第15話 移転交渉

 ケンピのことを相談しに来た相手は、ネルモルの商店街にあるパラギン・ビンテージというリサイクル店の代表パラギン-ASP。ミナヅキはパラギンに今日起きた出来事を話していた。


「今日になって、[ぎふと]AI大統領と政府がベギオントの街で、人間排除とも思える動きをしてきた。うちの会社では電脳化を進め、このケンピが代々受け継ぐ店がある商業ビルは、老朽化を理由に解体を言い出した。それぞれ猶予は2週間。どちらも急に仕事を奪われる」

「なんですッテ?急過ぎるワネ。も~、あの3代目イヤな感じヨネ。それで、どうしたいノ?」


「まだケンピには、ちゃんと言えてないけど、ケンピの店、安納パーツをこのネルモルの商店街に移転させられないか?ということを商店街会長でもあるパラギンさんにご相談したい」

「ほぅ、ほほぅ、安納ぱーつってアタクシ聞いたことあるワ。老舗ヨネ。今は、若い娘さんがあるじなのネ」


「このケンピが小さい頃からオレは関わりがあって、信頼できる人間。ネリキリ水産での代表格でもあったから、そちら側の知識も豊富」


 ネリキリ水産という、今は活動していないハッカー集団の名前をあっさり出したミナヅキに対して、ケンピが思わず声を上げた。


「こら、何、名前出してんのよ!そういうの言っちゃダメでしょ、アメフラシ!」

「パラギンさんは、そういう世界にも精通してるんだよ、オニダルマオコゼさんよ」


「え、あなたがオニダルマオコゼ?隣国のアッパーライトカンパニー解体に協力してたって言う噂ノ!」

「・・・はい、アンドロイド暴走とか情報の誤魔化しやってたので、ちょっと関わったことあります」


「あの話って、アタクシたちコノハナ製作所製アンドロイドは、大規模ネットワーク攻撃を計画してたノ。だけど、先手打たれて見守ってたワ。へ~、欲しいわね、そういう技術力。なかなかミナヅキチャンが、うちの専属になってくれないからサ~」


 パラギン-ASPの言葉に対して、ケンピがミナヅキを見つめている。


「何か、やってんの?」

「ん?ケンピの依頼を受けるのと同じようなことだよ。オレはさ、攻め込むみたいなものは対応が後手になりやすいし、瞬時の判断が遅れてしまう。それは知ってるだろ?だから、パラギンさんの依頼は、いろんなネットワーク攻撃の防御。防御小型端末みたいな」


「アタシの注文と真逆じゃない」

「そうだな、ケンピの依頼は、コンピュータの直接破壊。パラギンさんの依頼は、ネットワーク攻撃からの防御。矛盾になりそうで、ちょっと違う」


 そこへ、パラギン-ASPが話に加わってきた。


「ヤダ、ミナヅキチャン、攻めと守りを両方やってるわけネ。興奮するワ~、アタクシの所へ来なさいヨ」

「まず今日の話は、こちらのケンピの事が最優先事項。何か案は出ないもんですか?」


「そうねぇ、ケンピチャンはパーツショップ、電子機器に詳しくて、コンピュータもネットワーク絡みも知識がアル。そういう人間を一人で商店街に出店させたとしても、客がそのまま移動してくれるかは疑問。時間がある時に来ようとして数ヶ月という待ち時間が必要。ベギオント周辺から客が足を運ぶかって言われるとネット通販に頼るデショ。安納ぱーつの仕入先ってどこナノ?」


「仕入れは、指定業者が5ヶ所、不定期で複数という感じです。周辺国に発注することもあります。移転か廃業か、まだ今日起きたことなので連絡は出来ていません」

「ハァン、そうナノネ。・・・ケンピチャン、あなた、うちの店舗内で出店させるって言ったらドウスル?」


「どうする?って、そんな場所あるんですか?お店の商品がありますし・・・」

「所詮、リサイクル店ヨ?売り場にある商品を3階の倉庫に片付けるダケヨ。それに、ネット通販や鉄くず買取業者にガバッと売ってしまえば、店舗区画くらいの確保は、どうにでもなるワ。ただ、条件として、今後、ハッキング技術に頼ることがあると思うノ。その時に手を貸して欲しいワ。でも、攻め込むことはヤラナイ。ドウカシラ?」


「急な話でこちらも混乱している中、そのような提案をして頂けることはありがたいです。もう一点、住める場所って、ご存知ないですか?」

「ハァン、"住む"じゃなくて"住める"でイイノ?」


「今、住んでいるベギオントでは、ベッド、家具や家電製品が壁に埋め込まれた狭い場所に住んでいて、高額家賃を支払っています。それに比べたら、マシな所は多いのではないかと」

「なるほどネェ。それなら、3階倉庫に住んでみてはドウ?アタクシも住んでいるけど、アタクシ、アンドロイドだから、睡眠っていうより充電場所にしていて、だだっ広い空間があるノヨ。取引先に倉庫作る会社があるって、3階倉庫として使っている空間に住めそうな倉庫設備を組んでもらう。炊事場やトイレ・風呂は、その会社と工事相談が必要だけど、外付けでもいいでしょ?まずは、住む場所確保して、落ち着いたら、ちゃんと部屋借りてみればいいんジャナイ?」


「そのご提案、進めて頂いても構いませんか?装甲列車に店の荷物運搬申請を出しますので、また時間が必要ですけど、工事の時間等を考えれば丁度良いのかも」

「街移動の通行税の問題ネ。ベギオント・・・それなりに距離があるのヨネ~。うちの荷物運搬で装甲列車使う時に手数料として、ちょっと支払ってもらえるなら、まだ安く済むカモネ。その辺も、別途話を詰めマショウカ」


「え、荷物運搬も話乗って頂けるんですか!」

「そりゃ、今後、うちで働くようなものだから、個別の問題じゃないデショ?ドウスルノ?」


「はぁ~、ありがとうございます」


 ケンピは、深々と頭を下げ、ボタボタッと涙がこぼれた。横にいるモナカが、ケンピの涙をハンカチで拭いてあげた。


 また、パラギンが話し始める。


「ケンピチャンの話は分かったけど、他の二人はこの先どうするの?電脳化して会社残るノ?離れるノ?」

「ん~、電脳化したら、アンドロイドと通信で会話になるんだろ?声を発せずに」


「そうなるワネ」

「作業効率のようなものは、上がると思えます?」


「誰しも電脳化した所で、電脳機能を使うのは、元々個人の思考じゃないのカシラ?優秀な人間なら数倍の性能アップ。それ以外なら、その程度」

「オレは、能力今ひとつだからな。電脳化しても期待できないな」


「また、そういう言い方をスル!すごい事やってきてるジャナイノ、ミナヅキチャン!」

「そうなのかな?なんとなくやってきたからさ」

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