第2話
ズキズキ、グルグルと体のありとあらゆる場所が悲鳴をあげている。
昨日あれだけ飲んだのに朝の9時過ぎに私は電車に乗っている。世間では平日ということもあり、電車は徐々に混んでいく。
こういう日に限って一番角の席には座れないし、隣に座った女性は中々香水がきつかった。
もしまたここで吐いてしまっても、3割くらいは隣の女性のせいにしてもいいんじゃないかと思ってしまう。
新宿から徒歩20分で私がアルバイトをしている喫茶店についた。ジャズも珈琲の良さもいまいち分からないが、それでも経営してる夫婦やお客さんなどが作り出す居心地の良さが往復3時間をかけてでも来る理由になっている。
「薫ちゃん、今日もよろしくね」
幸い、メイクに時間をかけたおかげで今私が珈琲豆を焼いている匂いに耐えれるように息を止めていることは夫婦のどちらにもバレていないようだった。
色々な会社の社員さんが休憩時間に食べに来るようで、いつもお昼時はものすごく混むのだが今日は珍しく人が入ってこなかった。
ぽつぽつと数組のお客さんが入り、料理を出し終わるとこちらもやることがなくなり手持ち無沙汰になったところだった。
「そういえば佐藤くんが服のブランド立ち上げたの、知ってる?」
佐藤くんとは同い年で物腰柔らかなここのアルバイト仲間だ。
全くもって初耳で、思わず大きな声で聞き返してしまった。
「服のブランドって…佐藤くん全然教えてくれなかった…」
「そりゃそうだよ、自分のことなかなか言わないからね」
そういって奥さんに彼が運営しているインスタグラムを見せてもらうと、黒一色の素敵なドレスがずらりと並んでいた。もう海外からオーダーが入ったり、滑り出しはとても順調らしい。
「しっかりしてるよね、佐藤くん」
「一生懸命でほんとに偉いよね」
なんて3人でいない佐藤くんを褒めちぎった。
同い年でやりたいことが決まってるなんて、すごいなあ。私はそんな事絶対できない。
この喫茶店は都会なのも相まっているのか、アルバイト仲間も全員すごい人ばかりだ。
母親が画家で本人は著名なダンサーであったり、作曲家であったり、元女優であったり。
そんな皆の快挙を聞き続けて、いつしか尊敬よりも焦りが勝つようになった。自分には何もない、と焦ってそれでも何も得られずにアルバイトに学校で終わってしまう毎日だ。
今日は一日暇だったのもあり、余計に頭に残ったままバイトを終えることになった。
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