0.03 クラスメイト=頭が良い

 俺は電車を降りてすぐに、ルシファーに連れられて鷹架学園の理事長室で編入手続きを済ませた。


 資料を見てみると、科目毎に分かれていて、特進科の他には普通科、情報・医療科があった、が。


「…………すっくな」


 ざっと数えてみたところ、普通科は約400人、情報・医療科は約200人居るのに対し、特進科は俺を含めて7人だけだった。


 やはり特進科は辞退しようか。


「特進科には入試のテストで最低でも9割を取らないと入れない」


「俺、この界隈の知識ゼロっすけど」


「今から頑張るしかないな。君の席は此処だよ。ファイト、織笠君〜」


「無責任な奴……」


 ルシファーはエレベーターに乗り込み、最上階である7階のボタンを押した。


「クラスメイトは、どんな人達ですか?」


「良い子たちだよ」


「……もっと何かないんすか」


「んー、強いて言うなら、仲間思い、かな」


「強いて言わないと出ないんですね、それ」


「ははは」


 丁度ぽーん、と間抜けな音を響かせて、エレベーターのドアが開いた。


「着いたな。此処が君が4年間学ぶ教室だ」


 開いたドアの先は直接教室になっていた。つまり、エレベーターのドアと教室のドアが一体化している造りだ。


 教室は思っていたよりも静かで、先程確認した通り、生徒は6人だけだった。


 教卓の前には机が2列に分かれて並べられている。前列に3つ、後列に4つで、空いているのは前列の真ん中だ。そこが、俺の席なのだろう。


 先生が素人の俺の面倒を見れるようにと考えたものなのだろうが、進んで先生の目の前に行きたがるやつはあまり居ない。もちろん俺だって嫌だ。


 ルシファーを恨めしく思いつつもルシファーの横に並んで立つと、それを見届けたルシファーが話し始めた。


「おはよう、皆。まず初めに、今日から特進に加わることになった、織笠結樹くんだ。仲良くしてやってくれ」


 ルシファーが俺に目でなにか話せと合図をしてくる。そんなこと聞いてない。アドリブでやれってか。はぁ。


「……織笠結樹、です。これからよろしくお願いします」


 パチパチパチと控えめな拍手が湧いたが、これは人が6人しかいないからだろう。


「それじゃあ人数は少ないし、ぼく達も今自己紹介するか。ぼくは阿熊類司だ。知っての通りぼくは理事長だから、受け持つのはHRと野外活動、実戦のみだ」


 ルシファーは最後によろしく、と付け足した。


「次は誰だ?」


「はい、名前は相良琥珀、趣味はガーデニングとショッピング!よろしくね」


 相良琥珀と名乗ったポニーテールの女子は、ハキハキとした口調でそう言った。


 見た目や話し方からして優等生で、かつクラスの潤滑油的存在だろう。こういうタイプは人の懐に入り込むのが上手いから、あまり関わらない方が賢明だ。


 拍手が止んだ後直ぐに、俺の机の隣に座っている、ツーブロ茶髪の男子が口を開いた


「オレは是枝刹那。シューティングゲームとか好きかな。よろしく」


 此奴はこの中で見ると割と阿呆そうな不良キャラだが、特進にいるという事は頭が良いもしくは相当な実力があるかのどちらかなのは確かだ。


 だが先程ルシファーが言っていた仲間思いな奴はこいつ等ぐらいだろう。


 他はやる気のなさそうな奴、コミュ力陽キャ、気が弱そうな奴、あとは真面目そうな奴くらいだ。


「あーい、俺は白鹿 楓。好きに呼んでくれなァ。」


 そう言ったのは狐の面を着けている、黒髪の奴だった。何処か和風な雰囲気を纏っているのに加えて、暗く憂鬱な雰囲気をも持っている。


「ん、なんでェ?」

「別に」


 気にはなったとはいえ、少し見すぎたらしく、流石に気付かれてしまった。


 まぁ、俺には関係ないことだけど。


「はい、神永惺華です。好きなものは動物、とか。よ、よろしくお願いします」


 ピンクの髪の女がそう言い終えると、勢いよく頭を下げてくる。


 此奴はこっちを苛立たせるうざいタイプだ。できることなら関わりたくないな。


 即視線を外して誰も座っていない自分の席であろう机を見つめてピンク頭が座るのを待つ。


 次はフードを被っている頭から金髪を覗かせた男が立ち上がった。顔の横で銀色のピアスが光っているのがちらりと見えた。


「次、僕?えと、名前は羽咋乃央。よろしく、お願いします」


 所謂病み系男子とでも言うのだろうか。声質や話し方、仕草に違和感は無いのに、何故か暗い雰囲気を纏っているという不思議な奴だ。


 最後の女子はこちらに一度も視線を向けることなく中性的な声で淡々と言った。


「わたしは如月 華日。悪魔召喚が得意」


 面倒くさい人だ、この人は。いかにも真面目そうつーか神経質そうつーか、一度気になった事は理解するまで執着する人、ぽい気がする、多分。


「もう一人いるが、後で会ったときに紹介することにしよう。じゃあ陽向くん、席は教卓の前だ。分からないことがあれば、周りの生徒か先生に聞いてくれ。今日のHRはこれくらいだな。1時限目の準備でもしとけ」



「織笠くん!」


 ルシファーの話が終わるや否や早速相良琥珀や是枝刹那が話しかけてきた。


「こんな時期に転入生とか珍しいけど、前はどこに通ってたの?」

「別に」


「え、お前もしかして中卒?」

「や、中退した。授業とか単位とか面倒で」


「じゃあ編入生か。ねぇ、日向くんはなんで十架学園に来たの?」


 なんで……って


「ルシフ、っぐ」

「結樹くんはぼくの親戚なんだ。結樹くんは才能があるのに無理やり退学させられたと聞いて、ぼくがそれならばうちにとお試し感覚で呼んだんだ。な、結樹」


 急に口に手を押し当てられ、圧までかけられたら、頷くしかないだろう。


「そうなんですね!それなら言ってくれれば良かったのに」


 相良や刹那は納得したように頷いている。


 ルシファーのやつ、ちゃっかり名前呼びしやがって。というかよくそんな嘘が出るもんだ。そしてこいつらもよく信じるもんだ。


 俺がルシファーに冷たい目を向けるとルシファーが軽く睨んできた。


 そういえばルシファーという名前は秘密にしているのだったか。


 怒らせると面倒だし、乗ってやらないこともないが。


「はーい、阿熊せんせ」


 ルシファーは笑みを浮かべた。気持ち悪ぃ。


「お前達も授業の準備しろ。1時限目は魔法薬学だ」

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