0.02 アステルとソテラス
その後ルシファーは十架学園の制服や教科書、ついでにとパンフレットを俺に手渡して帰って行った。
渡された教科書を軽く読んでみると、アステルとソテラスのことについて載っていた。
アステルとは魔力を持たない普通の人間であるノアがディアを倒す為に作った組織で、ミスリルという魔力が流れやすい金属と、魔力が込められているルビーやサファイヤなどの宝石を上手く組み合わせた武器を使って戦うらしい。
一方で、ソテラスとは魔力を持ち、角が出現し悪魔の子孫と考えられているディアが、アステルに対抗する為に作った組織で、魔力で魔力弾・魔力壁を作ったり魔剣を使ったりして戦うらしい。
どちらにも1〜10まで階級があり、俺の父親は10階級だったが、今は落とされて、確か8階級のはずだ。
俺が読んだのは此処まで。あとは授業でどうにかしよう。
と、思っていたのに。
「………特進科」
電車の揺れをいつもよりも鬱陶しく感じながら、俺は独り言のように呟いた。
「ああそうだ。君には特進科に入ってもらう」
ルシファーが愉快そうに言った。
特進科ってエリートしか集まらないところだろ?なんで俺が。
ルシファーが俺の考えを悟ったのか、続けて言った。
「1つ目に特進科はぼくが担任だからだ。君は試験を通っていないし、魔力についても素人同然だ」
「だったら特進は辞めといたほうが」
「それには2つ目の理由が絡んでくる。2つ目にぼくは君が相対的高確率ですぐにぼくよりも強くなるだろうという予測をしている」
「そんな根拠のない予測など誰も信じない」
「まぁそうだな。じゃあ気にしなくて良い」
ルシファーは意外とあっさり引き下がった。自分でも自信がないのだろうか。
「なぁ、なんで俺を此処に勧誘したんだ?」
俺はふと思いついた疑問を投げかける。
「ソテラスは常時人手不足なんだ。魔力があり、アステルと戦いたいと思っていても、すぐに戦えるようになる者はあまり居ない」
俺だってすぐに強くなれるとは限らないけどな。
「普通は十架学園の入学資格を得るためには最低5年の鍛錬が必要だ。だが恐らく君にはそれは必要ない」
そんな根拠のないことをまだ言ってるのかと思いつつ、俺は悪魔召喚学の教科書を捲ると、何処か見覚えのある魔法陣が目に入った。
親がアステルだから、家にこの類の本があるにはある。だが俺は悪魔召喚に興味はない。
なのに、何故かこの魔法陣にだけは見覚えがあった。
白狼の悪魔らしい。俺は試しにその悪魔の名前を電車の走行音に混じらせて呟いてみた。
「ラノン……」
初めて口にした名前の筈なのに、それは酷く言い慣れた言葉のように感じられた。
__寮に行ったら召喚してみようかな。
「……なんて」
「何か言ったか?もうすぐ着くから降りる準備をしろ」
その時に窓の外に見えた、朱く夕日に照らされた城のような建物は、俺には少しだけ魅力的に思えた。
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