第3話

「姫野ちゃん、何言ってるの?」

「だから、私は誤解してたんです。まさかあの時の約束が他の子と仲良くしないってことだとは思っていなくて。だから、去年のクラスで綾ちゃんと友達になった。」

 朝、普段は誰ともすれ違わない通学路で、少し遠くにある高校のブレザーをおしゃれに着こなしたお姉さんに出くわした。応援されちゃったし、目の前に五人がいるし、もう後戻りはできない。放課後、私はみんなを、空き教室に呼び出した。

 園田くんには教卓の下に隠れていてもらってる。一人はどうしても嫌だから、と無理を聞いてもらった。高鳴る自分の心臓の音を出来るだけ聞かないようにしながら、私は五人と対峙している。こんな関係、やっぱり変だ。

「約束を破ったことに変わりはない。」

「それは悪かったと思ってる。綾ちゃんだって、絶対気分悪かったよなって、反省してます。」

「反省するだけで許されるわけがない。朱音、どう思う?」

 小嶋さんに当てられた朱音ちゃんは、昨日までは最低な奴に見えたのに、今日は彼女に取り入ろうと必死になっているように思えた。

「今さら何言ってんのって感じ。まるでうちらが悪いみたいじゃん。」

「そうそう、朱音に賛成。」

 三人が口々に言った。

「あとさ、瑠璃。あたしにはあの教卓の下に誰かいるように見えてるんだけど。あんたもそうでしょ。」

 まずい。

「逃げるぞ!」

 園田くんはさすがは男子の俊敏さで駆け出した。私はあっという間に置いてけぼりになる。でも、園田くんは、少し進んだところで私を待っていてくれた。

 右腕を園田くんに引っ張られながら全速力で走る。教科書やノートは、鞄ごと教室に置いたままにしてしまった。

「もうちょっとで撒ける。がんばれ!」

「うん!」

 上履きのまま校舎を飛び出して、見張りの先生がいない裏門から出てぐるりと遠回りして、そして住宅が立ち並ぶ海沿いの街を駆け抜けた。宇宙に繋がる青い大空が清々しい。川の方に向かっていると気付いたとき、私にもわかった。昨日、私が園田くんに見つかった河原まで、私を引っ張っていくつもりなんだ。私と園田くんが、初めて話した場所。

「もういいだろ。」

「たぶん、ここまでは追ってこないね。」

「なんか事件の犯人みたいだな。コンビニ強盗やって逃げる最中みたいな。俺ら何も悪いことしてねえのに!」

 二人揃って、息を切らしている。

「こうすると気持ちいいんだ。」

 園田くんは地面に寝転がって大の字になった。すかさず私も真似をする。

「お前はやめとけよ。制服汚れるぞ。」

「別にいいじゃん。ボロボロなんだから、汚したっていいでしょ。」

「それ自虐ネタにするなよ。俺は姉ちゃんに洗濯してもらえばOKだけどさ、姫野は綺麗にしろよ。」

「園田くんってさぁ、シスコンだよね。」

「はあ⁉」

「へへっ」

「あ!」

「え?」

「姫野が笑った!」

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