第36話 婚約者からのエロ画像

「覗いていたのか? 趣味が悪いな」

「いつまで経っても、ブラッド殿下が私のところに来ないのが悪いんだから」

「まさかフリージアに妬いているのか?」


 リリーは自分の胸に手を当て、半歩踏み出しながら反論する。どうやら癪に障ったらしい。


「この私がお姉さまになんかに嫉妬するとでも!」



「お姉さまもブラッド殿下も嫌い、嫌い、嫌い!」


「ではジークフリートなどどうだ?」

「はあ? あんなの問題外! おまけに私を襲おうとしてくるんだから。それに比べ、襲って欲しい奴は……」

「ん?」


「な、なんでもないわ! と、とにかく無事に戻ってきなさいよ。殿下が戻ってきたら、お姉さまより私の方が格上だってこと、教えてあげるんだから」


 女心は複雑だなぁ……。


 フリージアに嫉妬しながらも、ゲームとは違い彼女を心から嫌ってるわけじゃなさそう。むしろシスコンの気すらある。


 死亡フラグ回避のために俺は二人を仲直りさせようと思った。そのやり方はかなり過激だが……。



 リリーが去ったあとの部屋はすっかり火が消えたように静かになっていた。


 フリージアにキスされた唇に触れながら、思案していた。まだ完全覚醒とはいかないまでも、近い内にフリージアはその力をすべて目覚めさせることになるだろう。



――――キャステル高原。


 コビウルが進軍の段取りを万障繰り合わせていたため、総勢十万の兵力にも拘らず二週間以上掛かるところを、一週間と驚くほどスムーズに移動できていた。


 俺が現地に到着した頃には、すでに幕営テントが設営済みで、中に入ってお茶を優雅にすすっていた。


 すると……。


「伝令! ただいま、フリージアさまからのお手紙が到着いたしました!」

「寄越せ」

「は!」


 兵士から渡された手紙を開封し、読んでみた。


―――――――――――――――――――――――

 親愛なるブラッドさまへ


 いついかなるときもブラッドさまと時を過ごしたいと思っております。ですが私がいてはブラッドさまの邪魔になってしまうことが、もどかしくて堪りません。


 リリーがブラッドさまはいつ戻るのか、と私に訊ねてきます。それは一番私が知りたいということなのに……。


 なにもできない自分が悔しくて、情けなくて、実家にいたときのように辛い日々が戻ってきてしまったのかと思ってしまいます。もうブラッドさまなしでは私は生きてゆけないのだと確信いたしました。


 その太陽のように輝き、熱い眼差しで私の心も身体も溶かして、ブラッドさまと一つになれること、ただそれだけが私の想いです。どうか戦場にあってもご無事で戻られるよう毎日祈りを捧げています。


 なにもできない私ですが、ささやかながらブラッドさまに贈り物がございます。こちらは人払いをしたのち、夜のお供としてお使いいただけるとうれしいです。


       ブラッドさまの牝奴隷 フリージア

―――――――――――――――――――――――


 おい、差出人の名乗り口上がヤバいって!


 いつから俺はフリージアを牝奴隷にしたのか、教えてもらいたい。フリージアに呆れていると、幕営の外がなにやら騒がしい。


――――大きいからな。


――――出入口にぶつけないように気をつけろ。


――――慎重に慎重に。


 チベットスナギツネのような虚無顔になっていると、兵士たちがフリージアからの贈り物を幕営に入れようとしていた。俺の身長よりも高く、ギリギリ幕営の出入口の高さくらいある物体が運び込まれてくる。


 白い布で覆われているが、なんとなく察しはついた。おそらく絵画の類だろう。


「うむ、ご苦労」


 運んでくれた兵士たちを労う言葉をかけたのだが、なにか上から目線で偉そうになってしまう。


 だが……。


――――殿下にお声掛けしてもらった!


――――もっと恐ろしい方かと思ったのに。


――――控え目に言って神対応!


 去り際に兵士たちは拳を突き上げたりして、よろこんでいた。


 あ、あれで良かったのかな?


 一応フリージアから人払いをしてから見ろ、と指示があったので幕営の出入口の布を下ろして、外の視界を遮った。


 恐る恐る絵画と思しき贈り物の布を拭いさると俺は卒倒しそうになる。


「なっ!?」


 そのとき、はらりと幕営に敷かれた絨毯の上に一通の封筒が落ちていた。


 また手の込んだことを、と思いつつ開封すると便箋には……。


【女宮廷絵師に描かせました、私の裸体です。どうか、こちらで殿下の猛りをお鎮めください】


「……」


 これじゃLINEやらでエロ画像を送ってくるみたいな危ない子じゃないか……。俺はフリージアに一言もそんなこと頼んでないのに。


 ただヌードのフリージアはとてもけしからん。


 銀の髪はキラキラと光りを放ち、優しげな眼差しは俺だけを見ているような……って、よく見るとフリージアの瞳には俺がちゃんと描かれてるっ!?


 げ、芸が細かいな、おい……。


 西洋画家のゴヤが描いた「裸のマハ」のようにヌードでクッションの置かれたベッドに寝そべり、頭の後ろで腕を組んでいる。


 そのためフリージアの大きなおっぱい丸見え、陰毛までもろ見えという、すべて俺のためにさらけ出しているようだった。


 おそらく回避不能の婚約破棄イベントを迎えたとしても、俺はこのフリージアのヌード肖像画を手放すことはないだろう。控え目に言って、極上の出来映えだった。


―――――――――あとがき――――――――――

あと2万字で10万字かぁ……あまり伸びてないですが、サポーター限定が好調なので、一般公開は10万字で止めて、サポ限公開のみにしてもいいですか? 10万字時点で★1000くらいあったら、一般公開で投稿しますね(流石に無理だろうな……)

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