第8話 陰謀論という勘違い

――――【ブラッド目線】


 本編開始前からすでにミーニャにロックオンされてしまった俺はミーニャ対策のためにとある人材を呼び集めていた。


 俺の前には赤髪、青髪、黄髪の同年代の男の子が並んでいる。


「オモネール!」

「は!」


 赤い髪色に短髪、小柄で頬にすり傷があるのがオモネール。


「ソンタック!」

「御意」


 長い青髪に丸眼鏡をかけているのがソンタック。


「コビウル!」

「畏まっております」


 ボブカットの黄髪で太ましい男子がコビウルだ。


 彼らはブラッドの取り巻きで『フォーチューン・エンゲージ』内でフリージアとその相手となるスパダリを貶めようとする尖兵の役割を担っていた。


 格好をつけたわけでもないのに俺は胸の前に置いた手を振り払うような仕草を取りながら、彼らに伝える。


「貴様らに指名を与える!」


 俺が伝えるや否や、ソンタックが眼鏡のブリッジを指でくいと上げていた。


「そのお役目、おまかせあれ。殿下に近づくあの小娘を分からせてやりますよ!」


 忖度し過ぎだろ……。


 それにおまえは幾つなんだよ!


 とツッコミしかでない。


 本気で思ってるわけじゃなく、ただの耳年増であって欲しいところだが。


ぶぁぁぁか馬鹿者がぁぁぁーーっ! 貴様等らは将を射んと欲すればまず馬を射よ、という言葉を知らんのかーーーーっ!!!」


 三人はお互いの顔を見合わせ、「おまえ知ってるか?」、「いや、知らない」などと言い合っていた。


「我々みたくぅぅーーっ! 凡庸な者には分からぬ金言をぉぉーーっ! 授けていただき誠にありがとうございますぅぅーーーっ!!!」


 オモネールは大声で叫びながら俺におもねった。俺は思った、オモネールとはひそひそ話は絶対にできそうにないと。


「ボフボフ。なるほど! エルナー伯爵家の馬をすべて射殺せば良いのですな。ブラッド殿下は聡明過ぎますぞ。ボフボフ」


 コビウルがしゃべる度に半ズボンからはみ出たうれしくないたわわ贅肉がボフボフと揺れていた。


「ああっ、私めはブラッド殿下に一生ついてまいります! 大賢者すら凌駕する知謀……感服いたしました」


 ソンタックは跪いて胸に手を当てるとオモネールとコビウルもそれに追随する。


 俺は彼らの反応を見て、チベスナ顔になった。


 そりゃ毎日取り巻きからこんなおべっかばかり使われていたら、ブラッドが天狗になっていってもおかしくないと思ってしまう。


 三馬鹿はブラッド亡き後はフリージアに媚びを売るも、それまでの悪業がバレて、スパダリにあっさりざまぁされてしまう運命なんだけどな。


 三人とも、一応ブラッドの生前は裏切るような真似はしてなかったので基本言いなりだし、形だけにせよ、ブラッドに忠誠心みたいなのは持ち合わせてくれているのが唯一の救いか。


「貴様らに命ずる! 今後はフリージアに手を出すことはまかりならん!」

「そ、それは一体……」

「分かりましたぞ、殿下自らあの小娘を分からすというのですな」


「ボフボフ。殿下に分からせられれば、あの小娘から股を開くに違いありませんぞ」


 おいおい、そんなことにでもなってみろ、ブラッドの弟のジークフリートたちが黙っていないぞ。それこそ逆ハーエンドはおろか、スパダリ一堂から串刺しにされてもおかしくない。


「加えてもう一つの使命与える。キャステル高原にある黄金草を採集してくるのだ!」

「はーっ!」

「御意ぃぃ」

「畏まりましたぁぁ!!」


 黄金草というのはミーニャが真の姿へ変貌した際に暴走。それを止めるために使われた伝説のアイテムだ。



 まあ三馬鹿には荷が思いかもしれないけど、彼らをフリージアから遠ざけることで無用なフラグを立てないで済むなら……。


 俺は意気揚々と旅立つ彼らの後ろ姿を見ながら、そんなことを思っていた。



――――【フリージア目線】


 ブラッドさまとお会いする前のことです。ミーニャが自宅の廊下を走って逃げるので捕まえようと追いかけていました。ミーニャは突然ドアの前で足を止めて二本の脚で立っています。


「ダメじゃない、家では大人しくしてる約束よ」


 キュィッ、キュィッ。


 私がミーニャを抱えると……。


「王家と我がエルナー伯爵家の関係強化のためにフリージアをブラッド殿下に嫁がせようと思う」

「そうよね、それがいいわ」


 お父さまの書斎から漏れ聞こえる声に、思わずドアに耳を当てて聞き入ってしまいました。


 ああっ……。


 召使いの皆さんがひそひそと私を哀れむような目で見て、噂していたのは本当のことのようだったのです。


 馬鹿王子、人殺し王子、女犯王子、無能王子、クズ王子、足臭王子、粗チン王子……これでもかと周囲から流れてくるブラッドさまの風聞に私は恐怖していました。


 でももう両親が私とブラッドさまの婚約の話を進めていくと決めた以上、覚悟を決めねばなりません。


 一つ気になることがあります。 ブラッドさまを罵る言葉のほとんどは分かるのですが、粗チンとは一体、なんのことでしょう?



――――王宮。


 リーベン城の見張り塔から飛び降りる覚悟をもって王宮へとやってきたのですが……。



 あっ! 危ないっ!!!



 王宮のバルコニーの欄干の上に立っていたメイド服姿の女性が強風に煽られ足を滑らし、落下しようとしていたのです。


 ですが次の瞬間、私は目を疑いました。あの悪辣王子とこき下ろされていたブラッドさまがメイドの女性を抱え、五階の高さから飛び降りていました。



 それはまるで空から人が降ってきたようでした。



 風魔法を使った形跡もなく、あの高さから降りて何事もなかったかのように着地するブラッドさまの勇姿に私は心を奪われてしまっていたのです。


 ブラッドさまは飛び降りようとしていた家庭教師を助けており、皆さんから聞いていたのとは真逆のブラッドさまがそこにいたのです。


 私は思いました。


 これは誰かの陰謀なのだと!


 誰が意図的にブラッドさまのお株を下げるために誹謗中傷を流したのだと!


 でなければ私が目の前で見たようなことは起こり得ないのですから。


 ああ……。


 私は天を仰ぎ見て祈りました。ブラッドさまとの婚約は運命だったのだと。



「はあっ、はあっ」


 これほどまでに意中の異性が鍛錬に励む姿が素晴らしいなんて!


 私はミーニャを胸元にしまい、気づくと王宮の壁をよじ登っていました。それだけに止まりません。バルコニーのガラス窓の脇に隠れつつ、ブラッドさまの勇姿を見守っていました。


 額から滴る汗!


 あんっ! なんてキラキラ輝いているのかしら?


 もしブラッドさまが着衣を脱いで、こちらを向いてくだされば……。いいえ、背中だけでも素肌が見たい!


 どうすれば、ブラッドさまの彫刻のように美しい裸体を見れるのでしょう?


 あっ! あの手があります!


 二人でお風呂に入れば……。


 そう思うと私の目線はブラッドさまに釘づけでした。


―――――――――あとがき――――――――――

つ、ついにっ! 私の手元にもドロシーさまが降臨されたのです! はあ、長く険しい道でしたが、これで彼女のおパンツを心おきなく……(ピーーー)

【カ○ヨ○運営により検閲】

ということで読者の皆さまからのお祝いのフォロー、ご評価お待ちしておりますw

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る