第38話 超金メダル級のハンマー

 キャステル高原は王国でも有数の避暑地として有名で、原作でもフリージアとスパダリがバカンスに訪れたりしている。だが今はその面影はまったくと言ってよいほどなかった。


 家屋は破壊され、食い荒らされた家畜の骨だけが転がっていた。


「やってくれたな! オモネール、愚民どもはさっさと逃げ出したのか?」

「は! 我々が手配していた先遣隊により人的被害は最小限に留めております。ですが……」

「なんだ? 遠慮なく言ってみろ!」


「一部の者が逃げ遅れているようです」

「馬鹿者どもが! 愚民どもめ……」

「オモネール! 貴様ほどの男がなぜ動かん?」

「それが……大群に加え、凶暴極まりなく……」

「ふん、ならば捨て置け」


「殿下……。貴様らはこのジレー高地を死守せよ」

「そう仰ると思い、準備はできております」


 え? 俺の心の中、覗かれてる?


「ならばなぜ先に動かぬのだ! いちいち指示を待っているだけなら、幼児でもできるぞ」

「申し訳ございません! 殿下のお心配りを読めず、己を恥じております……」

「すぐやれ! オモネール!」


「は!」


 オモネールに命令すると部下にテキパキと指示を出し、優秀な将官って感じを醸し出していた。俺が感心しているとコビウルが手もみしながら近寄ってくる。


「殿下、例の物が用意できてございます」

「例の物か」

「はい例のモノ、にございます」

「そうか、では例の物を持って来い」

「は、ははー!」


 例の物って一体、なんだよ!


 俺はなにもコビウルから報告を受けてない。


 コビウルがサッと手を上げるとフリージアの絵画を運んできた人数の十倍の兵士たちが荷馬車を後ろから押していた。もちろん前は数頭の馬が牽いているが、馬だけでは重くて高原を登れなかったっぽい。


 まるで除幕式かのようにコビウルが荷物に掛かったシートを取り払った。


「【断罪鉄球ムロフシ】にございます。殿下に従わぬ痴れ者どもを断罪するにちょうどよいかと、ボフゥゥゥ……」


 それはあまりにも巨大だった。


 もしかしら十トンくらいあるかもしれない、馬鹿げたデカさの鉄球。


 なんか思い出した気がする。


 コビウルたちにハンマー投げで金メダルを取ったとある選手のエピソードを面白おかしく脚色しながら話したことを……。


 しかしだ! 


 ちょっと無駄にコストかけすぎじゃね?


「あとは貴様らに任せた。俺は疲れたので寝る」

「御意ボフッ!」


 ブラッドは捨て置けなんて言ったけど、俺は気になって仕方なかった。だけどオモネールやコビウルがキャステル高原で最も高い位置にあるジレー高地から退くようなことがあれば、高原周辺の辺境はおろか王都までそのままの勢いで攻め込まれるかも。


 オモネールたちがせわしなく動く隙を縫い、孤立した集落の救援へと向かった。


 もちろんムロフシ持参で。


 ただそのままではすぐにオモネールたちにバレるので、変装と鉄球の仕上げを行ってから……。


 あれだけの人数で持ってきたので、もっと重いなかと思ったら意外と軽くて拍子抜けする。それに農夫のおじさんでお馴染みのチーズスナックかな? と思うほど中身が空洞だらけに感じてしまった。


 俺は鉄鎖のついた巨大な鉄球をなるべく小さくしようとして、両腕で何度も挟み込んでおいた。するとどうだろう、熱を持ち始めて冷えずに燃えてるんだが……。


 なんとかバスケットボールくらいに圧縮して携帯性が増したムロフシを冷やすために振り回しながら、高原を駆け下りてゆく。


 プンプンと音を立てる俺のところに何事かと集まってくるモンスターたち。


 俺の周りを取り囲んでいたのは、ハイヲークに、シルバーウルフ、デモンズベア……。


 ああ確かにオモネールの言った通り、それこそ一匹でも王国騎士団の騎士が十人掛かりで当たらないと死んでしまうような凶暴な奴らだ。


 だけど俺の振り回している鉄球の範囲内に入った途端に奴らの身体は消え去ってしまう。それこそミンチになる暇もなく……。



 キャーーーーッ!



 モンスターたちを破壊していると叫び声が聞こえた。ちなみに俺の耳は筋肉を鍛えた結果耳たぶが可動するようになり、集音力がイルカ並みに上がっている。


 声のした方へ向かったら、なにか動物の巣穴なんだろうか? その穴の前にはデモンズベアが前脚を突っ込んでいた。デモンズベアの巨体ゆえ、巣穴には入れないようだったが、大きな爪で巣穴の壁を引き裂くように掘っている。


 グアッ!?


「邪魔」


 俺は巣穴の中を見たかったのでスキルを使い、瞬足でデモンズベアの隣に移る。デモンズベアは俺がワープしたかのように、いきなり現れたことに驚いていたようだ。


 だがもう遅い。


 俺がトンと軽くデモンズベアの肩を叩くと十メートルを超える巨体がテニスのスマッシュ並みの速さで大岩に衝突してしまう。いくら凶悪なモンスターと言えど、超高速で壁に衝突したらただで済むわけがなく、大岩は真っ赤に染まっていた。


 そーっと巣穴を覗いてみると奥に人がおり、震えていた。


「あー、オモネールさ、さ、さまのご命で助けにきてやっ、やりました」


 敬語を使おうとすると身体が全力で拒否して変な言葉になってしまう。


―――――――――あとがき――――――――――

初めてコス課金してやったぜ! はっはっは!!

バニーメアリーは宇崎月のような人妻感が凄いよねw 糸目も同じだし。ちょっと照れながら、乳揺れさせてるところとか控え目に言って最高です。

※宇崎月は宇崎ちゃんママです。

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