第5話 おねショタ個人授業

 ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!


「ああん、スゴいぃぃ……ブラッドさまの腰づかいにこのエレクトラ……感心してしまいますぅ」

「……」

「ああん! も、もうちょっとでイキそうです、あと少し、ほらあと少しですからぁぁ……」


「変な声を出すんじゃない! 誤解されたら、どうするんだ! まったく貴様という奴はどうてして……」


 俺がエレクトラの授業を終え、こっそりスクワットの筋トレしていると、ドアをこっそり開けて彼女が部屋の中を覗き込んでいるのだ。


 百歩譲って、覗きを許したとしよう。


 だが人が聞いたら誤解を招きかねない卑猥な言葉を連呼していたので、注意した。転生してから彼女の授業を受けてからというもの、それが毎日続くのだから頭が痛い。


 覗いていたことを謝罪しつつ、しれっと入室してくるエレクトラ。


「申し訳ございません。あまりにも殿下の頑張られるお姿が尊かったので……」

「ええい! 暑苦しい! 離れろ」


 エレクトラは、スクワットして汗だくになった俺をまるで大きなぬいぐるみのように抱きしめる。彼女の豊満な乳房で俺の視界は遮られていた。


「今日は暑いので裸で授業いたしませんか?」

「何を言っている。授業はさっき終わったばかりだ! 貴様はさっさと家に帰り、両親に孝行するか、結婚相手でも見つけにゆけ!」


「ああん! やはり殿下はお優しい……。私だけでなく両親のことまでお気にかけていただけるなんて! 両親を喜ばすのにはやはり懐妊! ますます授業にお熱が入ってしまいそうです」



 俺に家庭教師カヴァネスをチェンジする権利はないのか?



 ちらとそれとなく侍従のセバスに訊ねたら、「エレクトラ以上の家庭教師はおりませぬ」などと返されてしまった。


 能力の問題ではない。


 性格……いや性癖に難がありありのありなのだから。


「秘密の鍛錬の邪魔だ。とっとと失せろ」

「失せません!」

「だったら、離れて見てろ」

「それも嫌です」

「……」


 趣味だった筋トレをしようにも、この世界にはマシーンがない……。ダンベルはないが替わりになりそうな物はいくつかあったが……、なるべく鍛錬していることは周囲に漏らしたくなかった。


「では俺の上に乗れ! それなら文句あるまい」

「ついに殿下は私の愛の授業を受けることをお決めになったんですね!」


 絶対にこの人……勘違いしてるだろ。


 つかつかと天蓋つきベッドへ向かおうとするエレクトラを呼び止める。


「なにをしている。こっちだ」


 俺の腰にでも騎乗するつもりだったのだろうエレクトラの腕を掴んで引き戻し、俺は部屋の中央で姿勢を整えた。


「さあ乗れ!」

「で、ですが……殿下、これではいじめでは? そんな殿下の上に乗るなんてできません!」

「さっきは俺の腰に乗ろうとしてたんだろ?」

「あうう……」


 俺を敬ってるのか、敬ってないのか、いまいち分からない。


 ともかく腕立ての姿勢を取ったところにエレクトラを座らせた。俺のちょうど両肩にお尻を乗せ、両耳の脇から足を投げ出しているようなスタイルだ。


「ああっ、どうしましょう?」

「なにがだ?」


 俺が顎を瀟洒な絨毯へつけるとエレクトラが肩の上で動揺している。


「新しい下着を穿いてきてしまいました……」

「なら問題ないではないか」

「殿下はメスの匂いの染み込んだ下着がお好きかと……」


「そんな趣味はない! 毎日下着は替えろ、これは命令だ!」

「は、はい……」


 本当にこの娘は十七歳なんだろうか?


 性癖はともかくエレクトラのおかげで俺のトレーニングが捗ったことには感謝したい。



――――一週間後。


 昼も夜も関係なく毎日、俺の部屋へと通いつめてくるエレクトラに正直辟易してしまっていた。


「エレクトラ……貴様は働き過ぎだ!」

「殿下にお気づかいいただくなんて、このエレクトラ、幸せ者にございます」


 せめて日曜くらいは休んでもいいのに……。


 俺は重大なミスを冒してしまった。それはエレクトラの出す課題が余りにも簡単過ぎて、すらすらと正解を書いてしまったのだ。そりゃ足し算やら掛け算なら小学生でも分かる。


 まあ俺の今の年齢は十歳くらいではあるんだけど……。


 するとどうだろうエレクトラは感動してしまったらしい。そりゃ乙女ゲー世界だから、前世の記憶のある俺だとオーバースペックなのは解る。加えて


 確かにブラッドは作中では悪知恵こそ働くものの、ポンコツで勉強などできたような描写はなかったんだけど……。


 そのせいでエレクトラは……。


「殿下ぁ……。次の課題はかなり難しいですがぁ……ちゃんとできたら、ご褒美を差し上げますよぉ♡」


 椅子を並べて、スカートを捲り美脚を見せて誘ってくる。白いストッキングの領域から美肌の太股の絶対領域へと変わるとき、俺は思わず息を飲んだ。


 これじゃまるで家庭教師物のセクシーなビデオじゃないか!


「とにかくだ! 貴様には暇を与える! 少し頭を冷やせ、馬鹿者が!」

「殿下……」


 ひっ!?


 エレクトラが俯く。すると凄まじいほどの愛憎入り混じった空気が感じ取れてしまったのだ。


 や、病んでやがるっ!? 早すぎるんだよ!!!


「殿下は私のことをお嫌いになられたのでしょうか? もしお嫌いになられたというのであればこのエレクトラ……大失態にございます。この責任は死んでお詫びしようと思います。いままでありがとうございました。来世では殿下に嫌われないよう精いっぱい努力する所存です」


 えっとどこから突っ込んだらいいのか、分からない!


 とにかく俺に対する想いが重い……。


 転生後にまた俺の家庭教師を務めることが確定しているとか、冗談抜きで俺の家庭教師を務めることは運命だとか思ってそう……。


 って!


 エレクトラは尖ったペン先を喉元につきつけていた。


「それは俺のペンだ。貴様の穢れた血をつけることは許さん!」


 もっと優しい言葉をかけてあげたいのにクズ男みたいな言葉しか出ないのがもどかしい!


 するとエレクトラは俺のペンを机の上に置いたかと思うと、バルコニーへと通じるガラス戸を開けていた。


「いままでお世話になりました……殿下の教育を途中で投げ出す半端者の私をお許しください……」

「死にたくば、勝手に死ね!」

「殿下、さようなら」


 胸に両手を置いたエレクトラは俺の方を向いて、バルコニーの欄干から飛び降りようとしている。そんな彼女に俺は問うた。


「だが貴様は俺に嫌われたくらいで職務を放棄するというのか? そんな生半可な気持ちで俺を指導しようと思っていたのか? 答えろ、エレクトラ!」

「も、申し訳ございません、決してそんなつもりは……」


 ぽろぽろと大粒の涙を流して、彼女は自分の愚行を悔いてくれていた。あとは彼女が欄干から降りてくれれば、問題解決といったところで……。


「ひっ!?」


 エレクトラはバランスを崩して、バルコニーの欄干から足を踏み外す。


「馬鹿者が!」


 俺はエレクトラが俺に向かって伸ばした手を掴むが、勢いづいてしまった彼女の身体を支えることができなかった。仕方なくエレクトラを抱え一緒に五階ほどの高さから飛び降りていた。


 空中で彼女をお姫さま抱っこしたときに、ちょうど地面に着地していた。じーんと足裏から脳天にまで衝撃が伝わってくるが、日頃の鍛錬のおかげで俺の身体には異常なさそう。


 エレクトラが心配で彼女を見ると……。


「殿下……好き♡」


 瞳はハートマークに完全蕩けて、あのキリッとしたお堅い表情は見る影もない。


「俺は世話の焼ける貴様など嫌いだ! ……だが無事で良かった……」


 ぼそりとつぶやいた言葉は俺とブラッドの本音が一致していた。


 そこへ一人の少女が何事かと駆けつけてくる。


「フリージア!?」


 そこには銀髪碧眼の美しくもかわいらしい美少女がいた、不思議の国のアリスのような緩~い青のゴシックロリータ風の衣装で。


 『フォーチュン・エンゲージ』で彼女はブラッドに執拗にいじめ抜かれ、表情を曇らせてしまうのだが、いまはその兆候は見られない。


 フリージアはなぜか自分の胸に手を当て、じっと俺たちの様子をうかがっていた。


「どうして……ブラッドさまのような高貴なお方が私の名前など、ご存じなのでしょう……?」


 しまった……!


 ブラッドは婚約前のフリージアのことはまったく知らないはずだったんだ!


「ブラッドさまが私の名を知っててくれてうれしいです……」


 俺が慌てて否定しようとするも時すでに遅し。フリージアは頬を赤らめて、恥じらいを見せる。それは天使のような微笑みだった。


―――――――――あとがき――――――――――

つ、ついに作者、メガニケでステージ30をクリアできました! 微課金なものでキャンペーンでは最新ステージが更新される前に追いつくことはなかったんです……。それもこれもエレグとクラウンのおかげですよ、あの二人はぶっ壊れてる。ということで作者もぶっ壊れてるくらい面白い作品が書きたいのでモチベーションアゲアゲにフォロー、ご評価のご支援いただけると大変ありがたいです。

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