第23話 羨ましがる妹

――――【リリー目線】


「なんなの、あの強さ……」


 なにも努力してない無能って聞いていたのに、全然違うじゃない。いえ、確かにブラッドはなにもしてなかったわ。


 そうジークフリートが勝手に自滅しただけ……。

 

 ジークフリートのコネを使い、姉のフリージアと共に王立学院に入学したけど……。そこで見たのが、姉の婚約者ブラッドの馬鹿げた強さだったの。


 なんだっていうのよ!


 あのフリージアの得意気な顔……あれじゃまるで本当の王妃さまじゃない!


 それにしても、怖いのはブラッドよ。


 どうして、私が彼に気かないのに近づいたって、分かったの?


 人の心なんて全く読めそうにないブラッドが私の本心を見破ったことを訝しんでいたら、フリージアが明るく手を振りこちらにやってきた。


「リリー! 久しぶり」


 まるで別人じゃない!


 フリージアの方から声を掛けてくるなんて。それに家では見せたことのないような明るい笑顔……。てっきりブラッドに殺されると思っていたのに、この様子だと本当に溺愛されてるんじゃ……。


 昔、彼女をいじめていた私への当てつけなのかしら?


 だったらヤバいじゃない!


 フリージアが王妃になんてなったら、私の人生が終わっちゃう。暴君まっしぐらのブラッドにフリージアが一言「エルナー伯爵家を潰して」と言われてしまったら……。ツーっと脇を流れる冷たい汗で身体が震える。


 ここで下手にフリージアを刺激してはいけない。


「あら~、お姉さま! ご無沙汰しておりました。王宮での暮らしはいかがですか?」

「うん、とってもいいの。ブラッドさまを始めとしたみんなが良くしてくれるから」


 フリージアがブラッドと口にした瞬間、頬が赤く染まる。この女は本当にあの男のことが好きなんだとすぐに分かってしまった。


「よ、良かったですわ。私心配でしたの。お姉さまがブラッドさまに何か酷いことをされていないかと……」


「リリー、良く聞いて。ブラッドさまは不器用なところはあるんだけど、そのお心は誰よりも優しいわ。いつも私のことを気遣ってくださるの。みんなが言っていることは……」


「フリージア! なに油を売っている。用が済んだら、さっさと王宮へ帰れ!」

「はい、申し訳ありません……ですがブラッドさまの勇姿が見たくて」


「馬鹿者がっ! 貴様は聖女の資質を……な、何でもない。体調が優れないなら、こんなところに来るな」


 聖女? いまブラッドはフリージアのこと聖女って呼ばなかった?


 も、もしかして……フリージアが拾ってきた汚い犬みたいな獣はまままままま、まさか……。


 それにしてもなんなの!?


 これじゃフリージアの言う通りで、まるで妊婦を気遣う夫じゃない!!!


 なかなか動こうとしなかったフリージアの前をブラッドが歩き去ると、ブラッドを追いかけてフリージアがスカートの裾を上げて追いかける。


「あっ」


 フリージアがつまずいて、身体が前に投げ出されようとしていた。


 いい気味。


 フリージアの分際で私より幸せになるなんて許さないんだから!


 転んで流産でもすればいいんだわ。


 私がそう思ったときだった。


「えっ?」


 私はフリージアを二度見した。フリージアの身体はいつの間にか、まっすぐに立っており、転びそうになどなっていない。


「ありがとうございます、ブラッドさま!」

「なんのことだ?」

「私を抱き起こしてくれたことです」

「寝言は寝て言え。馬鹿なことを言ってないで早く寝ろ」


「はい!」


 口は悪いけど、フリージアはブラッドに愛されている……。


 く、くやしい……。


 貧乏たらしくて、貴族の令嬢失格と思われたフリージアがすべて私から奪ってゆく。男も地位も名誉もお金も……。


 込み上げる姉への憎悪からハンカチの端を噛んでしまう。悪い癖だとお母さまから指摘されてるけど、今日ばかりは止められそうにない。


 私が悔しさに耐えているとジークフリートが女々しい声で床に這いつくばって、手を伸ばしていた。


「フ、フリージアァァーっ、行かないでくれ……」

「なにしてるの?」

「うっく……うっく……ブラッドに負けてしまったぁぁ……」


 本当に情けない男……。


 ブラッドがとんでもなく無能で残虐な男だと聞いていたから、お父さま、お母さまに泣きついてフリージアに婚約者の話を振ったけど、ジークフリートなんか比べ物にならないくらいいい男じゃない!


「ジークフリート! いい? あなたはフリージアをブラッドから寝取るの。私は失意のブラッドに声を掛け、彼を物にする。だから情けなく泣いてないで立ちあがんなさいよ」

「あい……」


 涙たけじゃなく鼻水まで垂らして、悔し泣きするジークフリート。これじゃ折角のイケメンも台無しよね。


「ふははははは! 無様だな、ジークフリート! 


 ジークフリートに言われるまでもなく、王位継承権第一位のブラッドの妃の座は狙っていたけど、本気で彼のこと……好きになりそう。


―――――――作者からのお願い――――――――

いつもお読み頂き、ありがとうございます。またギフトまで頂いてしまい、恐縮です。恐縮ついでに申し訳ないのですが、よろしければ「文章の下にある」👍️グッドボタンを押して頂くか、ご感想頂きますと作者のやる気が倍増致します。どうかお願いしてばかりですが、よろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る