第11話 大人のおままごと

 サキュバスのように妖艶な声色でフリージアは俺に迫る。


「ブラッドさま、私……おかしいんです。ブラッドさまを見つめていると身体中が火照ってしまい、まるで熱病にでも冒されたように熱くて熱くて堪りません」


 彼女の瞳孔がハートに見えてしまうとか、俺はおかしくなってしまったのか?


 とりあえず、この場を収めるために何か言わなくちゃ……。


「くくくく……」

「ブラッドさま……?」


 穏便に済ませようとすると俺は目頭を押さえて、笑い出してしまう。ゲラゲラとお腹を抱えて、


「この俺が貴様のようなガキの相手をすると思ったか! 馬鹿者が! 俺に相手してもらいたくば、もっとふくよかになれ。そんな洗濯板のような胸に魅力を感じない尻など俺に見せるな、ふはははは!」


 なんてことを言ってんだよっ!!!


 あろうことか、超モラハラ発言を言ってしまったブラッド、いや俺。


 フリージアの表情が曇り、いつ泣き出してもおかしくなさそうだった。


「仕方ありません。今日のところは諦めます。ではまた後日にでも……」


 くっと下唇を噛み、我慢強く耐えるフリージア。ゲーム内でも幾度も見せられた表情で、彼女にそんな顔させたブラッドには猛烈なヘイトが溜まっていた。


 俺は意地らしいフリージアの表情にただ「頑張れ、フリージア!」と心の中で声援を送っていたものだ。


 それが今はどうだ。


 声援どころか、罵倒してしまってるじゃないか! これじゃフリージアと円満婚約破棄なんて無理だぁぁぁーーーーっ!!!


 こめかみに手を当て心の叫びを上げていると、フリージアはなにかつぶやいて浴場から去ってゆく。


「嫌い嫌いも好きの内と申します。ブラッドさまは若い私の身体を気づかい、あえて拒絶されたのですね。確かに孕み腹として、私は未熟……ますます、ブラッドさまのことが気になってしまいました」


 フリージアは頬に手を当てると恍惚とした表情で俺を見つめていた。


 だめだ! あんな不敵な笑み浮かべてるなんて!

フリージアは俺を完全にロックオンして婚約破棄前に廃嫡に追い込もうとしてるんだぁ!


 せめて、婚約破棄までは王宮で筋肉を鍛え上げ、市井でも暮らしてゆけるところまで持ったいかないとならないっ!



――――翌日。


「ブラッドさまとおままごとがしたいです」


 俺の部屋のドアがノックされ、入室を許可するとおずおずとフリージアが入ってきて、かわいらしい一言を言ってのけた。


 良かった!


 十歳でおままごととは多少幼い気もするが、お風呂に乱入してきて、裸を見せることに比べればなんとも愛らしい。


「ふん、子どもか! だが寛大な俺は貴様の頼み、聞いてやらんでもない。では始めるぞ」


 すげえ上から目線だが、フリージアのおままごとを断ることなく、彼女の俺に対する好感度を挽回する機会に恵まれたことをよろこんだ。


 だが次の瞬間、それが糠よろこびだと知る。


「メイドのアンはお父さまの顔の上に乗り、聴いたことのないような声色で叫んでいました。『ああっ! 旦那さまぁ! いいっ! もっと! もっとぉぉーーっ!』と」

「……」


 フリージアはいきなり俺に猥談を語りだしたのだ。しかも自身の父親の不倫という生々しいものを……。


 俺はフリージアが欲しがり妹のリリーと比べ、王宮へ来る以前から不遇な扱いを受けていたことを知っている。


 彼女は寂しさから父親の寝室へ訪れたときに、ドアの隙間から父親とメイドの不倫を目撃してしまい、男性不信に陥っていた、と設定で見た。もちろんかなりオブラートに包んだ表現だけども。


 それがどうだ。


 本人から語られる目撃談は生々しすぎる……。彼女が無垢ゆえにそうなるんだろうけど。


「ブラッドさまはご存じでしょうか?」


 そんな無垢な目で、死んだ魚のような目をした俺を見てくる。


 それって「ク○ニしろオラァァァ」とか言いださないよな、この娘……。


 知ってるけど、まだちゃんと性教育も済んでない幼気な女の子にそんなこと言えるわけがない。


「なに言って……んぷっ!」


 フリージアは俺をベッドに押し倒すと、顔に馬乗りになり、俺の唇へ純白の下着を押し当てていた。


「ブラッドさまが私のおしっこの出るところにキスされています。なんだかとっても変な気持ちになって、おかしくなりそう……」


 おかしくなりそう→不正解。


 すでにおかしい→正解。


 フリージアはブラッドのことを毛嫌いしてるんじゃなかったのか!?


 い、いや嫌いなブラッドに前戯をさせて征服感を味わいたいと歪んだ考えを持っている線も考えられる……。


「ふひーじあ、ひがう。きしゃまはかんぢがいをおごじでいふ」

「ああっ、ブラッドさまの鼻息が変なところに当たって、声がでちゃう……」


 ち、違う! 俺は二回しか顔を合わせていない子を、しかもロリっ子をこんなどスケベちゃんにした覚えはない! 本当にここは全年齢の乙女ゲー『フォーチューン・エンゲージ』の中なのか怪しくなってくる。


 まさかこの世界は『フォーチュン・エンゲージ』の無許可二次創作とかじゃないだろうな?


 いや二次創作ならブラッド×フリージアの組み合わせはありえない!


 フリージアは彼女が満足するまで俺の顔の上に居座り続けたのだった……。


―――――――――あとがき――――――――――

えっと……大丈夫か? これ……。

消える前に要チェキラッ!!!(ヤケクソ)

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