第17話 聖女令嬢の溺愛

 ムニュッ。ムニュッ。


 なんなんだ、いったい?


 唇に触れる生暖かくて、柔らかな感触。感じた瞬間、ふっと前世のことが俺の中に蘇ってくる。



『愛がおにいに、キス?』

『ああ……なんか不思議な夢で感触だけがやたらリアルなんだよ』


 前世の妹、愛と実家で同居していたときのことだ。ちょうど俺の就職が決まり、実家を出ようとしていた頃だったと思う。


『きっとタロがおにいを舐めてたんだってー』


 確かにその線がないとは言いがたい。


 タロとは実家で飼っていた柴犬で、特に俺に懐いてよく顔を舐めにきていた。だがタロに寝ているときは舐めないよう俺は叱っている。タロはとても賢いわんこだ。


『ねー、タロ』


 バウウゥゥ!!!


 愛がタロの頭を優しく撫でながら同意を求めると、タロは全力で首を左右に振り否定しているように思えた。


『ふ~ん、タロ……お夕飯抜きでいいんだ? せっかくタロの好きなお肉買ってきたのに』


 愛がタロの耳元で囁くとタロはビクンと反応して毛並みが総毛立つ。


 バウウゥゥ!!!


 タロはまた全力で首を左右に振っていた。そんなタロの前で愛は人差し指をピンと立てて告げる、まるでクイズ番組の司会者のように。


『じゃ、もう一回だけチャンスターイム! タロがおにいの顔舐めてたんだよねっ?』


 バウッ! バウッ!


『愛がおにいの部屋に入ったことも見てないよね?』


 バウッ! バウッ!


 タロは首を全力で上下に振って、全肯定わんこと化していた。


『エラいね、タロ。愛はできるわんこ大好き』


 バウッ! バウッ!


 愛はタロに頬ずりして、愛犬の仕草を褒め称えている。


 そ、そうだよな、愛はまだ九歳だぞ。どこぞのエロゲじゃあるまいし、俺みたいなムサい男にキスするわけがない。


 俺は自分の自意識過剰さが恥ずかしくなった。



 だがその翌日のことだ。


『あ、愛!?』

『おにい、おはよ』


 俺の驚きをよそに、愛はいつものマイペースで眠そうに目をこすっていた。俺が驚いたのは愛が隣で寝ていたからだけじゃない。


 愛は……真っ裸だったからだ。


『えええーーーっと、なんで裸なのかな?』

『うんと、お風呂入って身体拭いたらー、寒くなってそのまんまオフトゥンに吸い込まれた』

『でもそのオフトゥンが俺のだった、と』

『そそ。おにい、よく分かってるじゃん!』


 愛はサムアップして、にたりと笑う。どこか飄々とした妹の行動はいつも俺を驚かせていた。



 そんな前世の微笑ましい出来事を思い出させるのがフリージアだった。目を見開き、俺の状態を確認するとフリージアは柔道の縦四方固めよろしく俺をがっつり全身を使い、抱きしめている。シースルーのネグリジェのみを纏い、下着はつけていない。


 まだ、それだけなら良かった……。


「んんんん……」


 俺の唇はフリージアに奪われてしまっている。転生後のファーストキスはブラッドを最も嫌う令嬢と交わしていたのだ。フリージアは俺の頬を華奢な両手で掴み、絶対に逃がすまいという意思が見えてくる。


「ああ……ブラッドさまの唇を奪っちゃいました。好ましい方とのキスがこんなにもうれしいだなんて思ってもおりませんでした、はあ♡ はあ♡」

「き、貴様っ! 勝手に俺の寝室に忍び込むだけでなく、唇を奪うな……んーーー!」


「うるふぁいおくひは、キシュれふさぐのれしゅ」


 まるで乙女ゲーのスパダリかよってくらいにフリージアは俺に濃厚な口づけをして、何も言わせない。


 おまけに口が開いていたので、フリージアは舌で俺の口内を弄んできていた。れろれろと絡みつく舌とフリージアの唾液、後の聖女とは思えぬ舌使いに俺は溶けそうになるが……。


 まだ俺たちは前世で言えば小学生。


 婚姻前に許されるものじゃない!


 フリージアは俺を惚れさせて、逆婚約破棄でも企んでいるのか!?


 とにかくこの状況を打開しようと試みる。いくらフリージアが俺を押さえつけようとも、俺の筋力をもってすれば簡単に彼女を振り解くことができるものだと踏んでいた。


 だが……。


 ファーウ♪ ファーウ♪


 突然目の前が真っ赤になり、サイレインのような警告音が脳内に直に響いてくる。


―――――――――――――――――――――――

Caution!注意 スキル【聖女の寵愛アマデウス】の発動中により状態が三分間維持されます。

―――――――――――――――――――――――


 なっ!?


「ふふ、ブラッドさま。私の愛からお逃げになれると思いまして? たった三分間ですが、いまここで婚約者の契りを交わしてしまいましょう、ふふ」


「ま! 待て! 落ち着け、フリージア。俺と貴様はまだ婚約すら締結していない。愛し合うのは正式に婚約が決まってからでもよかろう」

「そうですね、確かにブラッドさまの仰る通りです」


 フリージアは俺の説得に応じてくれたのか、上半身を起こして俺の上に跨がっていた。


「仕方ない、その殊勝な心掛けに免じて、今回の貴様の不埒な行動は不問としてやろう」

「ブラッドさまは意外と甘いのですね。私がそんな見え透いた口車に乗るような娘に見えまして? これでも聖女の片鱗はあるのですよ」


 た、確かに……。


 スキル【聖女の寵愛】はフリージアが愛するスパダリとの親密度が高まり、彼女が聖女の力に目覚めたとき、初めて使えるものたった。


 まさかスパダリたちと出会う前に覚醒してしまったというのか!?


 俺の下半身にフリージアの土手が当たって、こすれていた。布越しではあるが……。


―――――――――あとがき――――――――――

ブラッドくんの童貞はフリージアたんにぱっくんちょされた方がいいですかね? ハーレムですもんねw 食べられた方が良いという読者さまはフォロー、ご評価、ご感想などでお知らせください。それではまた次回!

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