閉幕
カーテンコール
「酒の飲み方なんて、社会に出れば嫌でも覚えるでしょ。若気の至りってことでええやん、大人の痛みやなくてさ。ほら、開けるよ!」
「振るな!炭酸!」
「私に楽しい行事で行儀を求めるのはミスだね。」
行事とは、打ち上げのこと。
「いいから、とにかく俺が聞きたいのはな、」
「わかってる。まず、中学の時の後輩に諏訪瑞希って子がいて、よく図書室で話してたんよ。卒業したら縁切れちゃってたんやけど、管弦楽団の件で千晴と逢った時にさ、たまたま見かけたの。で、成り行きで、その場で葵春歌って付けた。
同じ駅で降りて、話しかけてくれてね、あの時の先輩のおかげで今がんばってますって言ってくれたんよ。葵春歌さんがナントカカントカってニュースになって、これは絶対瑞希ちゃんだって分かった。そのあとは、知っての通りね。」
「でも、だからってどうして突然参加できたんだよ。」
「瑞希ちゃんが私を指名してくれたらしい。」
「それだけいい先輩だったんだな。実力もあるし、かっこいいところもあるし。」
「そんなことないよ。私はそんなに褒めちぎられるほどやない。」
「俺は、自分の目で見て、み、深冬は素敵だと思った。」
「私だって……いや、やっぱいいや。」
終わったのはジキルとハイドの、あ!
「ジキルとハイドか!」
「へ?」
「ジキルが瑞希さん、ハイドが葵さん。その根っこにお前がいて、"君"を演った。」
「そう言うとしたら、私の中にもハイドはいる。悪意ではなくて……愛実。」
「そうか。
マナミのことも、聞きたいな。」
終わったのはジキルとハイドの人生で、俺が起き上がったらキャストは順に礼をした。
心の中で、俺は尋ねた。なあ椿、開幕からの儚さはどこへ消えた?いい表情してるな。見ていて力が出てくる。笑われるような夢でも自分なら実現できると思える。だから人は夢を見られるんだ。儚く消えたものも今もなお在るものも、全部を感動の渦に巻き込んで、人は夢を見られるんだ。俺ら全員で、劇場を極寒にできたよな?
拍手で呼び戻され、三回目の礼をしに舞台中央へ走る前。小関さんがコソッと言ってくれた。
「おめでとうございます」
「あざ
「ありがとう!」
「お、俺に言ったんだよな?」
「私だってありがとうやよ!」
群青頌歌 紫田 夏来 @Natsuki_Shida
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