第42話 魔物と対話……できませんでしたぁ!【ざまぁ】
――――マーツの町。
俺たちはモンスター愛護団体『熊を守護る会』を森に置き去りにして、町へと来ていた。
『熊を守護る会』メンバーに酒を振る舞うと「オレたちならブラッディベアと対話できる」だの、「かわいいから殺すな」などと文句を饒舌に並べ立て始めたのだ。
モンスターと対話できると豪語した彼らだ。
ならばモンスターの跋扈する森に置いてけぼりにしたとしても、咎められることはないだろう。
それにしてもオモネールたちの煽て上げは一級品だったな。彼らが『熊を守護る会』メンバーの話に相づちを打つだけで、酒がぐいぐい進んでいたのだから……。
俺たちはマーツの町長を務めるオットーの屋敷に招かれていた。そこでの食事会でのことだ。
町長の子どもたちだろうか?
俺たちに出された料理をドアの陰から指を咥えてみていた。母親が子どもたちの姿を見かけ、すぐに下がらしたが……。
決して裕福ではない町なのに精いっぱい豪華なおもてなしをしようとしている心意気に胸が打たれる。
食事をありがたくいただいたところで、オットーが切り出した。
「ほう、我々に討伐して欲しいと?」
「はい、子連れの個体……我々はエリザベスと呼称しておりますが、そのモンスターが暴れ山へゆくこともままなりません……」
「それならば無理だ!」
「そこをなんとか……」
「子連れの個体ならば俺の胃の中にいるぞ、ハッハッハ!」
「なんと頼もしい」
「俺が倒したわけではない。ワイルドボウと相打ちで果てていた」
「いやはやブラッド殿下の強運を分けていただきたいものです」
「俺の強運を分けることはできぬが、ブラッディベアとワイルドボウの肉は燻製にしてある。食うか?」
「もったいないお言葉。ありがたく頂戴いたします」
オモネールたちがオットーの子どもたちに腸詰めやベーコンなどを配っていた。
「ふははは! ガキども、肉を食って強くなれ! そして俺の配下として使ってやる」
「うん!
建築資材かな?
舌足らずな言葉で答える小さな子どもがとにかくかわいい。こんな子どもを見たら、フリージアがすぐに作りましょう! とか言ってきそうで怖いが……。
だがそんな微笑ましい時間をぶち壊す輩が現れる。俺たちがオットーと楽しく会談していると……屋敷がまたあの怪しげな団体に取り囲まれてしまっていた。
「モンスターにも心があるんだ!」
「モンスターと和解せよ!」
「モンスターとも分かりあえる!」
「モンスターと対話できるはずだ!」
窓から覗くと輩どもがプラカードを持って、シュプレヒコールを上げている。ブラッドでもないのに「ちっ」と舌打ちしてしまった。
オットーが深いため息を漏らす。
「このところ彼らは毎日やってきて、あの通りなのです……直轄領ゆえお役人さまに申し立てても、彼らの圧力に屈して……『おまえらで片づけてくれ』で済まされます……それで犠牲になった町民は一人や二人ではなく……」
「なるほど……。だが貴様は支配者としての覚悟が足りておらん。俺に任せろ」
「しかし殿下のお手を煩わせるわけには……」
「なに、ただの食後の運動だ」
オットーの屋敷から出た俺はオモネールたちに命じる。
「やれ!」
オモネールたちは愛護団体に怯むことなく、愛護団体のメンバーを取り囲む。
「オレたちを力で黙らす気か!」
「黙らすつもりか、と問うたか?」
「そうだ!」
「私はおまえらに帰れと言っているだけだ」
「オレたちが簡単に帰るかと思ったら、大間違いだぞ!」
メンバーたちはオモネールの忠告を聞くどころか、どかっと座り込みを始める。オモネールたちは全員檻に監禁してしまった。そこへ兵士たちに訓練がてら、子熊の追い込み猟をさせていると偶然にもこちらにやってきた。
子熊が兵士たちに追われて、必死の形相だ。
指揮官と思しき兵士が俺に報告を入れる。
「申し訳ありません! 仕留め切れず、こちらに逃げてきてしまいましたぁ!!!」
「いや素晴らしい働きだぞ、あとで褒美を出してやる」
「え?」
驚く指揮官だったが、俺たちが追い込むと愛護団体のメンバーを監禁した檻の中にモンスターのブラッディベアの子どもまで入ってしまう。
「頑張って対話してくれ」
幼体とはいえ、体躯はすでに二メートル以上はある。多少ころころしているが、大きさは前世のヒグマと大差ない。
俺が母熊を屠ってしまったことで、子熊は相当気が立っているのだろう。鋭い犬歯を見せて、愛護団体のメンバーを威嚇していた。
「だ、大丈夫だ……。オレたちは敵じゃない。おまえたちを保護しにきたんだ。な、だから怒らないでくれよ」
愛護団体のリーダー的存在の男がブラッディベアの子どもの前に出て、身振り手振りを使って融和を図ろうとしていた。
だが子熊は威嚇を続ける。
男は他のメンバーの視線を気にしながら、子熊へ一歩一歩近づいていった。
「どうだ? 対話できそうか? できないなら、早く言ってくれ。じゃないと貴様らの命が危ないからな」
「う、うるさいっ! 今、オレたちが熊と話してるんだ。余計な口を挟まないで、って!?」
男は俺に注意を逸らしてしまったが、気づくと腕を子熊にガジガジされている。
「あぎゃぁぁぁぁーーーーっ!!! いだい! いだぁぁぁぃぃぃーーーー!!!」
「このクソ熊っ! 離せ! 離せったら!」
「離す? 話すの間違いじゃないか?」
「話せるわけねえだろ! こんなモンスターと!」
メンバーの一人が本音を吐いてしまい、あっと思ったときは遅かった。
「ほら、そこに武器はあるぞ。死にたくなければ対話よりも先にすることがあるんじゃないか?」
対話、対話と言っていたのに腕を噛まれた男は真っ先に短剣へと手を伸ばし、子熊の額へと突きつける。ガツガツっと鈍い音を立てるだけで子熊は気にすることなく男の腕を噛み千切ろうとしていた。
「だ、誰かリーダーを助けにいけよ……」
「い、いやだ……死にたくないっ」
「誰だよ、モンスターと対話できるなんて言い出した奴は……」
仲間割れが始まろうとしていたが、子熊に取ってはただの餌の時間なのだろう。もう一匹の子熊がリーダー以外のメンバーのところへ向かってゆく。
「うわぁぁぁーーっ! こっち来るんじゃねえ!」
すると真ん中で噛まれ続けているリーダーを中心にぐるぐると子熊に追いかけ回されて、メンバーが逃げ惑っていた。
モンスターを守護らねば!
モンスターと対話できる!
そう豪語していた奴らの本性はこれである……。
この世界に動画配信があるなら、晒し上げてやりたいくらいだ。
「町長から聞いている。貴様らが討伐の邪魔をしたせいで町から多くの死傷者を出したそうじゃないか。だが俺は寛大だ。貴様らが見事子熊を討伐できたらなら、その罪をすべて許してやろう」
俺がそんなこと言わなくても『熊を守護る会』のメンバーは必死に戦っていたが、その結果は見るまでもなかった。
全員息絶えたところで『熊を守護る会』というネーミングが皮肉でしかない。本当は『熊から守護られる会』が良かったんじゃないかと……。
ただ多くの無辜の町の人たちが『熊を守護る会』の愚行により犠牲になっていたのなら、まったく同情の余地はない。
「良かったな。大好きな熊の餌になれたなら本望じゃないか」
ゴミ掃除を終え、帰宅の途につく。すると向こうから、リーベンラシアの紋章を掲げた騎兵と馬車がやってくる。
「ブラッドさまーーーーっ!」
馬車の窓から聞き慣れた声がしてきた。
「フリージア!?」
―――――――――あとがき――――――――――
今日中に10万字に到達できたらいいな。ということで、もうそろそろ一般公開は終わりと思ってたんですが……まさか★1000個も頂けるなんて、感謝の極みでございます。ありがとうございました!
また読んで頂けますと執筆の励みになりますので、よろしくお願い申し上げます。
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