0.01 全ては健康的な大男が始まり
俺は母さんを亡くした後、通っていた高校を辞め、バイトに打ち込んでいた。
だが折角面接をして受かっても、仕事は雑で、不器用で無愛想で、ピアスと茶髪で第一印象は最悪。
怖がって客どころか店員も寄り付かなくなり、困った店長は俺をクビにせざるを得なくなる。
クソほど笑えねー。
1人アスファルトに愚痴を吐き捨てていると突然怒声が響いた
「てめぇ!俺のこと舐めてんのか!?!?ふざけんな!!」
ふざけてんのはお前だろ。
どこの誰か知らないけど騒がしいから発狂すんな。
……あーあいつか。
家の前では身長195cmくらいの、褐色で筋肉質な肌が健康的な大男が、俺の自宅であるマンションの前でヒステリーを起こしている。
俺は一歩だけ、そいつに近づいた。
「邪魔、近所迷惑、さっさとどきやがれゴミハゲ野郎」
其奴に向かって俺がそう言うとゴミクズ野郎はぽかんとして俺を見やった。
だがそれも一瞬のこと。
すぐに真っ赤になり、拳を握り締めてこちらへ歩いて来た。
「殺されたいのかてめぇ…」
「お前に殺される筋合いはない」
それを言い終わった時には既に目の前に拳が迫って来ていた。
煩わしい蝿共が……。
俺はそれを避け、殴り返そうと思ったが、避けるどころか言葉を返すことすら面倒でハゲデブ野郎(太ってはいない)を睨んだ。
するとクズデブ野郎(太ってない)はビクッと萎縮して「なんだよ」と悪態をつきつつもすごすごと帰って行った。
「んだよはこっちの台詞だってのゴミが……っと」
悪態をつき返しつつ、自宅マンションのエントランスに入ろうとすると、クソドブ野郎に絡まれていたと思われる男とぶつかりそうになった。
謝ろうと口を開きかけたが、男の方が0,1秒早かった。
「ねぇ君、今、魔力使ったでしょ」
…………魔力?
何を言っているんだ。漫画じゃあるまいし……。
だが此奴の俺を見る目は、この目は少なくとも本気だ。
何なんだ、此奴は。
というか誰__?
「そんなに警戒しないでよ。まぁそれも仕方ないか。じゃー自己紹介ね。ぼくはルシファー。鷹架学園の理事長だ」
「ルシファー」
それは悪魔の名前だ。
つまり此奴は悪魔、なのか?
鷹架学園とは、ディアが人間に対抗するための戦力を育成させる私立高校だ。しかも鷹架学園は世界最高峰レベルの難関校だとも言われている。
その理事長の名は確か阿熊 類司だった筈だ。
「そうだ。君に信用してもらう為に敢えて言うけどココだけの話、ぼくは悪魔だ。これは他の人には言ってない」
どうなんだか。
「んで、その超エリート校の理事長サンが何の用ですか」
俺が投げやりに聞くと、阿熊は勿体ぶっているのかそわそわと視線を向けてきた。
「さっさと言え。それか其処を退け」
「ごめんごめん、今言うよ。単刀直入に言うと、君に家の学園に入って欲しいんだ」
「お引き取り願います。第一魔力が無いどころか、ディアですらない俺が鷹架学園なんかに入れる筈が無い。第二に俺の父はアス……」
「ストップストップ、一旦落ち着こーぜ?順番に説明して行くから、な?」
「別に怒ったり焦ったりしてないだろうが」
「まぁそれは否定しない。じゃなくて今説明するから。何故ディアでは無い筈の君を我が学園に招待するのか。それは君に魔力があるからだ」
「は?俺の両親は悪魔じゃない」
アステルだ。
「君の両親も君自身も悪魔ではない。だが何故か君からは魔力がある。さっき、ぼくが輩に絡まれていた時、君からは、微量だが確かに魔力を感じた」
「気のせいだろ」
「世界的に有名な学校の理事長であるぼくが勘違いをするとでも?」
「……証拠がない」
「だけど今迄にもこんなことがあったんだろう?こんな、威圧しただけで相手が逃げ出すようなことが」
「…………」
「あったんだな?」
「まぁ」
「それが証拠だ」
確かにルシファーの言うことには根拠もあるし、筋も通っていて信ずるに値するものだ。
だが、
「だけど俺には大人しくお前に着いていく理由がない」
「それが、あるんだよなぁ」
俺の父親はアステルだったのに全く関わりのない悪魔に付いていく奴なんか滅多に居ないだろうに。
「君は両親の為に復讐をしたいのだろう?」
未成年である俺の素性は親族や弁護士、警察関係者しか知らない。
理事長如きが知る筈がない。
「なんでそれを……っ」
「理事長を舐めるな。情報網は自信がある。もし学園に入学してくれるなら、このぼくが捜査の手助けをしてやる」
個人的な感情に情報網は関係ないような気がするが悪魔にそんなことを言っても意味は無い。
「……具体的には?」
「まずぼくは織笠 怜華の件は殺人だった証拠を集める。そして君がその間に学園で鍛錬を積むことで強くなれる。すごく効率的じゃない?あ、因みにぼくは現役のとき脚をヤッて戦えなくなったから敵討ちはお一人で」
確かにルシファーの情報網(?)に任せれば手こずるかもしれないが、証拠は俺より上手く集められるだろう。
ルシファーが戦えなくても、俺が鍛錬すればある程度戦えるようになるはずだ。
「分かった。学園に入ってやるよ。」
「お、本当か?」
「但し、条件がある」
ルシファーは少し驚いたように俺の顔を覗き込んだ。
「なんだ?」
「俺は偽名を名乗る」
俺の両親の名前は今や誰でも知っている。その息子である俺の名前をも把握している奴がいても可怪しくはない。
「それぐらいだったら構わない」
「あと、俺がお前の手を借りるのは情報収集の面だけだ。他は俺一人でやる」
「……そうか。じゃあよろしく、名前はそうだな……日向唯君、とかはどうかな」
唯……ユイ……?
なにか、俺は。
何を__?
「おーい?」
分からないなら考えても意味はない。
俺は無言で頷いた。
「あ、それと一つ。入学式は明日だ」
「………は?」
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