人に訊ねたが、俺が助けた老人は首を大きく左右に振り、ジークフリートではないと否定する。
「父上! こんな
「ほう、老人が嘘を言っていると申すか……」
「はい、ボクが父上に嘘を言うはずがありません」
はい、嘘松。
ジークフリートは得意気な顔をして、ビスマルクに自分は清廉だとはっきりと言ってしまった。面の皮が厚いとはジークフリートのような奴のことを言うんだと今、学んだ。
だが、ここまで来ると嘘を嘘で塗り固めるジークフリートがかわいそうになってくる。
「ではキスカ家のアレックスを呼べ」
「父上、お言葉ですが、アレックスはボクの盟友ですよ。彼がボクの不利になるようなことを言うわけないじゃないですか」
自信まんまんに胸を張るジークフリート。俺はおまえの空元気ならぬ空自信を見習いたい。
ビスマルクに促されたアレックスは、そのジークフリートの自信を完膚なきまでに打ち砕くような発言をし始める。
「陛下、その老人が言っていることは確かだと思います。悔しいですが、私たちはブラッドに助けられたのです。しかもジークフリートは……」
「アレックス! キミはボクを裏切るのか!」
「裏切ったのはジークフリート! おまえだろう。私はレオンの家族から責められたんだぞ。なのにおまえは知らぬ存ぜぬ……どっちが裏切り者か、答えてみろ!」
あーあ……。
とうとう盟友からも愛想尽かされちゃった。
ジークフリートはアレックスに反論が不可能だと思ったのか、俺に責任をなすりつけてこようとする。浅ましいにも程があるんじゃないの?
「ぜんぶ、ブラッドがボクの才能を妬んで仕組んだことなんだ! 父上、信じてください! ボクはブラッドにはめられたんです」
「ジークフリート、貴様は馬鹿か。俺にはめられることが分かっていたなら、なぜその対策をしない? そんな足りぬ頭では俺を追い落とし、フリージアを寝取るなど無理、無理、無理ぃぃぃぃーーーっ!」
「うわぁぁぁぁーーーっ!」
俺は煽ろうとしたつもりはなかったが、ブラッドによりジークフリートをことごとく
ジークフリートはビスマルクの前でうずくまって慟哭しているようだった。俺はさっさとこの茶番劇を終わらそうとジークフリートの肩に手をやったときだった。
俺の脇腹になにか強く圧されたような感覚が走る。確認するとジークフリートが隠し持っていたナイフで俺を刺しにきたのだ。
仕方ない、ちょっと小芝居に付き合ってやるか。
俺が脇腹を手で押さえ片目を瞑り、片膝をついているとジークフリートは大演説を始める。
「あっはっはっは! 父上! 見てください。ブラッドは父上を騙し、暗殺を企てていたのです。だから父上の手を煩わせるまでもくボクが誅殺して……」
はあ……。
知力一桁にも劣る知力とは?
あまりに高笑いするジークフリートが鬱陶しいので演技を途中で止めて、むくりと立ち上がるもジークフリートは顔面蒼白になって、言葉に詰まる。
「俺の外皮にナイフごときで傷をつけらるとでも思ったか?」
「馬鹿な! ただのナイフじゃないぞ、オリハルコン製の超高硬度なんだぞ! それが通らないわけが……」
「ジークフリート、ひとつ教えてやろう。愚か者とはな、失敗から学ばない者のことを言う。俺にそんなつまらない物が刺さると思ったか?」
俺の言葉を聞いていた者たちから、一斉に拍手が起こってしまっていた。
―――――――――あとがき――――――――――
ちょっと長くなったので自慰苦くんの末路は次回。楽しみという読者さまはフォロー、ご評価お願いいたしますね。
それにしてもブラッドは断頭台送りにされても普通に生き残りそうwww
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