第13話 強制立ち退き

 [ぎふと]AI大統領に反論した人間社員が警備アンドロイドにつまみ出されていった。


 再び会議室の扉が閉められ、[ぎふと]AI大統領が話し始めた。


「少々妨害させられましたが、残っている人間社員の皆さんは、よく考えて行動してクダサイ。確かに、電脳化に恐れを抱く方もおられるデショウ。これまでも、電脳化手術により、後遺症等が生じた事例もアリマス。しかし、今回の電脳化提案は、我々が研究を進め、精度を高めた結果、政府が薦める新しい電脳化技術なのデス。その技術を受け入れられた場合、皆様が最先端を歩まれる羨望の的となり、まずベギオントが発展し、それから我が国を担う方々となって頂きタイ。我々、AI政府と共に邁進シマショウ!」


 会議室にいる3分の1くらいの社員が立ち上がり、大きな拍手をして[ぎふと]AI大統領の言葉に感動していた。


 それから、スクリーンから大統領の姿が消え、照明が点けられた。ぞろぞろと人間社員たちが会議室を出ていく。出入りの扉が混雑しているので、まだ席を立たないミナヅキと、その様子を見るモナカ。


「あの~、先輩、どういう印象ですか?大統領の提案聞いてみて」

「うん、そうだな・・・とりあえず、トイレに、いや、お花を摘みに行こうかな」


 モナカは、ミナヅキの右肩にグーパンチをした。ミナヅキなりの緊張を解すための言葉とモナカは理解していた。


 それから、人間社員は業務に戻ったが、表情はさまざまだった。ミナヅキは、表情変えず業務をしていると、トコフZGが作業依頼にやってきた。


「ミナヅキサ~ン、コンピュータの部品増設頼めマスカ~?」

「は~い、伺います~」


 トコフZGがミナヅキを呼び寄せ、窓際の他に社員がいない場所で作業を頼んだ。


「聞いたヨ。ミナヅキサン、よく考えてナ」


 トコフZGは、小さなメモ紙をそっとコンピュータの影になる位置に置き、ミナヅキに渡した。


「うん、分かってるよ。コノハナ製のアンドロイドは、心配性だな」

「えぇ、コノハナ製は他社より人間くさいダロ?」


「機械油より、汗臭さを感じるよ」

「よく言うヨ」


 手際よく作業を済ませ、ミナヅキは手を洗いにトイレに向かった。トイレに誰もいないことを確認して、個室に入る。トコフZGが渡してきたメモ書きを見ると、こう書いてあった。


「3代目に賛同デキナイ。よく考えろヨ」


 その内容を見て、フッと笑みが出た。


「やっぱり、人が入ってんじゃねぇのか、アイツにはよぉ」


 ぽそっと呟いて、メモ紙を小さく折りたたみ、財布に入れた。トイレに流して証拠隠滅したいが、社外に持ち出して処分することにする。


 気付けば、終業の時間。いつもより、精神疲労がドッと出た一日。早々に帰ろうと思い、会社を出る。携帯電話の電源を入れ、データ受信をしていると、ケンピからメールが来ていた。


「協力求む。アメフラシ、どうしたらいいか、分からなくなったよ」


 隣りにいるモナカを見るミナヅキ。


「あのさ、とっとと帰りたいんだが、珍しい文面でケンピからメールが来た。一緒に来てくれるか?」


 メール文面を見せるミナヅキ。


「ワタシで分かる内容なんですか?というか、一緒に行っていいものやら・・・」


「ん?二人は顔見知りというより、すでに友達みたいな感じに見えたから、いいんじゃないのか?」

「え、あ、そうなんすね。反応見て、マズかったら、帰りますね」


 ミナヅキとモナカは、古い商業ビルにある安納ぱーつに向かった。


 歩いている途中、モナカが世間話をした。


「当たり前だったので忘れてましたが、お金の単位って大統領の名前なんですよね」

「そうだな。AI大統領になってから、呼び方変わっちゃったんだよ。今の大統領も長いから馴染んでるけど、お金の価値は変わらない。しかし、お金の単位である呼び方を変えられるとすげぇ戸惑う。昔はどうだか知らないけど、少々支配されてる感はあるよ。こういう話、社内では出来ないけどな」

「はい、警備アンドロイドが後ろに立ってるかもしれないので」


 そんな話をしたせいか、後ろから足音がすると、振り返らず二人は早歩きになって移動していた。


 ベギオントのいつもの商業ビルに到着すると、多くの人が集まっており、壁に貼られた赤い紙に黒文字で『危険:倒壊の恐れあり』と表示されている。ただ、商業ビルの見た目は、何も変わっていない。ここしばらく強風も吹いておらず、地震もないし、近隣でビル解体作業も行なわれていなかった。

 商業ビル内に入り、地下へのエスカレーターに乗る。ざわつく人々は、緊急セールといった張り紙を見て、何を買うか考えていた。地下街も騒がしく、洋服店では奪い合うように人が争っている。


 安納ぱーつに向かうと、受付には、[閉店]と手書きの立て札が置いてあった。


「こんちは~、誰かいますか~?」


 ミナヅキが声をかけた。その声を待っていたかのように、奥の部屋からケンピが飛び出してきた。そして、ブンブンと手招きをして、二人は店内通路を通って、奥の部屋に進んでいった。


「何があったんだよ、急すぎないか?」

「そうよ、アメフラシ!今日、昼過ぎになって、黒服の役人たちが大勢でやってきて、この商業ビルが老朽化により倒壊するから、その前に壊すって。だから、営業終了と言われたんだ」


「いや、おかしいだろ、何も自然災害起きてないし。ん?役人?そうか、政府か」


 ミナヅキは、モナカを見て、うなづいた。


「へ、え?政府って、今日の話がここにも絡むってことですか?」


 ミナヅキは、ケンピに会社であったことを話した。人間排除とも思われる電脳化を薦める提案と早期退職。そして、商業ビルの営業停止。


「ケンピよ、政府はベギオントから人間を減らしていくんだよ。これにあらがうには、オレらは準備不足だ。そもそも、対決姿勢もとっていないから、何から手を付けていいか、すべて後手に回ってしまう」

「店が無くなれば、住んでる家賃も払えなくなる。この展開は考えていなかった」


「ケンピは、ベギオントに住んでるのか?」

「うん。すごく狭い場所だけど、寝るだけのような住まいがある。それでも、家賃がすごく高いんだ。もう無理だよ。店の立ち退き期限は2週間。荷物持ち出すなら、その2週間でやらなきゃいけない。他の街に行こうにも、政府認可車以外の車を使った荷物運搬って通行税が高すぎるでしょ。装甲列車での運搬には審査開始に時間がかかる。このままでは、何も出来ず、ビル解体され、持ち出せずに商品が潰されてしまう。代々続けてきたお店をアタシが守れない」

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