第14話 パラギン・ビンテージ

 急に店を失ってしまう。政府による商業ビル立ち退き命令により、ベギオントの街で、安納ぱーつという店が継続できなくなる。ケンピは、激変過ぎる状況に、思わず涙を流した。それを見て、モナカがミナヅキをじっと見つめる。


「あのさ、その2週間って期限も、会社がオレらに電脳化と早期退職を判断させる期限と同じなんだ。一気に変革を進めたいわけだ。ん~、ん゛~、あ゛~!よし、電話しよう!話を聞いてもらえるかもしれない」


 ミナヅキは、部屋から出て電話をかけた。ケンピは顔を上げられず、モナカはそばにいるしか出来なかった。


 しばらくして、ミナヅキが部屋に戻ってきた。


「ケンピ、話聞いてくれるってさ。一緒にネルモルの街へ行こう。まず、状況を話してみよう」

「へ、今から?」

「少しでも変化を起こしたいなら、今、動かないと。これがダメなら、また次の案を考える。まだ快速の装甲列車に間に合うぞ」


「ケンピ、行くよ。ワタシも付いてくから」

「モナカ・・・」


 ケンピは、涙を拭いながら身支度をして、ベギオント駅に急いだ。どうにか間に合った快速の装甲列車でネルモルの街を目指す。

 仕事帰りで混雑する装甲列車内、ケンピはうつむいている。ミナヅキは車窓から遠くを眺め、モナカはその姿を見ている。ミナヅキとモナカも、会社に残るかどうか考えなければならず、結果として三人共、モヤモヤした重苦しい気持ちを抱えたまま言葉を発せられず、ネルモル駅到着を待った。


 ネルモル駅到着後、ミナヅキが誘導し、駅の南口改札を出て、商店街の方に歩き出した。


 ミナヅキが、戸惑う二人に声をかける。


「二人共、この南口の街並みは見たことあるか?」

「夜は、ないですよ」


 モナカは返事をしたが、ケンピは顔を横に振っただけ。ケンピは、喉の奥に何か詰まったかのように、声が出しづらそうで、いろいろと我慢しているように見える。

 ミナヅキたちは、商店街の通りを歩くと、途中声をかけられた。


「ミナヅキさん、お帰りなさい。今日はお連れ様がいるんですね!」

「ただいま、キナコちゃん。この二人を今からパラギンさんの所へ連れて行くんだよ」


「あ~、会長さんの所へ?お気をつけて~」

「は~い」


 白玉飯店の娘キナコとミナヅキのやりとりを聞いて、モナカが言った。


「あの店の2階に住んでるんですか?」

「あぁ、そうだよ。さっきのキナコちゃんって娘がよく気が利くんだよ。商売上手だし」


「それで、今からどこまで歩くんです?」

「もう建物は見えてるよ。そこに、この商店街を取りまとめている会長のパラギン-ASPってアンドロイドがいる。そこで、ケンピの移転先の口利きやってもらおうかなって」


 それを聞いて、ケンピは、ハッと息を飲んだ。ものすごく無理難題をミナヅキに頼んでしまったことに、申し訳なさを感じている。


 シラタマ飯店から5分ほど歩いた所に目的の場所があった。


「さ、着いた。ここが目的の場所『パラギン・ビンテージ』というリサイクル店。入ってから、パラギンさんを呼んでもらうよ」


 ネルモルの商店街にあるパラギン・ビンテージは、3階建ての横に大きなビル。1~2階が店舗で、3階が倉庫になっている。

 ケンピは下を向いて歩いていたため、このビルを見てようやく頭をあげた。そして周囲を見渡すと、今頃になって驚く。商店街は、とても明るい看板やネオンサインが溢れていて、ベギオントの街のような洗練され過ぎて冷たい明るさとは違い、人間とアンドロイドが楽しそうに歩いている活気に気付いたからだ。その光景を眺めていると、ミナヅキに呼ばれている声が聞こえてこなかった。


「おーい、ケンピさんよ~、主役が入ってこなくてどうすんの。来なよ~」

「ぁ、はい、行きます」


 3人は店内にようやく入った。すぐにミナヅキがアンドロイド店員に話しかけ、少し待った。それから、大きな姿が近づいてくる。


「マイド、マイドォ~、ミナヅキチャン、やっと来たワネ~。お電話頂いて、びっくりシチャッタ。やっと、こちらの話を聞いてくれるのかと思っちゃったワ~。で、どちらの娘さんが、電話の内容の方?」

「この真ん中にいる、小柄な女性。ケンピと言います。ケンピ、こちらに挨拶をして」


 ミナヅキが、挨拶を促した。しかし、ケンピは、目の前に来たアンドロイドが、背が高く樽体型で少し紫の入ったウルフカットで白シャツ、サスペンダーの出で立ち。あまりの迫力に動揺していた。


「ア、アタ、アタシは、ケンピと申します。こんばんわ」

「そう、ケンピサンネ。アタクシ、このパラギン・ビンテージの代表やってます、パラギン-ASPって言いマス」


「パラギンさん、こっちの女性は、オレと同じ会社で、後輩のモナカと言います」

「パラギンさん、こんばんわ」

「あら、コンバンワ、マイドォ~。それじゃ、皆さん、ついてキテ。応接室に案内するカラ」


 動く大きな樽の後ろを3人がトコトコ付いていく。お客さんが多い時間帯なので、ジロジロ見られるが、その視線を喜んで、パラギン-ASPは挨拶して、軽く手を振って進んでいく。

 たくさんの商品棚の間を通って階段を上がり、案内された3階の応接室。実際は、社長室を兼ねた場所のようだ。対面で座り、真ん中にケンピを座らせ、両側にミナヅキとモナカが陣取る。そして、パラギン-ASPがどっしりと腰掛けた。しかし、正面から見るパラギン、人間の2.5倍は横幅がある。まさに樽。


「さっきも言ったけどさ、ミナヅキチャンから電話もらうなんて思わなかったワ。うちの仕事依頼で電話することは、ちょいちょいあったけど、いろいろお誘いしても断ってばっかりダシ」

「そういうけど、結局飲み屋で出くわすから、まぁいいじゃないですか」

「よくないワヨ。たくさん借りを作っちゃってるから、お返ししないと失礼にあたるじゃないのサ。で、今日は何ナノ?」

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