第26話 ゲーム内の最強職

――――【愛目線】


「おおっ! おおっ! なんか光だしたぞ」

「本当だ!」

「これって、ヤバくね?」


 愛とねーぽんの周りにいたクズメイトたちがざわつき始める。どこかで見たことのある光景。『フォーチュン・エンゲージ2』と瓜二つだ。クラス召喚に主人公が巻き込まれるんだけど、今は愛がみんなを巻き込むの。


「これって、異世界召喚じゃね?」

「やった、最強チート獲得できるじゃん!」

「ハーレム作ってやんぜ」

「きっしょっ」

「これだから猿男子は……」


 みんな異世界に行けば自分が主役でチート持ちみたいに勘違いしている。


 現実はそう甘くない。


 みんな、ねーぽんの手のひらの上で踊ることになるんだから……。


「はい、ねーぽん」

「愛ちゃん、これは?」


 魔法陣から目が眩むような強い光に視界が奪わるのは分かっていたから、用意していた道具をねーぽんに渡して、愛も装着する。


           ・

           ・

           ・


 最初は分からなかったけど、サングラスをかけていると異世界に転移する過程の強い光の中で個人に与えられるステータス情報が見えてくる。誰か分からないけど、何者かが強い光でステータス情報を隠蔽してるの。


 眩しさが和らいでゆくと見慣れた光景の世界に来てた。


「おお! 聖女さまの召喚に成功したぞ!!!」


 白いローブを着た召喚士たちが愛たちを取り囲んで、よろこびの歓声を上げてる。愛がサングラスを外した瞬間に駆け寄ってくる人がいる。


「なに、あのイケメン!」

「ちょっと格好良すぎるんですけど!」


 横田たちギャルがキャーキャーと、まるで推しをばったり街で見かけたような黄色い声を上げていてうるさい。


「え? え?」

「なんで岡田なの?」


 イケメンはそんな横田たちをガン無視して、愛の前で跪いた。


「ブリューナク王国第一王子アレスと申します。あなたのような美しい方が聖女でうれしい」


 女主人公の攻略相手であるアレスが愛の手を取り、手の甲にキスしてこようとしてきた。


 でも、愛は……、


「な、なにを!?」

「許可してないんだけど」


 アレスの顔を掴んで、キスさせないように阻止する。


「イケメンならなんでも許されるとか思んなー」

「なっ!?」

「てか、勝手に手に触れるとかもセクハラ」

「セクハラとは……」


 イケメンアレスの眉毛が八の字になってるから、かなり困惑しているみたい。拒絶されるとか一ミリも思ってないのがスゴいよ。


 ねーぽんは異世界に来たことより、イケメン王子に見惚れてしまっているみたい。


 良かった。


 愛はおにい一筋だから、アレスに好かれてもまったくうれしくないのだ。ねーぽんとアレスならいいカップルになれるかもしれない。


 だけど……。


「Code:069 ピープステータス」


―――――――――――――――――――――――

根本南美


種族 人間


職種 村人


LV 1


HP 6


MP 3


筋力 3


知力 4


防御力 2


魔防力 3

―――――――――――――――――――――――


 チートコードでねーぽんのステータスを覗き見る。まあアレスの行動から分かってた。ねーぽんは聖女どころかモブ扱い、おまけに数値も低い。


「はははっ! オレさまは勇者だ!」

「ふっ、私は賢者だな」

「私は魔導師だった~」


 クズメイトたちはお互いのステータスを見せ合い、キャッキャッと騒いでいた。


「おい、根本! おまえはなんなんだよ」

「む、村人……」


 ねーぽんも自身のステータスを確認したみたいでしょぼくれてた……。


「村人ぉぉぉーーーっ!?」

「ぎゃはははははははっ」

「や、やめてよ! いきなり笑わせないで!」

「やっぱり異世界に来ても私はダメなんだよ……」

「問題ない問題ない。愛はモンダイナイ博士!」


「愛ちゃん……?」

「ステータスオープン デバッグモード発動Code:537 上上下下左右左右BA!」


 素早く隠しコマンドを入力して、宣言した。


「岡田愛は聖女の権限を根本南美に譲渡する」



【岡田愛の要望を承認、根本南美を聖女と認定】



 天の声が辺りに響いて、クズメイトや召喚の間にいた人たちが何事かと周囲を見回してた。


―――――――――――――――――――――――

根本南美


種族 人間


職種 聖女

―――――――――――――――――――――――


「これでねーぽんは聖女だよー。放っておいてもねーぽんはイケメン王子たちからモテのモテモテ王国。馬鹿男子とマウント女子ももう怖くない」

「でも愛ちゃんは?」


 心配そうに愛を見つめるねーぽんの肩をぽんぽんと軽く叩いて、告げる。


「これって学祭の出し物、演劇と同じだよねー」

「えっ? 愛ちゃん、なにを言ってるの?」

「愛は杉役やるから。そして愛はソロプレイ勢。異論は認めない」

「愛さん、何を言って……」


―――――――――――――――――――――――

岡田愛


種族 人間


職種 杉


LV 1


HP 2500


MP 9999


筋力 1000


知力 9999


防御力 2700


魔防力 9999


固有スキル【みんな丸太は持ったな!!】

―――――――――――――――――――――――


 愛がみんなにステータスを公開すると、みんなは絶句してた。それも仕方ないかもね。


 引き留めようとするクズメイトや王宮の人たちをスキル【沈香じんこう】で眠らせた。



――――王宮城門。


「衛兵さん」

「ん、なんだ?」

「お願いがあるんだけどあの木の枝、もらっていい?」


「なんだそんなことか、勝手に持っていっていい……」


 許可をもらったんで愛が遠くから手をピッ、ピッと振ると木の枝がまるで植木の剪定をやったみたいに地面に落ちた。


「なっ!?」

「ありがとう!」


 愛は枝を拾って、王城の門をくぐって外に出る。久々だねー、ブリューナク王国の草原は。


 だってねーぽんは聖女になったことでクラスメートたちの生殺与奪を握ることになるんだもん。ねーぽんは王子さまに守られるし、もう愛がいなくても幸せに暮らせるよね。


「バイバイ、ねーぽん!」


 愛は『フォーチュン・エンゲージ2』のスタッフがおふざけで作った杉に転職し、おにいを探す旅に出たのだ。


 右手の小指を真っ直ぐ伸ばすと赤々と輝く光線が地平線に向かって走ってゆく。


 おにい、待っててね。


 愛はおにいとえっちして、今度こそおにいのお嫁さんになるんだから。


―――――――――あとがき――――――――――

チートキャラだった妹、愛たんw 加速するヤンデレは控え目に言って最強ですよ。

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