第1話 そうだ、お料理配信やろう

 拝啓、早死にしちゃって天国にいるであろう両親へ。


「...え、待ってうそでしょ?え?」


 俺、男としての尊厳、失っちゃったよ...♀






 〇






 突然ですが、この度わたくし斎凪ときなぎ あやはロリっ子になってしまいました。


 界隈でいうところのいわゆる「TSロリ転生」ってやつ。


「まさか最近流行ってる『性転換病』に罹ることなくロリっちゃうとはなぁ...」


 生前、超が付くほどの美食家だった俺は「なんか美味しいグルメありそうじゃね?」とかいうアホみたいな思い付きでダンジョンに凸り、無事トラップに引っかかって死亡。


 目も当てられないような死因を抱えて女神さまのもとへふわふわ浮かんでった俺は、なんと奇跡的にお情けをかけていただけることに。


「あまりにも可哀想だったから、君にチャンスを上げようと思ってね!」

「あぁ~めがみさまぁぁぁ一生崇め奉りますぅぅぅぅ~...」


 しかーし!転生させるうえで条件がある!と言われた俺はその内容を聞いて驚愕。


「その代わり、君を幼女にしてから転生させたいなって!」

「はい?」


 この条件が飲めないのなら転生は無理だ、とまで言われてしまった。今思うと、彼女が本当に女神さまだったのかは怪しいラインである。ただのロリコンの可能性も捨てきれない。


「さぁどっちを選ぶ!ロリって転生するか、ここで死ぬか!」

「えぇ...」


 もちろん嫌だったが、こんなところで命を捨ててしまうことも惜しかったため、俺はしぶしぶロリk...女神さまの条件を承諾。ついでに転生ものではおなじみの「ギフト」を所望して、元居た自宅にて生き返ったってわけ。


「ほんとに小っちゃくなってるー...わぁー...」


 体中が違和感だらけである。主に下腹部。いやまぁ全身いろいろと違いすぎて慣れないんだけど。


 鏡の前でロリ化した己の姿を見つめる。体のパーツ調整やデザインは女神さまに一任したから、多分この姿が女神さまの性癖なんだと思う。


「悔しいけどっ...正直かわいいっ...!」


 なんか負けた気がした。


「いや違う違う。そんなことよりも、これからどうやって生活するか、だよねぇ...」


 言い始めてだんだん尻すぼみになる、俺の声。言ってて悲しくなったからだ。


 当たり前だが、一回死んだため戸籍は消滅している。したがって職に就けるはずもなく、俺は文字通りお先真っ暗なわけである。


「とりあえずは生きるための資金源、それを得るための職...これは必須だな...」


 ロリっ子の仕事...と考えてよぎったのが、このところの流行語である「ロリっ子芸能界」。


 世界、特に日本で蔓延している「性転換病」による患者(ロリ)が、芸能界隈に引き上げられることで、新たなエンタメとして台頭し始めたものの総称だ。


「このとんでもなくかわいい容姿を生かすなら、女児芸能事務所に所属するのもアリか...?」


 しかしあまり気乗りしない。アイドルとか俳優業とか、ああいうのは見るのが好きだった人種だからだ。いざ自分がその立場に立つとなると、ちょっと腰が引けてしまう。


「うぅ~ん...どうしたもんかなぁ...」


 頭を抱えて唸っていたらお腹が空いてきたので、ひとまず食事をとることに決めた。


「この体じゃ冷蔵庫開けるのも困難だぞ...まして料理なんてできるのか、今の俺...?」


 だが食べないことには飢えて死ぬだけなので、どうにかして一食分は自分で作らなければならない。もうあのロリコン女神さまのお世話になるのはごめんだ。


「鶏ももあるから、唐揚げでも作ろうかな。あとちょうどいい椅子ないかな、椅子...」


 冷蔵庫を覗いてチキンさんがご存命であることを確認し、踏み台代わりの椅子を探しに向かう。


 何となく物置を漁ったら、ずっと前に購入した折り畳み机があったため、もうこれでいいやとヤケクソになりながら引きずって持ってきた。


「なんか今度は高すぎる気がするけど...まぁいいや」


 落ちないように気を付けつつ、鶏もも肉、チューブニンニクに生姜を取り出す。


「あとは...よいしょっと...」


 机から降りて調味料棚をガサゴソし、塩コショウに醤油、料理酒、マヨネーズを手に取った。


「はぁ...はぁ...もう疲れたんだけど...ロリっ子ボディってなんて不便なの...」


 くたくたになりながらまな板と包丁を取り出し、レッツクッキング。怪我だけはしないように気を付けないと。今戸籍ないし病院行けないんだから。


「全然力入んないんだけどぉぉもぉぉぉ...!!」


 悲報、ロリっ子俺、非力すぎて鶏もも肉が切れないことが発覚─── ☆






 〇






 なんやかんやあったが、一時間ほどかけてようやく完成しました、命がけの唐揚げ。


 タッパーにまだご飯が残っていたので、それをめちゃくちゃ小っちゃいお茶碗によそって温める。


 さっき散々踏みつけた机を除菌シートで拭いて、唐揚げとご飯とお箸を並べて。


「はぁっ...はぁっ...いた、だきます...」


 予想以上にこの体が役に立たな過ぎて疲労で倒れそうだった。冷静に考えたらそりゃそうだね、女児だもん。力もないし背も低いし何もかもがか弱いんだよね。


「そこがかわいいっていう層が一定数いるのかもしれないなぁ...界隈はまだまだ奥が深い...」


 しみじみとつぶやきながら唐揚げをぱくり。


「おいしっ、我ながらよくできてるぅ~」


 凄まじい空腹によるプラシーボ効果なのかもしれないが、自分で一生懸命に作った唐揚げはとても美味であった。それはもう、誰かに自慢したいくらいに。


「...ん?」


 誰かに自慢したいくらいに...誰かに自慢...?...誰かに伝えたい...なにで...


「はっ!!ひらめいたぞー!!」


 思いっきり立ち上がった衝撃で唐揚げが一つ吹っ飛んでいった。


「わぁぁやばいやばい!油でカーペットが汚れる!」


 除菌シートを両手に掴んで床を拭きながら、俺は「Youtuber」という立派な職の存在を思い出した。そうだその手があった、無理に家から出る必要もなく、パソコン一つあれば完結する仕事。


 幸い、俺には生前使用していたパソコンやカメラがある。しかも料理好きな俺にはすでに動画にできるネタがあるし、なんならそのネタを自分で作れる。もっと言えば、俺は料理するためだけにしか使えないギフトも貰っている。


 こんなに条件が揃っているのだ、ならやるっきゃねぇ!




 そんなわけで、俺のチャンネルが開設された。


 名前は「あやちーのお料理ch」。名前の彩から取り、かつロリっぽくてかわいらしいあだ名を付けてみた。いかんせんネーミングセンスがなくて面白みに欠けるが、本質は中身。動画の内容で勝負すればいい。


「成長を可視化するために日記を付けていこう!!」


 あふれ出るやる気、元気、勇気の下に、俺はここからのチャンネルの伸び具合を日記に記していくことにした。






 〇






 ・1日目


「ロリがハンバーグ作ってみた」というタイトルで、記念すべき第一作を投稿。

 視聴回数、なんと驚異の13回。なんか縁起悪いし幸先も悪い。ちなみに高評価は0でした。

 ま、まぁ一回目だし?こっからこっから。




 ・9日目


 初日から昨日までゴミみたいな再生回数を保持していた俺ですが、なんと初めて高評価が4も付きました。タイトルを変えたからなのか、おしゃれな料理を選んだからなのか。

 タイトルは「【ロリっ子シェフ】ビーフシチュー作ってみた」。ちょっとロリコンへの釣り針をデカくした(汚い)




 ・16日目


 ロリコンへの釣り針をデカくしてから、500回再生、15高評価くらいをキープできるようになったよ。やったね。

 ちなみに今日は三ツ星レストランのシェフが出てる雑誌を購入して読み込んだ。俺でも再現できそうな料理に挑戦して、普段より5分長めの動画を作ってみた。

 そしたら初めての1000回再生、50高評価をゲットしちゃって。思わずガッツポーズしたよね。桁が増えた。

 あと初コメントも付きました。「かわいい」だって。もっとこう...さぁ...(ため息)




 ・34日目


 お金が底を尽きそうになってきたので、二週間くらい前から山で食材を取る生活を送ってます。

 野生動物...ってより肉になるモンスターは、お金が尽きる前に何とか購入した、対低級モンスター用のハンティングライフルぶっ放して狩ってます。ダンジョンの発生と一緒に、モンスターが要所要所で度々目撃されてるので、政府が護身用として各世帯に購入を推奨している物だとか何とか。

 専用の魔力弾を装填し、射撃。モンスターの皮膚や内臓を構成する魔力繊維を破壊して殺すという仕組みなので、人に害はないんだって。便利〜。

 山とかで自然発生するモンスターはむしろ討伐目標として登録されてるので、自己判断で狩ってもお咎めなしなのが良いところ。

 しかもこれ対低級用だから反動も少ないし軽量だし、ロリロリな俺でも十分運用できちゃう。ありがとうお偉いさん。


 あと最近は意外と釣りとか採集も楽しくて、遂にはそのシーンだけを動画にして投稿しちゃいました。タイトルは「【ロリっ子シェフ】今日は自給自足」。

 ロリっ子がライフルをブッパしてる絵面がプチバズりしたのか、なぜか料理ではなく食材調達の動画が初一万回再生を達成しました。

 そういえば言ってなかったけどチャンネル登録者数も100人に到達したよ。涙出た。




 ・60日目


 伸び悩みの時期が続いています。ライフルぶっ放し動画ももうそれほど見てもらえないし。

 試しに野生動物を捕まえるための罠の作り方を解説する動画を出したのに、それもノーヒット。

 チャンネル登録者も500人目前で頭打ちで、だんだん悲しくなってきました。


 無駄な努力だったのかなぁ。






 〇






「はぁ~...ぜーんぜん伸びないじゃんか。遊んで暮らすどころか生活資金も足りないよ...」


 こちらは動画投稿を開始して61日...ついに二か月の大台に乗った俺です。やつれてます。


 自分が思っている以上に動画投稿者の世界は厳しいらしく、なかなか上手く事が運ばない。ネーミングセンスを見直して、料理の腕も磨いて、一周まわってサバイバルできるレベルの力をつけて。


 しかしそんな影の努力がリスナーに届くことはない。この道で食っていけるのは、ほんの一握りの才あるものだけなのだろうか。


「ロリの肩書き使って売り込むのはもはやテンプレかぁ...独自性がないと...」


 今日の分の動画を編集しアップ。意外性を攻めてトルティーヤを作ってみた...けれど、おそらくこれも伸びはしないだろう。


「...たまには、過去の自分を振り返って反省点をまとめるのも大事だよねぇ」


 ベッドに寝転んでスマホを出し、ちょっと前の自分の動画を見返す。16日目以降から毎動画に寄せられている数少ないコメントは、俺の唯一のモチベーションだった。


「...およ?」


 ポチポチと画面上で指を滑らせる。寄せられたコメントの中に、興味深い意見がちらほらと見受けられた。



 :女児からママ味ある料理出てくるのギャップ萌え

 :シンプルに声かわいい

 :もっとのが人気でそう

 :いつか顔出ししてくれることに期待

 :テレビやスマホやPCのんだよなぁ



「存在を身近に感じられる形式」、「画面の中にいるロリはすでに見飽きた」───。


「うーん...なるほど...」


 あくまで俺自身の見解に過ぎないが...つまりは、積極的なロリっ子の芸能界進出によるバズりも一過性のブームに過ぎない、ということだろうか?


 ロリアイドルグループ、ロリ子役、ロリシンガー...今でこそロリブランド職は多種多様になったが、その波もマンネリ化してきてるってわけか?


「雲の上の存在として崇拝するんじゃなくて、身近にロリを感じながら、ロリとともに楽しむ...」


 顧客の新たなロリブランドへのニーズはここにあるのかもしれない。


「でもなぁ...動画投稿者である以上2.5次元みたいなものだし...身バレせず距離感を縮める都合のいい方法なんてあるわけ...」


 そんな中、ふと関連動画に目を向けると、



「【新ダンジョン】入場許可が下りた話題の迷宮に突入!安全性を実証します!【久留宮くるみやここな/まぐっともぐっと】」



 というタイトルのライブ配信動画が目に留まった。


「『まぐっともぐっと』って確か、大手ロリストリーマー事務所の?」


 久留宮ここなという人物は、その事務所に所属するストリーマーの中でもトップクラスの人気を誇る猛者中の猛者。俺からしたらまさしく雲の上の存在なわけだ。なるほど、みんなこんな気持ちなのね。


 そしてタイトル先頭で強調されている「新ダンジョン」。これはおそらく、つい先日に研究・解析が完了し、先行入場体験として著名人への募集がかかっていたダンジョンのことかと思われる。


 このダンジョンにもすでに所有者がついており、今後の運営で観光スポットに仕立て上げるため、拡散力のある人物に宣伝業務を委託していたのだろう。


「ほえ~、そういえばちょっと前にネットで有名になってたな」


 記憶をさかのぼって呟きながら、興味本位で動画を覗く。


 すると。



『みんな見て!この魔力結晶!透き通っててきれい~!!』



 ちょうど名物である巨大な魔力アメジスト群が紹介されているシーンであった。


 下から上へ勢いよく流れていくコメントには、



 :メインスポットキタ━━(゚∀゚)━━!!

 :神秘的すぎん?

 :ココちゃんも可愛い

 :↑ココちゃんがかわいい(定期)

 :ネット記事で見たけどやっぱ現物すげぇ

 :ココちゃんの衣装と景色の色味が相性いいね 

 :一般向けに解禁されたら行くわ

 :ココちゃんが居ることでさらに魅力度アップ⤴



 など好意的な感想が多く寄せられている。


「すげぇ...バックのアメジストもすごいけどさすが人気ストリーマー...」


 泉のように湧き出る視聴者のコメントを見て、思わず息をのむ。


「俺もストリーマーになれたらなぁ...これならリスナーとの距離もリアルタイムで縮まって効果てきめんだと思うんだけ───」


 そこまで考えて、俺はやっと気が付いた。


「あ、そうだ。お料理配信すればいいんだ」




 ───これが、俺が「TSロリっ子お料理配信」という新ジャンルを開拓するに至った経緯である。

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