第39話 仲間割れとは大変ですねw
「あー、オモネールさ、さ、さまのご命で助けにきてやっ、やりました」
なんとか身バレしないように出任せを言っておいた。巣穴のかなり広かったようで、中には四、五十人くらいの村人がいて集落全員が逃げ込んでいたらしい。
隠れていた人たちを代表して、一人の老人が前に出て、大きく頭を下げた。
「オモネールさまと言えば、ブラッド殿下の右腕中の右腕!」
腹心中の腹心と言いたかったのかもしれないが、なにかもやる。まるで恋人が右手の自慰苦みたいじゃないか!
老人は村の若い者に目配せしてなにやら小袋を持ってこさせた。今度はそれを俺に渡してくる。村人たち全員がその小袋をじっと見つめたあと、目を背けてむせび泣いているようだった。
「あ、あのこれは僅かですが……」
俺は突き返そうとするのだが、ブラッドが小袋を差し出している老人から引ったくるように奪う。ブラッドは意地汚く小袋の中身を確認したあと、
「ふん、こんな端金いらぬわ」
なんて酷いことを言ってのける。金貨が一枚もなく、銀貨が数枚と残りは銅貨だけの命からがら逃げてきた、なけなしのお金なのに……。
そんなこともあろうかと俺は筋肉手品を使い、目にも止まらぬ速さで小袋に手持ちの金貨すべてをぶち込んでいた。幸いなことに酷い言葉を前にして村人たちはうなだれ、俺を見ることがない。
「間もなく禍は去るであろう! このブラッド……オモネール……さまの腹心ブランドーによってな」
俺のポケットマネーを加えた小袋を投げ返した。そのまま立ち去るつもりだったのだが、老人が手を滑らし、地面に落ちた袋から硬貨がばら撒かれる。
「えっ!? オモネールさまと言えば、賄賂を要求されたり、領内を通過するときには必ず通行料を徴収すると聞いていたのに……」
「なんて額だ……。ただの臣下がこんな金額を持ってるなんて、あんた一体……何者なんだ!?」
「ブラッド殿下もパワハラ、モラハラ、セクハラとこの世のハラスメントをすべて集めたような恐ろしいお方だと聞いていたのに、わざわざ我々のような下々の者に配下を派遣させて助けに来てくださるなんて、聞いていた話と違う……」
ヤバい……。
やり過ぎた!
「俺は何も知らん! 文句ならオモネールに言え! ではさらばだ!」
「あっ!!!」
「お待ちくださいっ!」
俺は村人たちが引き止めるのを振り切り、ビレー高地へ帰還する。
こっそり戻って、筋トレをしているとオモネールたちが入ってくる。悟られないよう仮設のベッドで肘をついて寝転んでいると……。
「さすがブラッド殿下にございます」
「我らを信頼されてる証ですな、ボフゥ」
「ふん! 抜かせ」
「いえいえ、なかなかできぬことではありません」
「まだ片付いてないようだが?」
「申し訳ありません! 最小限の被害で敵を殲滅するとなると……」
「敵も去るもの……ボフゥ」
「ふん、まあ良い。貴様らも分かってきたではないか」
「「殿下?」」
「わざわざ俺の見せ場をお膳立てしてくれたのだろう?」
「そ、そうでございます!」
「さすが、殿下ボフゥ!」
コビウルが汗っかきなのは分かるがオモネールまでハンカチで多量の汗を拭っている。キミたち、絶対にお膳立てなんてしてないだろ。
とりあえず、誰も傷つかずに無事帰れればいい。
俺はムロフシを手に取り、最前線へと赴いた。だが考えられないことが起こる。
「ブラッド殿下が最前線にだと!?」
「これは督戦と同義! 退けば死あるのみ!」
顔が一瞬青くなった兵士たちはそんなことをひそひそ話していたが、コビウルが一言付け加えて事なきを得る。
「殿下は活躍した者に恩賞を与えると仰っているゥゥ、殿下のために命を捧げるのだァァ!」
コビウルは自らの私財を投げ打つ覚悟で持参の金貨を袋から取り出してバラけさせ見せびらかしていた。
「ウォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!」
――――半日後。
「まさか半日で片づいてしまうとは考えられませんぞ、ボフー」
オモネールが手もみしながら、俺をほめそやす。コビウルも誉めるが、キミ……もう太ってないから喋るごとにボフーと息を吐かなくてもいいんじゃないかと突っ込みそうになる。
「そう言えば、ソンタックの姿がないが……」
「奴めは殿下が勝利することを確信していて、自分に偵察の任が下ると読み、ブラギノール高原へ参っております」
おおっ! マジで行動が早い。
「やはり殿下は素晴らしい。我々に内緒でソンタックにご命を下すとは……我々、凡人とは出来がちがいますなぁ」
えっ? 俺は何も命令なんてしてないけど……。
「ボフゥゥ……その知謀、少しでも分けて頂きたいとこですぞ」
「コビウルの言う通りですな、はははははっ」
いやいや俺は何もしてねえから~。
「そうだ! 恐れいったか、俺の
何言ってんの!?
三人が勝手に深読みして、手回ししてくれたのにさも自分の手柄みたいに言っちゃうとか……。権謀術数に長けてるのは三人なのに。相変わらず、ブラッドはセコい。
――――三日後。
キャステル高原の集落の復興と撤兵作業をしていると大声がしてくる。
「ブラッド殿下ぁぁぁーー! ただいま戻りましたぁぁーー!!!」
「ご苦労!」
偵察に出ていたソンタックが戻ってきた。かなり早く戻ってきたので、もしかして失敗したのかも、とか思っていたら偵察の結果を語り始めた。
「奴ら、功を焦り過ぎてー毒沼にはまりました!」
ぶっ!
笑ってはいけない二十四時かな?
ソンタックの報告が普通、そんなミスあり得ないと思い吹き出ししまう。俺が笑うと三人も釣られて笑っていた。
「ブラッド殿下ならばー、生かしておくと思いました。なので薬草を飲ませておりますー」
「そうか、それでよい」
良かった~。
意外とソンタックがまともな思考をしていて。
「あろことかーブラッド殿下の婚約者であるフリージアさまに横恋慕するジークフリートめには、仲睦まじいお二人のお姿を見せて徹底的に悔しがらせる……ブラッド殿下はそうお考えになると思いましたので生かしておりますー」
前言撤回。
やっぱヒデえわ!
「今から殿下に奴らの仲間割れの詳細をーお伝えしたいと思いますー!」
ソンタックがまるで宣誓をするように手を掲げ、高らかに宣言する。楽しみにしていたのだろうか、オモネールとコビウルが拍手していた。
ソンタックがパンパンと手を叩くと檻のついた馬車が運ばれてくる。
「なっ!?」
檻の中ではジークフリートとアレックス、それと皮膚の色が紫色に変化したレオン、あの三人だけでなく……。
マ、マクシミリアン!?
あと誰か分からない女の子が乗せられていた。ソンタックは帰還中に怪しい者を捕らえていたらしい。
キミ、有能過ぎん?
「ジークフリートがすべて悪いんです」
「はあ? なんでボクが悪いんだよ!」
「なんでこんな奴と一緒に閉じ込めるのよ!」
「そ、それはこっちの台詞ですぅ……」
えっと……マクシミリアン、おねえみたいになってね?
もう情報過多で色々突っ込みどころが多すぎる……。
―――――――――あとがき――――――――――
これを書いている時点でちょうどブキヤの黒ガンナーの予約日であります。ただのカラバリ、されどカラバリ。肌色率が上昇するとこうも魅力がUPするのかと思ってしまいますねw 本作も肌色率を上げてけ~という読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。
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