第16話 終電後

 パラギンとの話し合いで、希望が持てる展開となったケンピ。さらに今後についてパラギンとミナヅキが話し合っているところへ、少し落ち着いたケンピが言う。


「ミナヅキは、ネリキリ水産の頃がトラウマになってるんでしょ?あんな変にプライド高い人たちに言われた事とか、どうでもいいのよ」

「実際、出来ないことが多い」


「あほぅ、無限大あほぅ!適材適所って前から、自分で言ってたじゃない!ミナヅキだから出来る場面で活躍したじゃない!今だってアタシを助けてくれた。パラギンさんに会わせてくれて、良い方向に希望が持たせてくれたでしょ!」


 そこに、モナカも口を開いた。


「ミナヅキさん、社内でも頼られること多いんですよ。人間だけでなく、アンドロイドにも。でも、ミナヅキさんじゃなくても他に任せればよい仕事をさせられている。そこに思考が縛られているように思います」

「なんだか、ずいぶん責められてるな。今日は、いろいろありすぎたんだ、自分で考える時間が欲しい。それで、パラギンさんとケンピは連絡先を交換して、直接やり取りをお願いします」


 ミナヅキは自分の意見を言わず、今日は、ケンピの店舗移転を優先することにした。それから、今後のやり取りを確認した後、三人はパラギン・ビンテージを出ることにした。店の出入口で、パラギン-ASPがミナヅキに言った。


「待ってるからネ。相談しなさいヨ」

「えぇ、分かってますよ」


 そう言って、ミナヅキは手を振り、モナカとケンピはお辞儀をした。


「さて、夕飯食べ損ねたな。飲食店が閉まり始めてる」

「そういう時間ですもん」

「ごめんなさい、アタシの事で二人に付き合わせてしまって」


「急に決めた政府が悪い。そういうことだ」

「ケンピさん、帰りの装甲列車動いてるんですか?」

「うん、ギリギリかも」


 三人は、ネルモル駅に向かって急いだ。

 駅の改札口に到着した頃には、電光掲示板の表示が消え、本日の装甲列車運行が終了してしまった。


「間に合わなかったな~」

「ごめんなさい、アタシのせいで」


「ん?謝るのは変だぞ。オレたちは、ネルモルの住人だから、それぞれの部屋に帰るだけだが、ケンピはベギオントに今日は帰られない」

「それなら、ミナヅキの所に泊まる」


 ケンピの発言に、モナカが目を丸くする。


「おい、ケンピさんよ~、世間体ってものがあるだろ。年頃の娘さんをオレの所に泊めるってのはマズイだろ」

「今日は、いろいろ迷惑かけたし、その迷惑ついでにミナヅキのベッドで寝る。アメフラシは、水槽で寝て」


「アホゥ、ド・アホゥ!どこまで海洋生物扱いか!モナカさんよ~、そこのケンピ野郎を泊めてやってくれないか?」

「はい、そのつもりです」


 モナカは、ケンピの右腕を掴んで、モナカが住むマンション方向へ引きずっていった。ケンピは、小さく手を振ってミナヅキに挨拶した。


「人にごちゃごちゃ言うけど、ケンピも不器用だよ。泊まる気ないのに絡んできて、気の使い方がヘタだな」


 ミナヅキは一言呟いて、白玉飯店2階の部屋に帰っていった。遅く帰ってもいつもの確認作業は怠らず、小型端末の作成依頼がないかメール確認して、シャワーを浴び、サワー缶を飲んで、ようやく寝た。


 モナカとケンピは、ネルモル駅北口にあるマンションに向かった。夜でも警備アンドロイドが立っており、地域の安全を守っている。


「こんばんは、いつもご苦労さまです。今日は、お客さんが入ります。認証お願いします」

「はい、モナカサン、お帰りナサイ。・・・人間1名、危険物の所持無し、通行許可シマス」

「お、お邪魔します。モナカさんの連れですので、失礼しますぅ」


 ケンピは引きつり笑顔で、モナカとマンション玄関から入っていった。

 エレベータで3階に上がり、モナカの部屋にケンピも一緒に入る。


「お邪魔しまぁす」


 ケンピが周囲を確認しながら、靴を脱ぐ。

 モナカの部屋は、扉から入るとすぐキッチンと部屋でいわゆる1Kという部屋。思いの外、物が無く、すっきりし過ぎている印象だった。


「適当に荷物置いてね。パジャマ代わりの物は用意するから、シャワー浴びたら?」

「あ、はい、すみません。ご迷惑かけます」


 ケンピがシャワーを浴び、その後にモナカもシャワーを浴びた。


「ケンピさんは、お酒飲めるの?」

「はい、ちょっとなら」


 急展開の一日だったので、緊張をほぐすために、シャワーとお酒の力を借りる。モナカは、カクテル缶をケンピに渡して、スナック菓子を開け広げて、乾杯をした。


「今日は、大変だった!だから、ちょっと飲む!」

「はい、モナカさん、ご迷惑かけてばかりで申し訳ないですが、飲んでしおう!」


「んぐ、んぐ、ふゎー」

「ぷは~、お゛ぉぅぇっへ~ぃ」


「ケンピさん、ミナヅキさんのオジサン成分をもらったようね」

「あ~、さん付けもヤメて、もうアタシ、今日ホントにダメな事しか周りにしてなくて」


「そりゃ、激変過ぎる一日を過ごせば、凹むでしょ」

「本当にそう。助けてもらってるのに、ミナヅキにも、あんな態度とか失礼でしかない」


 また、ケンピは涙を流し始めた。


「昔からの関係性って、最近聞いたばかりだけどさ、本当にミナヅキさんの部屋に泊まるつもりだったの?」

「うん。お詫びというか、ちゃんとお礼を伝えないといけないと思って。でも、いつものふざけたこと言ってしまって」


「ちゃんと話せば分かってもらえるんじゃない?」

「今日は、ミナヅキを怒らせた。呆れさせた・・・」


「ん、それなら、明日朝の通勤でホームでお詫びとお礼を伝えたら?」

「話聞いてくれそうなら、そうする」


 モナカとケンピは、予備の寝具がないため、二人、モナカのベッドに入って眠りについた。



 翌朝、早めに朝食を取り、ネルモル駅のホームでモナカとケンピは、ミナヅキを待った。

 少し待つと、階段を下りてくるミナヅキがいた。


「あ~、ミナヅキさん、今日も顔色良くないな~」

「え、いつもあんな青白いんだ。朝は苦手って言ってるけど、辛そう」

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