第8話 店舗裏での交渉
ミナヅキは、依頼があった小型端末の動作確認を終え、無事にコンピュータを破壊することができた。
燃やしたコンピュータを部屋の外に出し、掃除をして、シャワーを浴びた。窓を開けているので、外に明かりが漏れるのを避け、間接照明にする。それから、洗濯機を回している間に、冷凍食品を温めて、それを夕飯にする。今日の冷凍食品は、おつまみセット。何に似せたかよく分からない合成肉の揚げたものに、パスタにマッシュポテト。それに柑橘系のサワー缶を飲む。ぷしゅっと開けて、ぐびぐびと飲み、肉をかじる。
ぼんやりと外に目をやると、商店街からの看板やネオンサインで、夜だけど、とても明るかった。夜は早くから普段カーテンを閉め切っていて、人が暮らす明るさをあまり気にすることがなかった。なので、その活気が新鮮に感じられる。
ようやく部屋の換気が済んだ頃、コンピュータにメール受信があった。そこには、『差出:安納ぱーつ』と表示される。食べた器を流し台に置いてサワー缶を持って、コンピュータ前に座る。
「アメフラシ様、依頼主から催促がありました。いつ頃、完成予定でしょう?連絡お待ち致します。」
ミナヅキは、早速、返事をした。
「安納ぱーつ様へ。ご依頼の品、動作確認終了し、完成しております。いつお持ち致しましょうか?」
窓とカーテンを閉め、静かで少し
「可能ならば、明日お昼に持ってきて!急ぐ分、現金払いしてくれるってよ!」
「了解。おっさんは、もう寝る」
お互いの返信がなんとも雑な内容だったが、業務的なお硬い内容の方がふざけあっているのだろう。ともかく、ミナヅキは寝坊しないよう、早めに寝ることにした。
ピリリッ!ピリリッ!
ミナヅキは、目覚まし時計に起こされ、どんよりと重い気分でベッドに腰掛ける。いつもの朝の風景だ。とりあえず、やかんに湯を沸かし、流し台で顔を洗う。顔を拭いて、何かに気付く。
「あ、洗濯後の乾燥ボタンを押し忘れている・・・外に着ていくもの、どうすっかな」
普段スーツだが、シャツをまとめて洗ったので替えがない。部屋を見渡す。あまり外に出かけないミナヅキは、普段着もスウェットで済ませる。
「この前、通販で買ったやつを着るしかないか。そもそも偽装工作みたいな姿だし」
バタバタと準備をして、駅に向かい、快速装甲列車でベギオント駅に行った。
休日のベギオントにある商業ビルは、いろんなジャンルの店舗に多くの客がひしめきあっている。しかし、ほとんどの客は上層階に向かう。ミナヅキは、すぐさま地下に向かった。
「こんちは~」
「はーい。あれ、今日の配送は休みじゃなかったんですか?」
「何言ってんだ?依頼の品を持ってきたんだよ」
「あれ、アメフラシじゃん。何その格好?運送屋と思った」
ケンピが、ケラケラと笑った。ミナヅキの格好は、上下一体となったカーキ色のツナギ作業服に帽子を目深に被った姿。まさに業者スタイル。
「乾燥機かけるの忘れてさぁ、休みに着る服がねぇんだよ。ただ、最近『カヌレカラーズ』って作業服ブランドが男性用も発売するようになったから、部屋着と近所ウロウロする時に着れるかなって買ったやつなんだよ」
「あ~、元は女性向けの作業服ブランドね。隣の国だから、意外に近い所だよね。でも、アメフラシ叔父様が着ると、業者の人だよ」
「だろ?各所潜入するのに、騙せそうでさ」
「・・・ちょっとイヤミで言ってみたんだけど」
「・・・重々承知しておるわけなんだけど。で、依頼主は、もう来てるのか?」
「まだ。店の奥で受け渡しだから、入っちゃってよ、業者さん」
「台車押してた方が、もっとリアルだな」
「領収書と印鑑も用意しといてよ、って冗談はいいから、もう入って」
ミナヅキは、安納ぱーつ店舗奥の部屋で待つことにした。おそらく初対面の相手だろうから、念の為、白いマスクをして、鼻と口を隠しておくことにする。
しばらく待っていると、コンコンッと、ドアをノックする音がした。
「お待たせしました、依頼主がお見えです」
人間の小太り中年男性が、ひょこひょこと部屋に入ってきた。パイプ椅子を3つ置いたら、狭く感じる場所に仲介役、依頼主、製作者がいる。
早速、仲介役ケンピが主導で話が始まったが、気を利かせてくれた。
「では、手短に。こちら依頼主の方。匿名希望、素性明かさず。で、このマスク姿の方が、運送業の方で製作者の代理人。作られた品を拝見できますか?」
ミナヅキは、カバンから緩衝材に包まれた3つの小型端末を取り出した。
「こちらの3品を預かってきております。ただ作られただけでなく、私の目の前でコンピュータ破壊動作を確認しております」
「へー、こんな小さいのか。何回くらい使用できるの?」
「元々の耐久力によるでしょう。他に使用者の力加減によります。また、何度も使うと、その行動が周囲にバレるので、それも使用者次第」
「安納ぱーつの紹介だから発注したけど、こういう見た目なんだ。想像と違ったな」
「では、匿名さん、ヤメますか?」
ケンピが、発注を急がせた割には、欲しくなさそうな依頼主に交渉停止を申し出た。
それに合わせてミナヅキも乗ってみる。
「こちらも別の欲しい方に交渉を優先しますが?この小型端末を使用後、物理破壊・証拠隠滅しやすいようになっているとのことなので、見た目重視なら、よそへ聞いてみられてください」
「いや、その、ん~。予定額ほどの価値があるようには見えない」
依頼主がゴネだしたので、ケンピが裏の顔を出した。
「ん~、そうですか。匿名さん、あなた、某会社のシステム担当ですよね。最近、架空見積り出して、他社との取引をしているように見せかけ、横領されている。それで、その金を一部投資、残りを自分の口座に振り込んだ。その証拠隠滅に、この有名な小型端末使ってみようと。違いますか?」
「なんでぇ?名前言ってないよぉ」
「匿名さん、アタシも協力してくれる調査部隊がおりまして、この交渉を無駄にされると、この3人が防犯カメラ映像で記録が残ったことで、あらぬ疑いがかけられてしまう。その映像記録を消去するにも、お金出して依頼しなきゃならない。さぁ、どうします?」
「・・・分かったよ。予定額を支払うよ」
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