第24話 いじめっ子【ざまぁ】
――――【愛目線】
「ナムアミダー、ナムアミダー、ナムアミダブツ、ナムアミダブツ……」
今日はおにいの告別式だった。お経が読み上げられる中、父母は無言で耐えている。
父母がおにいの遺体の入った棺を見ていた。
「智っ! なんで俺より先に逝ってしまうんだ!」
「ううっ……」
私もそのあとに続き、おにいの遺体を見る。顔半分に包帯が巻かれ身体にはお布団がかけられていて、バラバラになっていたことを隠している。
不思議。
今までずっとおにいが入っていた身体を見ても涙があふれてこない。愛にはおにいに感謝する言葉しか浮かんでこないよ。だっていつでも、おにいは愛にとって最高のおにいだったんだもん。
おにい、よく頑張ったね。子どもの頃からずっとずっとおにいのこと好きだった。父母に叱れたときもおにいに頭を撫でられるだけで救われた。おにいに誉められたくて頑張っていたら、部屋が賞状とトロフィーであふれかえちゃってる。
ありがとう、おにい。
少しだけ待ってて。すぐにおにいの魂を追いかけるから!
おにいとの運命の赤い糸切れていない。おにいは遠くに行ってしまったけど、必ずまた逢えるって愛は信じてる。
――――数週間後。
おにい、今頃何してるかな?
むわっとした空気が籠もる梅雨入り前の教室の窓を開けると一瞬だけ涼しい風が吹き込んだ。それもすぐに止んで、また暑い空気が入ってくる。
お葬式のあと、おにいのところに刑事さんが来たけど、すぐに容疑は晴れた。おにいの元カノが浮気相手の子どもを身ごもり、それで揉めて元カノは殺されちゃったらしい。
浮気相手も逃げる途中事故って死んだって、おにいの会社の三迫さんが教えてくれた。あとおにいは元カノの浮気相手に背中を押されて、殺されたって……。
やっぱりおにいは優し過ぎたんだよ。
元カノに裏切られたのに……。
あの人はおにいの魅力なんて何一つ分かってなかったんだよ。
でも愛はおにいの良いところ、全部知ってる。
私の大事な時間を奪うような声が聞こえてきた。
「おいおい、根本がラノベ読んでんぞ」
「ウケるぅ! あんたが主人公になれるとか馬っ鹿じゃないの? 夢見過ぎ~」
「違いねえや! はははは!」
「か、返して! 返してください!」
愛がおにいに想いを馳せていると陽キャどもがまた集まって、ねーぽんをいじめてる。誰が何を読もうが勝手だし、自分たちだけで騒いでいればいいのに。
陽キャどもは金髪碧眼のイケメン王子さまキャラが黒髪に眼鏡、紺色のプレザーの制服を着た女の子をお姫さま抱っこしている表紙のラノベをねーぽんから取り上げている。
「それ、愛がねーぽんに貸した異世界恋愛の本なんだけど」
「え? これ愛ちゃんの?」
「そう。破れてたりしたら、買い直してもらえる? あざぜるあさみ先生のサイン本だから十万円くらいするけど」
「ご、ごめん……」
「なに、簡単に渡してんのよ!!!」
金髪にネイル、はだけたブラウスと短いスカートとギャルセット盛り盛りの横田が井川にキレてる。でも横田はねーぽんのこと笑えないからー。
「横田ってBLばっか読んでんだもんねー。あれかな、井川と高橋のカップリング見てにやつく変態なの?」
ぎょっとした男子の井川と高橋が横田を見る。
「ち、違うからっ! なにふざけたこと言ったんのよ! あたし、BL趣味なんてないから!」
「ふ~ん、マロンブックスに入って、R18の同人誌こそこそ漁ってた子、見たことあるような」
横田の隣にいた井川と高橋はいつの間にか離れていて、愛たちの前には横田だけがとり残されていた。
「まだなにかある? いいBL本あるよ、電子だけど」
「岡田ぁぁ……あんたは許さないんだから!」
「別に横田に許してもらわなくていいよ。愛はなにも悪いことしてないし」
横田はぷりぷりと膨れ愛たちの前から立ち去るときに誰もいない子の席を蹴飛ばしたけど、椅子が跳ね返ってきて、向こう脛を打って悶絶してた。
アホの子かな?
愛が椅子にすら馬鹿にされた横田を笑っているとねーぽんが愛の袖を摘まむ。なんかちっちゃい子どもみたいで、ねーぽんかわいい。
「あ、ありがとう……また愛ちゃんに助けられた」
「んー、なんか横田たちがガキ臭くで分からしただけー。それよりもねーぽんは異世界に行きたいの?」
「あ、うん……行きたいというか、憧れてるというか……」
「ふーん。じゃ、愛と一緒に行く?」
「えっ? 愛ちゃん、なにを……?」
愛はねーぽんさえ良ければ、異世界転移の儀式をしようと思ってた。それにはねーぽんの協力が不可欠だったから。
―――――――――あとがき――――――――――
執筆している現在の話になります。カクヨムに影響はないようですが、KADOKAWAへのサイバー攻撃によりニコニコ動画や各種レーベルのサイトが閲覧できない状態が続いております。この希望のサイバー攻撃をできるのって、一体……。
全力で復旧に当たられているスタッフの皆さま、大変お疲れさまです。ご無理のないようお願いいたします。無事復旧され、また楽しいコンテンツをお待ちしております。
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