第6話 ハッカー集団
ベギオントの街にある古めかしい商業ビル。その地下にある安納ぱーつを訪れた。ミナヅキは、アメフラシというネットワーク上の呼び名があり、モナカは、不思議そうに会話を聞いていた。
「注文の品を持ってくるので、待ってくださいな」
「はい、頼んます」
ケンピは、小走りで店の奥へ行った。
「なんとなく、いつも眠そうにしている理由が分かりました。夜な夜な変なことしてるでしょ?」
「変なってなんだよ。自分が出来ることの幅を広げたいだけ」
「へ~。しかし、このお店古いですね。商品棚も背が高くて多いけど、商品の箱が傷んでる感じ」
「かなり続いてたはず。代々家族経営で、この店知った時は、ケンピの爺さんがいて、ケンピが、ちょろちょろと地下街を遊んでた」
「え、ケンピさんって、いくつくらいなんです?」
「確か20代前半。高卒して、店主になったはず。親父さんが病気で店に顔出せないんだよ」
商品を待つ間、話し込んでいると、別の人影が近付いてきた。
「ん、あんたか、アメフラシ。勉強は捗ってるのか?」
小柄な若い男性。黒いパーカーを着てフードを被り、黒マスクをしている。いかにも怪しい姿。
「ぁ~、ゴンズイか、久しぶり。勉強は、してない。オレにはセンスが無ぇ~のよ。あんたらのようには、なれない」
「違うぞ、アメフラシ。あんたは、他の連中のような傲慢さや自惚れ、過信がない。そのせいもあって、あんたのソーシャルエンジニアリングは、誰も真似出来なかった」
「そうは言うけど、あんたらの試験に受からなかった。ひどく見下してただろ?」
「それは、おれじゃない。他の連中だ」
話し込んでいる所へ、ケンピが戻ってきた。
「うわっ、ゴンズイがいる。相変わらず怪しいな」
「姿を目立たないようにするもんだろ」
「逆に目立つんだよ。で、何か、ご用?」
「いや、アメフラシの姿を見かけたんで声かけただけだよ。オニダルマオコゼも、元気そうだな」
「その名で呼ばないで。もう『ネリキリ水産』抜けてるんだからさ」
「そりゃ、分かってるけど、あんな形で辞めたから、声かけにくくて」
「思い出させないで。リーダーは、まだ思想を諦めてないの?」
「コブダイさんは、逮捕された。それから、皆隠れちまって、ネリキリ水産は活動停止中。・・・おれ、もう行くわ」
話を切り上げて、ゴンズイと呼ばれる男は、人混みに紛れ、去っていった。
何がなんだか分からないモナカが、ミナヅキに聞いた。
「あの~、ミナ~、いや、アメフラシさん。状況説明してください」
「今更、呼び方変えなくてもいいぞ。しかし、話していいものやら・・・」
ミナヅキは、ケンピの顔を見た。ケンピは、黙ってコクンコクンと頷くので、ミナヅキはモナカに語り始めた。
「ずいぶん昔の話だよ、ネリキリ水産ってハッカー集団にスカウトされて、候補生みたいな感じで在籍してたんだ。その時には、そこのケンピがすでにいて、ネットワーク上でも、物理的にも、豪快なサーバー破壊とかやってたから、姿を見事に隠すが、トゲと猛毒を持ち、正体は、すんげぇカワイイから、オニダルマオコゼって呼ばれたんだって。オニダルマオコゼは、高級魚で身がうまいからな」
「アタシの話はいいから、自分の話をしなよ」
ケンピは、昔の話をあまり好まない。ミナヅキは、モナカに話を続けた。
「あぁ、すまない。で、オレはハッキングを学びつつ、自分なりの得意な方向を探してて。でも、ネリキリ水産のリーダー:コブダイはAI政府の転覆を起こし、世の中を人間優位に戻したいって思想を持ち、オレにもそれを要求してきた。しかし、アンドロイドには話しやすい友好的な存在が結構いるんだ。その思想に同意せず在籍してたら、急にアンドロイド開発企業を狙ったハッキングをコブダイがオレに命令してきた。事前調査もなく、いきなり言われたんで、そのハッキングは、即バレ。周りは慌てたが、オレが作っていたコンピュータを破壊する小型端末をその場で差し込み、データ復旧出来ない完全破壊させてやった。そしたら、コブダイが怒ってさ『時間かかり過ぎて、所在がバレて、コンピュータも破壊して、大損害じゃないか!』ってその場で除名された。証拠隠滅したのによ、ネリキリ水産とは合わないし、ハッキング技術にもセンスがないってことよ」
「あの、さっきのゴンズイって人がいってた、ミナヅキさんのソーシャルなんちゃらってのは?」
「ソーシャルエンジニアリングな。ハッキングって、コマンド打ったり、プログラミングで何か攻撃ツール作るだけじゃない。実際に対象となる会社組織から情報を聞き出すこともある。なりすましやゴミ漁りもする。ゴンズイが手に余ることをオレに頼んできたことがあって架空の会社名等でいろいろ電話したんだよ。情報を聞き出して、関連会社や担当の名前を知ることが出来た。そのことをゴンズイは言ってる。
でも、数回しかないのにな」
ミナヅキの過去を少し知ったモナカは、ミナヅキの今の活動が気になった。
「で、ミナヅキさんは、今、何をしてるんですか?」
「・・・他のハッカー集団やそこのオニダルマオコゼから依頼を受けた小型端末を作っている。破壊、情報吸い出し、修正プログラムを当てる可能なことはいろいろ試して、収入を得ている」
「それは・・・」
「モナカが言いたいことは分かるが、オレは依頼された道具を作っているだけ。それを本当に使うかは、相手次第。繰り返し言うけど、オレはハッカーじゃない。コンピュータの前でコマンド打ってアレコレするのは相変わらず苦手だし、理解できていない。そこのオニダルマオコゼ様には到底及ばない」
「もう!その名前で呼ぶなって!ミナヅキん
「それをさせないよう、個々が独立してる構成にしてるし、自作防壁端末でネットワークの攻撃を防いでるんだよ。だからといって、ウチに乗り込むなよ!」
「うるさい、破壊し尽くしてやる!」
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