第12話 AI大統領

 ミナヅキが飲み物を買いに行っている間に、モナカとケンピは、ミナヅキについて話をしていた。


「それに、ミナヅキって電脳に興味あるのかな。ケーブル繋がなくて、ネットワークに接続出来るけど、頭脳処理が行き過ぎると加熱しやすくて、生身の体にも影響でるって。しかし、モナカさん、ミナヅキのこと考えすぎというか、心配しすぎ」

「・・・確かに、そう思います。遠い親戚のおじさんっぽい所があって、何か大丈夫かな?って」


「あははははは、確かに親戚のおじさんの感じする。アタシも、前から知ってるけど、身内っぽさがあって、ずーっとタメ口になっちゃってる」

「会社の先輩だから、敬語使ってますけど、気兼ねない感じありますもの」


「あ~、モナカさん、アタシには敬語使わないで大丈夫だよ。アタシは普通にしゃべっちゃってるし」

「え、あ、では、徐々に慣らしていきます。あ、慣らすよ」


「うぃ」

「うぃ」


 モナカとケンピが、仲を深めていると、ミナヅキが飲み物を買って戻ってきた。


「ミナヅキ、遅い」

「缶の補充をやってたんで待たされたんだよ。ほれ、ケンピにはタンポポコーヒー。モナカにはオーガニックミルクティー」


「ミナヅキさんは、何にしたんです?」

「カフェイン多めの炭酸飲料」


「また夜更かしですか?早く寝てください」

「早く寝ろ!」


「モナカはともかく、ケンピは商品作成を頼むオレに、早く寝ろは言えないだろう?」

「いえ、先日納品して頂きましたので、早く寝やがれ。あ、いや、食事奢ってから、寝てしまえ」


「そうか。冬眠するので、食事は無しで」

「いや、待ってミナヅキ様!どこか、メシ、頼む」

「そうですよ、冬眠前にはお腹いっぱいにしておかないと」


「さて、知りませんな」


 また、3人で騒ぎ出し、他の客から写真を撮られていたが、ケンピがネットワーク検閲プログラムを作り、画像投稿は即座にウニ画像に差し替えられていた。



 ある日の午後、いつものように淡々と仕事をしているカルメラ・エレクトロ社内。上司であるアンドロイドのBK-4Bが人間の社員に対して連絡をした。


「今日の15時、会議室に全員集まるように」


 通常、会議の時は、アンドロイドと混合で行われる。人間だけというのは、以前の泡糖電子工業での会議はよくあることだったが、カルメラ・エレクトロに移ってからは初めて。気にしやすい者や噂好きは、あれこれと想像を膨らましていた。


「人間だけ集めたプロジェクト始動か?」

「制服支給だったりして」

「飲み会の話だろ」

「人事異動では?そろそろ、開発に加わる人材を増やすはず」


 適当な憶測を言い合っていると、会議時刻が近くなり、人間は皆、会議室に移動した。

 会議室内に入ると、『こんなに人間がいたんだ』と思えるほど、他の部署からも集められていた。ざっと50人くらいはいるだろう。並べられたパイプ椅子に座り、開始を待つ。ミナヅキの横には、モナカが陣取っていた。


「どう思います、先輩」

「ん~、期待はしない。妙な感じがする」


 正面に大きなスクリーンが下りてきて、照明が消された。そして映し出された姿に、皆が驚いた。AI大統領の[ぎふと]の姿が現れたのである。


 AI大統領は、アンドロイドのような体がない。あくまで、モニター画面上に人影が映し出されるだけで、姿が見えないと存在しているように見えないという理由から、モニター画面で登場する。ちなみに、[ぎふと]AI大統領は、メタリックというのか金属テカテカな姿を基本の姿にしており、30の現場での同時会話等、出力が可能。そのひとつを使って、会議室に登場した。


「皆様、直接お目にかかるのは初めてデスネ。3代目AI大統領[ぎふと]と申しマス。政府系企業であるカルメラ・エレクトロは業績を伸ばし、非常に順調な成長を見せてオリマス。しかし、現状では、人間社員の作業効率や生産性は非常に低く、アンドロイド社員との差が歴然。今後のさらなる成長と発展をするために、人間である皆様にはご提案がアリマス。アンドロイド能力同等の電子脳核に交換する、いわゆる、人間の電脳化するコト。もちろん、費用等の負担は政府が行ないマス。電脳化した人間社員の給与はこれまでの4倍になり、新たな開発業務に携わって頂くことにナリマス。ただ、強制でも、強要でもありませんが、新たなアンドロイド社員の補充が用意されているため、基本的に残留は認めず早期退職扱いということシマス。もちろん、退職金はお支払いシマス。その額は、1000万ギフト。急な提案なので、じっくりと検討する期間は必要デス。その猶予は2週間と致しマス。ご検討の程をお願いシマス」


 [ぎふと]AI大統領の話が終わった所で、すぐさま質問が投げかけられた。


「質問いいですか。電脳化を強制しないと言いながら、電脳化しないと会社を辞めなければならない。それは脅迫ですよ!」


「そうデショウカ?基本的に残留を認めないと言っただけで、例外もアリマス。通常業務から離れ、掃除メンテナンスロボットの清掃整備に空きがあるので、残留という選択肢は存在シマス。よって、強制、強要、脅迫にも該当シマセン。そもそも、政府系企業なのだから他企業のように社員の意見が多く採用されることがないのデスヨ。決めるのは、政府。数あるデータから考えているのデスカラ」


「そんな、強引な!訴えてやる!」


「そうデスカ。即決裁判システムにかけた場合、今の質問者は、社長でもあるAI大統領[ぎふと]の複数選択を提案したことを無視して意志を示さず、会社を混乱させる要因を持ち出した訳ですから、業務妨害とみなされマス。即決裁判システムを使用シマスカ?ここで、社長権限に従いマスカ?」


「んん!・・・社長権限に従います」


「分かりマシタ。社長権限により、この説明会を妨害したため、今の質問者を懲戒解雇とシマス。訴えを起こせば、より大変な事態になるデショウ。即刻退社シナサイ」


「何言ってんだ!そんな横暴があるか!」


 大声を出した質問者は、こういう事態を想定してあったかのように大勢の警備アンドロイドが会議室に突入し、取り押さえられ運び出された。ざわつくことすら出来ない会議室の人間社員は体が硬直している者が多数いる。

 モナカも肩をすくめ、少し震えていた。隣を見ると、ミナヅキの口角が、ほんの少し上がっているように見えた。その姿を見て、モナカは落ち着きを取り戻した。

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