第7話 畏怖される悪役王子

 んげーーーっ!!!


 俺が驚いたのは年上のエレクトラをお姫さま抱っこしている場面をフリージアに見られたからじゃない。


 フリージアが俺の死亡フラグとなる原因をその小さな手に抱えていたからだ。


 キュキュッ!


「ごめんなさいっ、ミーニャ!」


 もふもふを抱えていた両腕に力が入ってしまったようで、もふもふは鳴き声をあげて苦しそうに身体を左右に振っていた。見た目は銀白色の毛並みを持つフェレットのようだが、俺はその正体を知っている。


 ミーニャはこのリーベンラシア王国の守護聖獣フェンリル!


 フリージアとその伴侶となるスパダリをダンジョンに誘き出して殺害するルートがある。そのルートで二人を追い詰めるとフリージアが聖女として覚醒、ミーニャは真の姿になってブラッドの頭を食らうのだ。


 リーベンラシア王国にとって聖獣でも、俺にとってはヤバい害獣でしかない。かといって、いまミーニャと一人で戦い、倒せるか? と問われれば残念ながら不可能と言わざるを得ない。


 悔しいがここは戦略的撤退という方法を取る。


「戻るぞ、エレクトラ!」

「殿下……そんな抱えたままお持ち帰りしてくださるなんて♡」


 それにエレクトラはフリージアには超塩対応で、この二人が接触するのは極力避けたい。放っておくとエレクトラが俺の預かり知らぬ間にフリージアをいじめて、ミーニャからのヘイトが炎上You Tuberがかわいく思えるほど溜まりに溜まる。


「あっ。ブラッドさま……」


 フリージアは手を伸ばし、俺を呼び止めるかのような仕草をしていたが……。



 ロリフリージアを王宮の庭園に残し、俺は自室へと戻った。


 心が不安定になったエレクトラはまた無茶をしないようセバスに身柄を預けておいたので、当分の間は大丈夫だろう。



――――晩餐の間。


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタッ!


 ワゴンで食事を運んできたフロアメイドが俺の前にフランス料理のように美しく彩られた食材が盛られた器を差し出そうとしていた。だが、彼女の手は尋常でないくらい震えており、なかなか真っ白なクロスの敷かれたテーブルへ置くことができない。


 俺は気になってフロアメイドの表情を窺う。彼女は虎かライオンに睨まれたかのように真っ青になっており、身体はぶるぶると震えていた。


「ひっ!? も、申し訳ぇぇ……」


 ガッシャンッ!


 イケメンではあるもののつり目で目つきの悪い俺に睨まれたとでも思ったのたのだろうか、俺の目の前で食器を落として、テーブルクロスはおろか、俺の衣装まで汚してしまった。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 若いメイドはたかだか十歳の俺に粗相してしまったことでムンクの叫びのような顔になっている。


 とりあえず、拭いてもらえるとうれしい。


「貴様ぁ! なにをしている」


 精いっぱい優しい言葉をかけようと努力したつもりだったが、ブラッド語に勝手に変換された上に俺の声色は怒気を含んでしまっていた。


「ど、どうか私の命だけでお許しくださぃぃぃ……、か、家族にだけは罪をぉぉ……背負わせる真似はぁぁ……」


 この娘はなにを言ってるんだろう?


「貴様はなにを言っているんだ?」

「ああああ……私が粗相してしまったばっかりに家族全員が断頭台送りにぃぃ……」


 えっ!?


 あり得ない……。ただ食事をこぼしただけで、彼女だけでなく一族諸共皆殺しなんて……。


 膝から崩れ落ちたフロアメイドはぺたんと力なく座り込んで、号泣していた。


「立て。早くこれを片付けろと言っている」

「わ、私が片付けられるのですね……」

「貴様の処分はあとだ! まずはここを片付けろ」

「は? はい?」


 ようやくマシな言い方ができ、彼女は俺の言葉を飲み込んだように思えた。彼女は処分ありきで考えており、先に片付けて欲しい俺と思いが噛み合わない。


「そこに居られると他の者が近寄れまい。さっさと貴様の仕事をしろ! そして俺に命を捧げろ!」


 ああーっ!


 性根がパワハラ、モラハラ、カスハラできている一ノ瀬課長よりも酷いパワハラを若い女の子にしてしまった俺。


「ブラッド殿下がまさか許されただと?」

「まさか粗相をしたメイドを助命するなんて……」


 遠目で俺たちの様子を窺っていた料理人やフロアメイドやキッチンメイドがざわついていた。


「見世物ではないぞ! 早く俺の食事を持ってこい! ボンクラ者どもがっ」


 筋トレあとは良質な食事をなるべく早く取らないと、と思うと強い言葉で人払いしてしまう。


 プロテインのような高たんぱく、低脂肪な優れた食品やクレアチンみたいに筋肉疲労を軽減してくれる栄養補助食品もなかった。


 ただ食事そのものに関しては王族とあり、飢え死にするなんてことはなく、それなりの物は要望を聞いてもらえる点は良い。


 そんな俺に運ばれてきたメインデッシュ。思わずフロアメイドの代わりに運んできた料理人に声をかけた。


「おい、なんだこれは!」

「も、申し訳ございません……。そちらは、あ、雄牛の赤身肉にございます……」

「貴様、あとで俺の部屋に来い」

「ひっ!?」


「おいおい、あいつ……死んだわ……」

「かわいそうに……」

「殿下の食事係になってしまったばっかりに、人生を今日で終えるのか……」


 厨房の人たちは妙に不穏な言葉を俺の担当の食事係にする。



――――俺の自室。


「みんなには黙っておけ! 今後は赤身肉をたくさん出せ。俺は脂の乗った肉など食べんから弁えておくのだ。分かったか!」

「はいいいーーーーーっ!!!」

「このことは俺と貴様の間での内緒事だ」


 俺は引き出しからペンを取り出し、食事係にあたえた。


「こ、これは……」

「そう畏まるな。金目の物をやろうと思ったが生憎ないようだ」


 確かペン先には貴金属が使われてるんだよな? プラチナみたいな白銀ではないものの、俺の持っているペンは金色に輝いていたから。


「これを売って家計の足しにでもしろ」

「か、家宝にいたします」

「俺から与えられたなどと口外するな、すれば……」

「は、はいぃぃ!」


 ふう……料理人にありがとうと伝えようとするだけで、周りくどい方法を取らないといけないのが面倒でならない。俺は本当に死亡フラグを回避できるんだろうか?


 筋トレに励んでいると窓の外から俺を監視する怪しい銀色の影……。俺はもうすでにミーニャに目をつけられてしまっているらしい。


 仕方ない、あの手を使うしかなさそうだ……。


―――――――――あとがき――――――――――

読者の皆さまは高峰ナダレ先生というイラストレーターさんをご存知でしょうか? ラノベやなろう系の作品のイラストを手掛けられていらっしゃいます神イラストレーターさまです。その高峰先生がデザインされた美プラが発売されたのですよ! ということでフォロー、ご評価が芳しくなかったら、己を慰めるためにPlamaxソフィアを作りたいので休載してもよろしいでしょうか? ダメ? ならばフォロー、ご評価をぶち込んでくださーいw

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