第7話 ミナヅキの裏稼業
ミナヅキとケンピの小競り合いが始まりそうだったので、モナカが割り込んで質問した。
「えぇと、ケンピさんもハッカーってことで、いいの?」
「いや、モナカさん、アタシはもうハッキングから離れたの。ただ、他のハッカーグループも安納ぱーつの顧客でもあるから、商売人として接しているだけ」
「そうなの。さっきの人が『あんな形で』っていうから、抗争みたいなのがあったのかなって」
「抗争は、たまにあってたけど負けなかったし。あのね、色恋沙汰に巻き込まれて、私怨とか鬱陶しくて。アタシもアメフラシみたいに怨恨相手のコンピュータを大破壊して、相手のネットワーク上のデータまで消去してやったわ」
「猛毒にトゲ多数。でも、身は美味、高級魚。恐ろしや、恐ろしや」
「コラッ、アメフラシ!あんたの職場の使ってるコンピュータ端末をどうにかしてやんぞ!」
「おう、やってみなよ。オレの専用端末、無ぇから!」
「んん゛?何、言って・・・」
ケンピは驚きのあまり目を丸くして、ミナヅキの顔を見た。
「いや~、だってハッキング苦手だとしても、仕事する分には問題ない知識量なのに、なんで?」
「会社がベギオントに移ってからの話をたまにしてるけどさ、人間にはコンピュータの仕事を任せないんだよ。アンドロイド優位にしたいようだ」
「おおぅ、やべぇな、政府関連企業」
思わずモナカが会話に乗っかって、声を上げた。
「そうなんです、ミナヅキさんって出来るのに仕事させてもらえないんです」
「そこ違うぞ、オレにセンスがないだけ。それに他の人間もコンピュータに触れる時間減ってるだろ」
「・・・そんなことない」
モナカのミナヅキを見る寂しそうな表情を見て、ケンピが言った。
「モナカさんが見て、知っているミナヅキの仕事っぷりは、AIたちには理解しにくいんでしょう。人間から見ても、ミナヅキにしか分からないことあるんで」
「はい・・・」
ミナヅキは、周囲の客たちがジロジロと見て、『痴話喧嘩しているんじゃないのか?』と聞こえたため、早急に支払いを済ませた。
「モノが出来次第、また連絡する」
「毎度どうも。あんたのコンピュータ、ぶっ壊してやる」
「依頼品が作れなくなるぞ。またな」
「うぃ。モナカさん、また来てくださいね」
「はい、失礼します~」
長話をしたため、ずいぶん遅い時間になった。ミナヅキとモナカは、ベギオント駅に向かい、快速の装甲列車に乗り込んだ。珍しく横長座席に座れ、一息ついた。
「ミナヅキさんが、あぁいうことをしているとは。意外であり、納得いくことでもありますね」
「ん~、自分からベラベラと話せる内容でもないからなぁ。ケンピがいたから、話しても構わない内容で、信憑性も出ることかな、と」
「ま、驚きますよ。信じてもらえにくいことですし。・・・いくら稼いでいるんです?」
「それ聞くのか?・・・給料の3倍だ、依頼がない月もあるけど~」
ガッ!と勢いよくミナヅキを見るモナカ。
「本当ですか!でも、時計とか身なりに高級品がないですよ」
「そりゃ、材料費や動作確認や試作品で費用かかるから、大変なんだぞ。新作作らないと売れないこともあるから」
「分かりました。今日はもう眠いので、別の日に良い物、食べさせてください。それが口止め料です」
「んなぁ~、マジかよ。って、別に構わないけどさ。あ~、ネルモル駅南口にさ、Barがあるんだ。そこでもいいか?」
「お酒は食べ物ではないです。酔わせて、何をするつもりですか」
「料理出るぞ、そこ。それなら、別の所だな」
「どこでも良いですよ、一緒なら」
「ん?あぁ」
ネルモル駅に着いて、2人はそれぞれの住まいに帰った。それから、同じ様に、ベッドに倒れ込んで、妙な疲労感で寝入ってしまった。
それから、また同じことを繰り返す単調な日々が続く。何も欲を出さなければ、楽して収入を得られる訳で、その結果、人間は考えが分かれる。仕事が生きる全てではないものの、物足りなさを感じて精神を摩耗していく者、単調な仕事をしていくだけで一定額の収入が入り、日々暮らせる。カルメラ・エレクトロに在籍している人間の3分の2は、物足りなさを感じている。買収前の泡糖電子工業での製品を生み出し、作り上げていき、前向きに苦悩し、達成することが楽しかった。
ミナヅキは、かろうじて帰宅後のモノ作りがあることで精神的な逃げ場があった。現在作っている小型端末は、コンピュータに接続し、必要な情報を探し出し、その目的データだけを改ざんするイタズラのような商品、データの完全消去、コンピュータ自体を破壊するモノ。
それぞれが、過去に作った実績のある商品で、ミナヅキが作るものは、ネットワークからの侵入ではなく、物理接続が必要な物。仲介役となる者が依頼主の依頼に応じて、ハッカーグループに頼んだり、ミナヅキのような存在に発注をかける。
金曜の夜、ミナヅキは帰宅後、夕食も取らず、破壊模擬試験用コンピュータに小型端末を挿し、動作試験を行なっていた。食べると睡魔がくる、そんな理由で動作試験を優先させた。依頼主がどういうコンピュータが対象なのか知らされていないが、これまで苦情がこなかったため、ミナヅキはあらゆる状況を想定して、無難に破壊するという商品を作り上げていた。
「さて、イタズラ商品と完全消去は、動作に問題ないな。それじゃ、ぶっ壊しますか」
ミナヅキは、窓を開け、換気扇を回し、念のため消火器を準備した。コンセントの差込口には、もちろん過電流遮断装置がはめ込まれている。
指差し安全確認をして、実行に移す。
「消火器よーし、近くに可燃物なーし、では、参りましょう。ご安全に!」
ミナヅキは、いつもの儀式を行ない、破壊模擬試験用コンピュータに小型端末を挿し込んだ。演出として、モニター画面にどこかのお花畑と湖の風景画像が一瞬表示される。その後、コンピュータ内蔵ファンが高速回転し、驚かさせた後に、バシュッ!と音がして焦げた匂いと共に、破壊が終了する。
この破壊具合は、ミナヅキが苦労したところ。記憶領域の部品を同型コンピュータと詳細に組み替えると、データが復旧する。そこで、記憶領域をしっかりと過電流で物理的に焼却し、ドロドロに溶かして固着させてしまう。ミナヅキの記憶領域の破壊理想状態はトロトロ煮込みだが、時間が限られた作業なので断念している。
「余計な燃え広がりなしに、コンピュータ内部の重要箇所が溶けて固まったので、確認終了。部屋が燃え跡臭いので、しばらく換気だわな。シャワー浴びて、洗濯機回して、部屋にあるものを何か食べるか」
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