第2話 担当業務

 以前いた泡糖電子工業で一緒だったトコフZGというアンドロイド。トコフZGとの会話は人間に近く、冗談も言えるし、お世辞や皮肉も言う。


 現在のアンドロイドは、製造元で種類が異なる。


 コノハナ製作所は、人間が作った人工知能(AI)を元にアンドロイドを製造している。その基本思考は、人間との共存。人造皮膚を纏い、人間の体温ほど高くはないが、金属に直に触れるよりも温かみを感じる。体型はさまざま選べ、服を着用。


 AR-EX10研究所は、人間とアンドロイドが共同で作り上げたAIがアンドロイドに導入してある。基本思考は、アンドロイド自身がどうしたいか?アンドロイドの自立を促した。始めこそ、単純な機械のような行動しか出来なかったが、AR-EX10製のアンドロイドは独自のネットワークによる情報共有から学習を繰り返し、ミスを減らしていった。ある程度、支障のない行動が取れるようになった頃、各々の環境によって、特性を持つようになった。それは共有されても、必ず同様な結果を導き出せず、『個性』か、『自我』か人間の中で議論が行われた。しかし、AR-EX10製のアンドロイドたちは、ただの『適応力』として位置づけた。ちなみに、AR-EX10製アンドロイドは、人造皮膚を纏わず、金属や合成樹脂等、その材質の外骨格で存在している。


 統合世界重工業というネットワーク上の噂である組織。AIがAIを作り出した。その存在に、現在の[ぎふと]AI大統領が含まれるという。その機械学習過程の中で、他AIを真似るのではなく、完全に取り込んでAI自体が成長するという話がある。元となる実体がないので、その真偽を確かめようがない。また、アンドロイドのように外骨格を持たず、大型コンピュータやネットワークの中に存在する。なので、ネットワーク通信網が繋がっている所には、存在を表すことが出来る。



 ミナヅキの担当業務が、あまりにも単純労働なので、AIやアンドロイドの存在詳細を考えてしまう。現在でも、コンピュータを操作して業務を行なってはいるんだが、人間がしていた業務はアンドロイドに取られてしまった。その表現は違うか。会社が買収されたので、その代表者の意見が強くなって、変更を余儀なくされているってことか。

 これまで、人間が行なっていたソフトウェア開発業務をアンドロイドが担うことになって、正常動作をしているか、不具合がないかデータ照合を行なうのが人間の役割になった。以前の会社では、アンドロイドが行なう照合作業は完璧に行なわれ、コンピュータ画面上だけでなく、紙媒体での照合確認も的確だった。


 現在、オレはコンピュータ画面とデータを印刷した用紙を見比べて、照合作業を行なっている。それを上司アンドロイドから任された。他の人間も同様な作業を割り振られている。おそらく、する必要のない、すでに正しい結果が出た照合作業を仕方なく、わざわざ大量印刷して確認している。この会社には、『人間は、いらないもの』だと、オレは考えている。・・・言い過ぎかもしれないが。


「ミナヅキサン、コンピュータの部品交換を頼めマスカ?」

「はーい、どちらのマシン?」


 たまにある割り込み作業。アンドロイドはコンピュータ操作は出来るが、手首から先を精密動作用部品に交換しないと、機械の部品交換は出来ない。その交換するくらいなら、人間に仕事を割り当てるという作業指示が出ているようだ。なので、人間の中でも特定の人物に部品交換を頼まれる。個人的には、いい気分転換になる。

 コンピュータ本体のボタンを押して外装を開け、問題ある部品の接続を外し、新品部品と交換し、外装を閉じ、再起動する。非常に単純な動作。コンピュータの構造を知っていないと分からないことではあるが、工場の機械で生産される製品ってこんな動作だろ?なぜ、人間にさせる?アンドロイドこそ、単純作業に向いているだろ?でも、それを思っても、言葉として言ってはいけない。


 先日、社内で解雇された人間がいた。


「こんな単純作業はアンドロイドに任せる。人間が生み出すものの方が、より高性能で精度が上がる!」


と豪語した。すぐさま警備アンドロイドが職場に来て、別室に連行され、長々と解雇理由の文章をモニター画面で見せられ、即刻、ビルから追い出された。今の世は、アンドロイドやAIにも存在する権利が認められている。何より、AI大統領は人間とアンドロイドが参加する選挙により選ばれている。アンドロイドも人間と同様に、生命体であり、住まいがあり、生活もある。見た目が人型でない姿をしていても良き隣人として接する存在。


「ちゃんと動いてるね。このコンピュータの対応年数は、まだ先?」

「まだ数年先デス。作業、ありがとうゴザイマス」

「いえいえ」


 型番名称も知らないアンドロイドと挨拶して、自分の席に戻る。ふと、外を眺めると、似たような高層ビルが立ち並ぶ隙間から見える太陽がずいぶん傾き、時刻は夕方になっていた。単調作業とはいえ、やることがあると時間は、あっという間に過ぎていく。昔は、夕方からが仕事の本番とも言えて、ようやく誰にも割り込まれない作業時間が始まったのだが、今となっては、残業するほど作業に追い込まれてなく、また何のためにやっている業務なのか疑問に思ってしまう。


 そして、終業の時間。一斉にコンピュータを終了させ、皆が帰宅する。人間もアンドロイドも、ベギオント駅に列をなす。


「ミナヅキさ~ん、まっすぐ帰宅するんですかぁ?お茶しません?」

「モナカ一人で行ってきなよ、オレは帰ってからやることあるから」


「一人で行ってもしょうがないでしょ。というか、何するんです?」

「・・・頼まれごと」


「とかいって、あの1階にある食堂に行きたくてしょうがないのか~、やらしっ」

「何が『やらしっ!』だよ。子育てしつつ、若い女一人で切り盛りしてがんばってんじゃないか。というより、下心あるのは近隣のおっさん共だろ。あの人ら、家で夕飯食べてから、食堂に来て、また食べてるんだぞ」

「・・・わぉ、思春期かよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る