第20話 婚約者の気持ち

――――【フリージア目線】


 王宮に来て早五年……。


 こんなにも幸せでおだやかな日々を送れるとは思いませんでした。


 ミュミュミュ?


「うん、ブラッドさまはお優しい方よ。ミーニャも知っているでしょ?」


 ミュッ!


 私の膝の上に乗り、その長い鼻先で頬ずりしてくる甘えん坊のミーニャに言い聞かせると、二本の脚で立ってかわいく返事しています。


 気難しく悪逆非道、尚且つ無能と聞いていたブラッドさまはうわさとはまったくと言って良いほど違っていたのです。私を腫れ物のように丁寧に扱い、大切に守ろうとしてくれていました。


 つい先日もお父さまとお継母さまが私を連れ戻そうと現れたときもそうです。


『いつまでも王宮にフリージアを住まわせるわけには……』


『ん? 貴様ら俺に意見するつもりか? エルナー伯爵、貴様も偉くなったものだなぁ。フリージアに聞いたぞ、後妻を娶ったかと思ったらメイドと……』


『ブ、ブラッドさま! 私、急用を思い出しました。ど、どうか、フリージアがご迷惑をおかけいたしますが、お世話のほどお願い申し上げます』

『あなた! ちょっと! フリージアの代わりにリリーを……』


『馬鹿者! 今は帰宅することが先決だ!』


 そのあと私がブラッドさまにそのことを訪ねても……。


『エルナー伯爵夫妻が訪れただと? 貴様は怖がり過ぎて悪い夢でも見たんだろう。寝ぼけていないでさっさと王妃教育でも受けてこい』

『はい!』


 私はただ元気よく返事をすることしかできませんでしたが、心の中でどれほど感謝したことでしょうか。


 どんどんと私の心の中でブラッドさまの存在が大きくなっていきます。そしてブラッドさまのあそこも大きく……。


 見つめるだけで火が出そうになるくらい恥ずかしいのに、少しでもブラッドさまに気に入っていただきたい、そう思うと小説の中に出てくる娼婦のようなことを行うことに抵抗がなくなっていました。


「ミーニャ、ごめんなさい。しばらくこれで遊んでね」


 ブラッドさまがミーニャのために用意してくださった回し車というおもちゃにミーニャを乗せました。ミュッと返事をしたかと思うとミーニャはカラカラと音を立てて、円筒の中を走っています。


「よかった、そんなに楽しいのね」


 これで心置きなくブラッドさまに想いを馳せることができます。


 ブラッドさまの立派なモノを舐めたり、咥えたり、吸ったり……想像するだけで身体が火照ってきちゃう。


 早く私の中に……。


 スカートを託し上げて裾を口で咥え、下着を撫でる。それだけに飽きたらず、私は下着を脱いでしまいました。


 トントン♪


「ひゃっうん!」


 突然部屋のドアがノックされ、ドアの向こうから声が響いてきたのです。


「フリージアさま、お茶のご用意ができました」

「ありがとうございます」


 びっくりしました。


 声の主はメイドのカタリナさんです。さっと口に咥えていたスカートを下ろしました。


 ですが下着はつけません。


 ブラッドさまに見つかり、罵って欲しいのです。


『貴様は下着も穿かずになんと淫乱な令嬢なのだ!!! 望み通り、犯してやるっ!!!』


 私の下半身を見たブラッドさまは本能に赴くまま、私の身体をむさぼる……。私は晴れて、ブラッドさまの慰み者となるのです。



 そう思うと蜜が唇から漏れちゃう……。



 カタリナさんに見つかったら、ブラッドさまに知らされてしまう。


 ああ……。


 そうなれば私はブラッドさまに呼び出され、分からせられてしまうのです。


 手慣れた手つきでティーポットからカップに紅茶を注ぐカタリナさん。王室のメイドさんは容姿にも優れ、仕草が美しいだけでなくてきぱきと仕事をこなされる。


 ブラッドさまが私にお手を出されないのは、もしかしてメイドさんたちの方にご興味が……。


 そう思うだけで胸が痛い……。


 かわいらしいカタリナさんを見ていると、意外にも彼女は私に興味を示してきたのです。


「フリージアさまの髪は本当に綺麗ですね」

「えっ!?」

「お継母さまから私の髪は忌々しい魔女の髪と罵られる日々でした……」

「も、申し訳ございません!」


 私付きのメイドのカタリナさんは平謝りしていて、逆にこちらが申し訳なくなる。


「あ、いえ……気にしないでください。こちらではカタリナさんのように誉めてくださる方ばかりですので……」


 ドレッサーの鏡に映る私の顔は恥ずかしさからか、真っ赤になっていました。そんな私を見たカタリナさんは、手を組み合わせて祈るようなポーズで悶えていました。


「ああ、フリージアさまは本当に天使のようです」


 紅茶のお代わりを注いでいたカタリナさんが教えてくれたのですが……。


「そういえばブラッドさまはフリージアさまがいらっしゃってからお変わりになられました」

「私が来たことで変わった?」


「はい、とても優しくなられました! 厳しいことを仰るのですが、その言葉の奥には人を思いやる想いにあふれているのです。また常にフリージアさまのことを気に掛け、私たちに『フリージアはどうしているか?』と訊ねられますので」


 口に手を当て、カタリナさんはふふっと笑われていました。


 ブラッドさまはそんなにも私のことを……。


 ああ、やはり私にはブラッドさましかいないのです。愛されていないなどと疑いを持ったことが恥ずかしくなってしまいました。


―――――――――あとがき――――――――――

たくさんのフォロー、ご評価、ありがとうございます! ようやく五万字ほど書けました。この調子で残り五万字を書いて完結させたいと思います。それまでお付き合い頂けたらうれしいです。

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