人と被りたくないのでTSロリっ子お料理配信とかいう新ジャンル開拓します

ときもんめ

プロローグ

20XX年―――日本では「性別転換症候群—γ型」、通称「性転換病」が蔓延していた。患者の多くは20代前半~30代後半までの男性であり、その数なんと約30万人。現在も異常な速度で感染が拡大しており、つい先日には感染者数が35万人に達した。


いまだ治療法が確立しておらず、現状「医療機関には手の施しようがない」といった状況。徐々に各国での感染例も発表されていて、もはや世界規模でこの奇病が蔓延するのは時間の問題といえよう。


さて、そこで気になるのが、この難病の症例だ。


アンケートにて「調査に協力する」と回答した複数の患者の肉体を精密に検査し、その末に日本医学会が報告したその症例なのだが。


あえて遠回しな言い方をすれば、男性の肉体的性別が女児へと変化してしまう、というもの。


正確に分かりやすく、かつ直球的に言うのならばそれはすなわち。






―――TSロリ化。











「んん...ふわぁ~...んぅ、朝かぁ...」


カーテンから差し込む朝日に照らされ、俺は小さな体を起こす。ベッドからずり落ちながらテレビをつけると、そこには親の顔より見た「性転換病」の文字列が。


「はぁ、まったく...世間も騒がしくしちゃったもんだな。ただ体がロリっちゃうだけなのに」


肉体が変化するだけでこれといって実害はないことも分かったため、最近では治療法の研究にも緊急性が見出されなくなってきていた。ただこのまま感染が続くと、世界の男性の数が激減して人類の存続が絶たれるため、一応研究自体は続いているらしい。


「ちょっと前に比べてエンタメも豊富になったなぁ、これもTSロリ化の恩恵かー」


近年では、この性転換病の症状を逆手に取り、ロリっ子アイドルグループやロリっ子芸能事務所といった、芸能界にロリ旋風を巻き起こすマーケティングが発達してきている。


むしろ新たなトレンドとして、TSロリ化を娯楽的に楽しもうという風潮が出てきているのだ。世も末、と言いたいところだが、まぁ妥当なのかもしれない。


―――「速報です。先ほど、東京都八王子区に新たな『ダンジョン』が発生したという報告が...」


「およ、またかダンジョンさん。こっちもここ数か月で大事になったよねぇ」


TSロリ化が一つのバラエティーとして確立していく傍ら、日本ではそれ以上に危険視される別の現象が話題となっていた。


それが「ダンジョンの乱立」である。


地震大国とまで称された日本だが、実は最近は地震の発生が緩やかになってきていた。北の雪国なんかじゃあ、もうめっきり地震は起きていない。


「それはすごくありがたいんだけどね。正直、俺も安心してるし」


しかしその一方で、日本の各地で「地下からダンジョンが生えてくる」、「いきなり道路が陥没して大穴型のダンジョンが出てきた」という意味の分からない事例が多数報告されるようになった。


「ほんと、ファンタジーみたいな話だよなぁ。俺の家もいつ沈むか分かんないし、怖いわぁ」


これには政府も大慌て。実際に多くの人々がこの謎現象に迷惑を被っていることを受け、評論家や地質学会の専門家らは一斉に調査を進めることに。


しかし、最後には全員が口を揃えて「異常現象、予測不能なプレートの暴走」であると結論付け、結局、現在も誰一人として有力な見解が示せずにいる。


―――「大阪府堺港に発生した海中洞窟型のダンジョンから、男女二人組が遺体で発見され...」


「なんで怖いかって、こういうニュースがあるからだよね。まぁ命知らずな若者に非があるけど」


Z世代の若者がバズり目的でダンジョンに侵入し、モンスターに襲われるなどして負傷・死亡する事案も近頃は多い。


特に、今ニュースで取り上げられた海中洞窟型には「幻想的な景色が広がっている」、「生き物と戯れられる」というデマ情報も蔓延っている。ダンジョンを観光名所だと勘違いして帰らぬ人となる、なんてこともザラだ。


「やっぱ情報リテラシーは大事よ。ネットに転がってる情報の嘘と本当くらい見抜けないと、今の日本じゃ生きてけないもん」


ゆえに、そういった情報統制も含めて早急な対応が求められている。


―――「東京都新宿区のダンジョンパーク『プレジャーランドシナスタジア』に、人気女児アイドルグループ『かまっ亭』のメンバーがお忍びで...」


「あぁ、今度はこういうのね。はいはい」


ダンジョンパーク「プレジャーランドシナスタジア」。


初めて日本で確認された、いわばダンジョン第一号がそれである。国の意向で真っ先に陸軍自衛隊が内部の捜索を行ったが、特にモンスターやトラップなどの危険因子は見つからなかった。


以来、「原初にして最も安全な優良物件」と評されている。


そんな甘々な一代目ダンジョンだが、安全ならばと企業が買い取り、今では子供から大人までが楽しめる遊園地に魔改造されてしまった。別に悪いことではないが、前例がない分、もし何か異変が起こったらと思うと俺は恐怖で震える。


「機会があれば行きたいけど...いかんせん何が起こるか分かんないからなぁ」


プレジャーランドシナスタジアはロリっ子ストリーマーたちがこぞって生配信を行う観光名所でもあり、連日溢れんばかりのロリがごった返していると聞く。俺もいつかその波に乗りたい。怖いけど。


「どうせ企業さんも『いい宣伝効果になる』としか思ってないんだろうね、怖い怖い」


仮にも遊園地であるため、入場にはチケット代がかかる。グッズ販売も行うあたり、所有する企業はまさしく利潤主義の大道を行っていると言えよう。良い金づるだとか考えてるんじゃないか。


「はっ、いけないいけない。朝からテレビ見てダラダラするとか、至高だけどどっかで後悔するやつじゃんか。早く準備して配信、配信♪」




―――さて、いろいろと偉そうに語ったが、一体俺は何者なのか。だって?




「えっと、今日の配信で作ろうとしてたのはー...っと」


見た目は例に漏れず、完全にロリっ子な元男。


「あ!違うじゃん!今日は食材調達のために雑談兼釣り配信する日じゃん!やばいやばいっ...告知した時間に間に合わないぃ~!」


背中に届くほどに伸び切った、きめ細かな水色の髪。ところどころ飛び出てるところがチャームポイントなアホ毛さん。くりっとしたアクアブルーなお目目が目立つ、整った顔立ち。130に満たない、まさしくロリロリな身長。


「パソコンとカメラと...あと必要なのは...」


ほんの数か月前に興味本位(グルメ欲)でダンジョンに挑戦し、無様にもトラップに掛かって息絶えた元美食家。


「釣り竿どこにしまったんだっけぇ~!?」


お情けで神様から「万物を食材に変化させる」というギフトを授かり、TSロリ転生を果たした...つまり、病に侵されることなくロリ化した女の子。


「バッグにしまってと...あぶなっ、パソコン置く折り畳み机忘れてた」


戸籍も職も家以外の財産も、すべてを失った悲しきロリっ子。


「よし、忘れ物なし!準備万端、容姿端麗、今日もカワイイ!」


グルメ目的で全国を一周するほどだった、前世の食への欲求。お料理が大好きっていうまさに女の子らしい趣味。そして何より、神様からお料理するためだけに貰ったギフト。


それらを余すことなく使いつぶして―――


「行ってきまぁ~す!!」




―――誰も挑んだことのない、「TSロリっ子お料理配信」という新ジャンルを開拓し、超絶大物になる予定の、斎凪 彩(ときなぎ あや)である。

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