㉗絡まり

「夢は脳が過去に経験した記憶がベースになっている……如月君は、辛い過去で希望君や周りに起きる予知夢を見てた、ということになる」

「……だとしたら両親に捨てられた過去が……多分ベースに……」

「……はい。それに、希望さんの辛い記憶や未来を……この瞳で読み取ったんです」

「……つまり、第六感が優れてることだな…希望君は悪夢を見たことは?」

「いや、ないです……確かに抗がん剤治療のせいで体が痛くて眠れない夜が多かった…でも悪夢を見たことはないです」

この日、如月による悪夢を背景に、俺の未来や舞姫が誰かに狙われてるのではという議題について話し合っていた。今のところ、俺も検診は正常で舞姫も誰かに狙われているわけでもない…。もし如月の悪夢が正しければ……

「…さん……生野さん……生野さん!」

「……あ、………」

「生野さん…大丈夫?顔色悪いよ?」

「…いや、大丈夫です」

「生野、お前の言う大丈夫は大丈夫じゃねぇんだよ。シューズは今日ほぼ人来てないし、帰って休めよ…この前みたいに倒れちまったら許さねぇからな!」

「いや……大丈……うっ!」

「生野…事務所まで連れてくからな…」

……嗚呼、如月の悪夢は的中していたらしい。しかもこの前の検診では問題なかったものの、俺は吐血をしてしまった。何とか加堂さんに事務所に連れていかれ、とりあえず椅子に座った。

「お前さ……この前よりだいぶ軽くなったよな…今何キロなんだよ」

「………四十…八キロくらい?」

「痩せ過ぎだよ……とりあえず、今福吉さんが院長に連絡して迎えに来るらしいから、それまで頑張ってくれ」

「……う……」

それから俺は意識を失い、気付けば病院のベッドに横になっていた。


「気がついたか……」

「……院長」

「…残念だが、再発してる……この前の検診では問題なかったのに…何故だ」

「…………」

「……もう一度抗がん剤治療しないといけないな…それに、また日出君に「いや、いいんです」

「…白血病は血液の癌…手術では取り除けない病だと、痛いくらいに理解してるだろ…でも何故なんだ?」

「………俺が長生きできる未来が…見えない気がして。如月や廉命、舞姫には俺の分も長生きして欲しくて…」

左腕には点滴の針が刺されていて、意識も朦朧としている。すると院長がやってきて、彼は俺にある報告をした。俺の白血病は再発してしまったことを。吐血したせいで今も口は血の味がして、吐き気も酷かった。院長から詳しい話をされ、俺は再びあの病室で日夜を過ごすことになった。

「若いの…また再発したらしいのう……可哀想に」

「爺ちゃんこそ…いつ退院するんだよ……気持ちの整理がつかねぇよ…」

「………」

「なんだよ…」

「いやあ、孫によく似とるなぁって……」

「孫…?」

「おう。今じゃわしの見舞いに来てくれる人は一人もおらん…だが孫だけは見舞いに来てくれたよ…だが、孫は重い病気を患ってて、わしより早く逝ってしまった」

「は、はぁ……」

「見た目も声も性格も、全てお前さんによく似とる……孫とは病室が別だった。だから病状が悪化して逝く前に、ある動画をわしに遺した」

「……動画?」

「あぁ、確か貴方はいつもビデオレターを見てますよね……それがこの彼によく似てる。何もかも…検温とあと、薬剤を渡しに参りました」

俺が数ヶ月前に使ってた病室のベッドの隣では、相変わらず入院中の老人が寝ていた。俺が中学生の頃も、隣のベッドで雷磨が話し掛けてくれてたのを思い出した。それよりも、彼がいう孫の容姿や声、性格もほぼ俺と似ているらしい。すると院長も病室に入ってきて、そのことについて話し始めた。

「あれは私が医大生だった時の話…希望君に凄く似た男の子がいてな……実習中でよく見掛けていた。彼も重度の白血病で、抗がん剤で痛む体を引き摺るように、毎日この方の見舞いに来てた。でも彼の病は次第に悪化して、一本のビデオレターを遺して逝ったよ…」

「嘘…」

「………君は、希望と書いてゆめって読むだろ?彼もね…夢命って書いてゆめって読むんだ」

「…え」

なんて事だ。漢字が違うだけで名前も一致していた…。すると病室のドア越しにドタバタと走る音が聞こえ、それは勢いよくドアを開け、俺に駆け寄った。

「希望君!あなたまた…」

「……舞姫…」

「希望さん……俺の骨髄液がダメだったのか…」

「廉命さん自分を責めんで!それで生野さん…」

「皆……ごめん」

「謝らないで!私、もう……」

「舞姫……ごめん…ごめんなさい」

舞姫はもちろん、如月と廉命が来た。舞姫は俺の姿を見るなり、大きな緑の瞳から大粒の涙を零し、泣き崩れていた。

「おう……この二人が、お前さんが話してた人らか……孫のペットによく似とる」

「……さっきからあんたは何が…言いたいんだ」

「答えはこのビデオレターにある…。心して皆で見るとしよう」

そして夜、無菌室のテレビを使って、そのビデオレターを見ることにした。それには、病室のベッドに座っている少年が映っていた。

『よーっす!見てくれた誰かっ!夢命だよ。俺は病気で毎日辛いけど、何とか生きてるよ』

『みゃ〜……』

『ばうっ!!』

『あ、こいつは俺のペット。猫がラオ、犬がレベン……病院の外で捨てられてたんだ。このラオね、オッドアイだし、レベンは傷だらけでデカいけど、意外と優しいんだ!俺の大切な友達!』

『………俺はあと何日生きられるか分からないけど、この動画が誰かの応援になればいいな…眠いから寝るね…また会う日まで……ばいばい』

「………嘘…」

「めちゃくちゃ希望さんに似てたよね?どういうこと?」

「……如月君と日出君を呼んだのは私だ。二人とも、このビデオレターに対してどう思う?」

「………私は、夢でこの子を見たんです。この子に拾われる前、猫として生きてた私は…彼に拾われました…」

「俺は……今この子の顔を見た限り、このビデオレターの撮影された日の二週間後にこの子は亡くなったのかなと思いました」

「ビンゴだ…。確かにビデオレターの撮影から二週間後……夢命君は…息を引き取った。六歳だった」

いきなり俺とよく似た少年の話題になって、心のどこがが絡まってしまってる状態だ…。廉命の余命の予測は正しく、如月の話す猫の話は分からなかった。

「如月君は夢の中で…故人に会う力がある…」

「まずやる事は一つ…」

「如月君、夢の中で夢命君に会って、話をしてくれ」

「はい……」

「仕事終わりで疲れてるなか、皆呼び出してすまなかった。如月君の見た夢で今後を考えるとしよう…」

そして、廉命と如月、舞姫と院長、福吉さんが病室に残り、それ以外は解散した。そして、如月は夢の世界へ旅立ったのだ…その夢命ってやつに会いに…。


『……ーい……よっ!』

『……ここは…』

『お前…ラオ…?にすげぇそっくりだな!』

『……あなたが、夢命?』

『そうっ!俺は夢命。俺ずっと一人なんだ…病気で死んじゃった……』

『…さっきから何を言っとるん?』

『俺ね、生まれた時から重い病気で独りだったの。でも別のところにいた爺ちゃんがいたから良かった。でも先生が精一杯俺のために頑張ったけど俺は死んじゃったの…病気に負けて』

『その……先生の名前は?』

『煌星……先生』

『その煌星先生…院長は、今や日本中の患者を救う優秀な医者や…』

『へぇ…よくわかんねぇけど凄いっ!あはは!』

『………あんたが言っとる、猫のラオとか犬のレベンは…』

『……俺のペット。こっそり病室に連れてきて先生に内緒で飼ってたの……でも、俺が死ぬ前に二匹は…殺処分されてたの』

『……っ!』

「……う…うぅ…」

「如月さん、しっかり」

「…俺とそのガキ、どんな関係があるんだ」

早速如月は、夢の中で夢命という少年に会いに行った。俺も廉命も舞姫も、院長もその場で眠り、夜を明かした。が、如月以外のメンバーは皆、彼女と同じ夢は見れなかった。やがて如月が目を覚ます…。

「如月君、寝起き早々で悪いが聞かせてくれ」

「………ビデオレターに写ってたラオとレベン、夢命が死ぬ前に殺処分されていたみたいです」

「診療記録を探そう……他にはないかい?」

「……院長の名前を覚えてたのと、このお爺ちゃんが唯一の味方だったと話してました」

「そうか……希望君の治療と同時進行で、このことを調べるとしよう」

そして朝になり、洗顔や歯磨きを済ませ、皆で喫茶室に向かい、朝食を摂った。俺はまたいつもの病院食だが他のメンバーは皆ワンプレートの朝食だった。

「………またこれか」

「希望君…」

「……てか最近如月さん、よく食べるよね…」

「あ〜、最近ダイエットしとるけど…太っちゃった……」

「ダイエット?如月さんは今でも全然細いよ?」

「いや…その……」

「この前よりは全然食う量増えたよな……ダイエットしなくてもいいだろ…他に理由あるのか?」

「……いや、母乳を沢山出すためですっ!」

「ぶふっー!」

「うげぇ…きったねぇよ……」

「………日出君、どういうことだ…彼女はまだ」

「もう夢玖ちゃん…お父さん混乱しちゃってるよ……希望君、すぐ拭いてあげるからね」

デジャブが起きた。如月がとんでもない発言をしたせいで廉命は口に含んでた水を俺目掛けて吹き出してしまった。舞姫がすぐ拭いてくれたので良かったものの、如月の発言のせいでその後の話は頭に入ってこなかった…。

「どういうことだよ?お前らまだそういう歳じゃないじゃん」

「……二人で決めた約束だよ…」

『如月さんが俺と結婚して!子どもを産んで!幸せを見届けてから死んでくれっ!』

「…思い出した……如月と廉命の間に赤ん坊か……ふふっ甘酸っぱいな」

「赤ん坊…?希望君、何の話だ?」

「それが…如月が自分と結婚して、子どもを産んで、幸せを見届けてから死んでくれって…こいつが俺に言ってきた時があって……」

「なるほど……二人の子どもなら可愛いこと間違いなしだな……」

「夢玖ちゃんが母親かぁ…想像出来ないけど可愛いお嫁さんになる未来が見える…」

「そしたら廉命は毎晩如月を抱くんだろうな…」

あの時廉命が言ったように…彼と如月の幸せを見届けてから死のうとしていたつもりだったのに、どうやら病はまた俺の体と心を蝕もうとしている。如月の見た夢により、夢命と俺には何かしらの関係と共通点があることがわかった。相変わらず廉命は、あの約束のせいか如月にまだ想いを伝えてないらしい。それに呆れるなか、如月がそっと口に出したのだった…。





……To be continued

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