㉕意図は永く、糸は長く
「仁愛ちゃん足の幅広いんだね……それならあのメーカーかな…」
「そうなんです……小指当たることも多くて」
「分かる。俺もよく幅が狭いシューズ履くと小指当たるんだよね……」
「ですよね〜!実は今度、学部の皆でバスケしようって話になって……スポーツブラとかも見に来たんです」
「なるほどね!バスケシューズは任せて……てか……」
「なんで福吉さんいるの?」
「いや……仁愛さんが…生野に変なこと言われてないか心配で心配で……」
ある日の午後。仕事中で、客数が落ち着き始めた頃に松寺仁愛が職場に来店し、バスケシューズとスポーツブラを買いに来たらしく、俺は彼女の足型を測定していた。足の幅は平均より広めで、土踏まずはニュートラル……。彼女が言うには今度の休日に学部の皆でバスケしようという話になったらしく、彼女に合うシューズを探そうということになったのだが、福吉さんが彼女の傍にいる。理由は分かるが、この感じだと二人はまだ付き合ってはいないらしい。
「別に大丈夫だっての。早く付き合っちまえ!」
「いやいや……仁愛さん十九歳で俺今年で三十歳だよ?こんなに綺麗な仁愛さんといたら彼女が変な目で見られない?」
「福吉さん一応医師もしてるんだし、仁愛ちゃん大人っぽいから大丈夫だよ」
「ふふっ……」
この松寺仁愛は地方でも有名なほど顔立ちや容姿が整っていて、読モもしている。この間のミスコンでも優勝したらしいが、彼女の顔立ちなら納得が出来る。領事館ポジションの彼女は普段優しく活発だが、過去に起きた周りからの嫉妬により、鎖骨に刺青を掘り、両耳にピアスを開けている。それも彼女の魅力の一つだが、福吉さんが縫った背中の一部にも最近新しく刺青を入れたのだとか…。でも、整った顔立ちとは裏腹に福吉さんに対しては小悪魔な態度を取るギャップもあるので沼らない男はいない。この時丁度凪優も休憩から上がり、売り場にやってきた。
「あ、仁愛ちゃん…来てたんだね」
「凪優ちゃん、久しぶり〜!実は今度の休みに学部の皆でバスケすることになってさ…夜海ちゃんと一緒にスポーツブラとバスケシューズ買いに来たんだよね」
「へぇ……あ、それならさっき加堂さんが話してたお勧めのバスケシューズあるの。良かったらスポーツブラも一緒に案内するね」
「ありがとう〜!」
凪優から加堂さんお勧めのバスケシューズがあると言うと、仁愛は明るく美しい笑顔を見せた。福吉さんはそれを見て、悶えて胸を強く抑えた。絶対、キュンと来たはずだ。彼女はこちらに手を振り、凪優の後を歩いた。元々この二人は出会った当初、お互いのことが苦手だったらしいが、今は全然そんなことはない。むしろ仲良しだ。
「いつもは後ろでお団子に纏めてるけど、今日のハーフアップも可愛いよなぁ…てか仁愛さん意外と髪長いんだね」
「おいおい…下手したらセクハラ発言だぞ…」
「あとこの前仁愛さんが俺の部屋にお泊まりしたんだけどね…」
「お、おう………」
「整った顔立ちとは裏腹に……可愛いところが沢山あった」
「いや福吉さんの方がゾッコンじゃねぇか……」
医師でもあり、頭脳明晰な福吉さんは今年で三十歳になるにも関わらず、この松寺仁愛が気になっているらしく、彼女も同じ気持ちではある…。でもお互い、年齢差を気にして中々前へ進めないのだ。
「あ…生野さん、仁愛ちゃん見てないですか?」
「あ、夜海さん……仁愛さんは凪優ちゃんとトレッキングウェアのコーナーにいると思うよ」
「分かりました!あ、今日の仁愛ちゃん、福吉さんが喜ぶと思ってハーフアップにしてきたんですよ!ちょっと髪巻いたら、雰囲気凄くて…………」
「あれは驚いたよ…女神みたいだっだなぁ……それなのに俺には違う一面を見せてくるんだよ」
「あはは……あ、加堂さん!」
「お、夜海ちゃん来てたんだね。ご飯また行こうよ……てかバスケシューズ買いに来たらしいじゃん…俺が勧めたいやつあるからついてきな」
「ぜひぜひ!」
「何だよ加堂さんにも春が……確か青春は二十九歳までだから…ギリギリか」
「こら。俺より一つ若いんだから……早く売り場に案内してあげてよ」
夜海も来ていて、やっぱり仁愛と一緒にバスケシューズ等を買いに来たらしい。この影食夜海は、清楚かつ成績優秀な、擁護者ポジションであるのだが、彼女が高校三年の時に、母とその彼氏に自宅で二年間監禁された過去があった。監禁によって出来る怪我や心の傷…監禁から解放されたての夜海は……無表情でかなり痩せてしまっていた。その為…如月や舞姫に比べ女性特有である体のメリハリがない…。でも今は…今なら…加堂さんという異性に出会ってるので、彼女もきっと大丈夫だろう。やがて職場は閉店し、帰りに職場の皆でラーメン屋に来てる時だった。
「雷ちゃん…愛さん怒らないの?大丈夫なの?」
「ん、何がです?」
「いや……その、同棲してる彼女いるのに俺らと飯行って」
「大丈夫ですよ。お互い、プライベートは大事だと思ってますし、愛さんも今夜は舞姫さんと院長とご飯食べるって昨日から聞いてますし」
「プライベートか…てか愛さんの趣味って…」
「最近ゲームしてるんです。僕がお気に入りのゲーム勧めたらすっかりハマってしまって…」
「へぇ……美人で若くて教師をしてて、普段は厳しくも生徒思いなのに趣味がゲーム……」
「そりゃあ、雷ちゃんが愛さんを選ぶわけか…」
舞姫の姉でもある煌星愛は、今年で二十三歳の高校教師をしている。普段の彼女は厳しく生徒思いではあるのだが、最近ゲームにハマっているとは…。この前までは映画やハムスターや兎の動画を見るのが趣味だったのに、最近はゲームにも夢中らしい。
「愛さん…この前も僕にスマホ見せてきて、興奮して猫の動画について熱く語ってたり、ゲームでクリアすると授業するみたいに熱くなって、それがすっごい可愛くて…」
「怒ると怖いのに……めちゃくちゃ意外な趣味持ってるよなぁ…愛さん。でも舞姫も最近、某ゲームにハマっちまって……建築とか洞窟探索とか余裕なんだよね…」
「姉妹揃って…似てますね。愛さんに出会えたのも、院長と生野さんのお陰です。ありがとうございます」
「いや……」
「んー…そういえば、初めて生野さんに出会ったのは僕が中学生の頃でしたかね…」
「何だそれ………俺は覚えてねぇよ…」
注文したラーメンが運ばれ、麺を啜りながら雷磨は語った。俺が覚えていないだけで実は彼とは過去に会っていたのだ。彼はそれを語り出した。そう、あれは俺が中学生の時……
『ぐはっ!痛え……父ちゃん…母ちゃん…』
『……生野君、大丈夫か……相変わらず熱下がらない……何故だ…』
『先生!煌星先生っ!緊急外来の対応お願いします!』
『ありがとうすぐ行くよ。すまないがちょっと待ってもらえるかな?』
『あ……うっ!』
当時の俺は持病で入退院を繰り返していて、その時は入院をしていた。体はだるく熱は下がらない…。吐血することも多く、息切れも凄かった。院長は俺の腕に刺してる点滴を変えようとしたところで緊急外来で呼ばれたため席を外し、俺は一人病室のベッドで持病に体を蝕まれていたのだが……隣のベッドから俺に話し掛ける声が聞こえ、その正体はカーテンを開き、再び俺に話し掛けてきた。
『あの……大丈夫、ですか?』
『痛い…うっ!』
『ちょっと……ふ、僕のこれ使って!』
『……あ、ありがとう……ってかあんた………目見えてる?』
『僕の目は……もう見えないみたいです』
『嘘だろ……俺は生野希望。あんたは?』
『盾澤…雷磨……中学二年生です』
『俺の一個上か……俺さ、生まれつき白血病でさ…常に死と隣り合わせなんだ……だから、雷ちゃんが退院する時には俺は…』
当時の雷磨は、交通事故に遭い、両目を失い掛けていた。その為目は包帯で覆われていて、俺の顔は見えないはずだった。それから俺達は毎日話をした。
『雷磨〜!遊びに来たよぉ!』
『兄さん……病室で騒がないの…あ、希望君、この人ね…僕の兄なんです』
『え、兄ちゃんいたの?俺一人っ子なんだよね』
『一人っ子か……俺は盾澤鳳斗。高校一年生だよ。弟が世話になってるね』
『いえ……』
『お、鳳斗君も来てたのか。最近この二人仲良いんだよ。症状はそれぞれだが、二人がよく話すのを見かける』
『へぇ……先生、こいつの手術は…』
『あ、忘れてた。雷磨君、君の手術が決まった。君さえ良ければ実行するよ』
『……良かったじゃん!施設長にお願いして、目を治してもらおうよ!』
『……うん』
その日から一週間後、雷磨は目の手術をすることになった。その手術は無事に成功し、彼の眼球は回復した。
『お父さん、その子誰ー?』
『愛……この子は雷磨君っていうんだ。お前と同い歳だよ。彼は失明し掛けたんだが、手術で何とか回復したんだよ……』
『へぇ……』
『手術の後遺症もない……包帯取るか』
ある日俺達の病室に、当時中学二年だった愛が病室内に入ってきた。どうやら彼女は院長の愛娘で、雷磨に興味があったらしい。そして院長は、彼の両目に巻かれた包帯を解いた。
『おお……』
『………久しぶりに見る光景、色だ……』
『俺の顔見える?ねぇ見えるか?』
『兄貴近いよ……皆さん、ありがとうございます………』
『何とか回復して良かったよ……って、雷磨君はどこを見てる?愛か?』
『……な、何よ?』
『…いやぁ、本当に綺麗な人だなぁって』
『は、はぁっ!ば、ちょっと……初対面にも関わらず何言ってるのよ!』
『…お姉ちゃんやっと見つけた……あれ?お姉ちゃん顔赤いよ?』
『舞姫……何でもないわよっ!』
『いやぁ若いねぇ……私もこういう時あったなぁ…』
数ヶ月ぶりに視界を取り戻した雷磨は、愛の顔を見て綺麗と言った。そのせいで愛は顔を真っ赤にし、そのタイミングで舞姫という人物も病室内に入ってきた。舞姫は俺の顔を見て微笑み、愛を連れて病室を後にした。
『舞姫も…私の娘で、愛の妹でもあるんだ。歳は生野君と同じだよ』
『……本当に綺麗な人でしたね…』
『いやぁ……これが春ってやつか……』
『あはは。とりあえず雷磨君は今月いっぱいで退院だね……』
『……もうお別れか……』
そして数週間後、雷磨は退院した。彼と過ごした短い期間は俺にとって青春の一部ともいえた…。しかし俺はその記憶を今日まで失っていたのだ。
『てめぇが生野希望ってガキか?お?』
『誰だよあんた…俺今しんどいんだけど…』
『っち…生意気なクソガキだなぁ……』
『やめなさい!その子は重い病気を患ってるんだ!』
『ヤブ医者は下がってろ……まぁいい。これを見ろ……』
『……これは?』
『あんたの両親、あんたを裏切ったんだよ。まだ中学生のてめぇを捨てたんだよ』
『…………は?』
『…まだまだ未熟なてめぇには分からねぇか…教えてやるよ。あんたの両親は…上辺だけあんたを心配して……ワシらに金を借りてたんだ。これが証拠だ』
ある日、病室内に一人のヤクザが現れた。院長は彼を病室内に入れないように説得したが、反社会的勢力という圧力に負け、俺とヤクザが接近してしまった。すると彼は俺の前にある一枚の紙を見せてきた。それにはとてもじゃないが高額な額と、俺の本名が記入されていた。両親は俺に隠れて闇金に手を出していて、挙句の果てには俺を捨てて夜逃げしたとのこと……。つまり、両親は俺を裏切ったのだ。しかも俺が近いうちに死ぬであろうことも見据えて人身取引として…らしい。
『あんたも大変だなぁ…だが、この額は払ってもらうからな』
『……俺が…払うの?俺まだ中学生だよ?』
『てめぇ以外誰がいるんだよ……死んでも払ってもらうからな』
『待ちなさい……私が払うよ……だから、この子には関わらないでくれ』
『お父さん…?どうしたの?』
『なら今すぐ持ってこい!じゃないとこのクソガキも患者も殺すぞ!』
『舞姫……お前は下がってなさい……』
『いや!私生野君の……傍にいたい』
『今は下がってなさい…今すぐ持ってくるから時間をくれ!』
あまりの展開過ぎて、一部の記憶が飛んでしまった。もちろんその後のことは覚えておらず、唯一覚えているのは、院長が抱き締めてくれたことだけだった。
『……あれ?ここは…』
『保健室。生野君、私を守ってくれたよね。ありがとう』
『いや……あ、うん』
『……下の名前、なんて読むの?』
『………ゆめって読むの。分かりにくいよね』
『私は煌星舞姫。希望君のことは前々から知ってるよ』
『まじか……俺幼い頃から家より病院にいるから、外出たことあまりないんだよね』
『外ねぇ……私のお父さん、お医者さんでね…希望君の担当医でもあるの!』
退院後の数日の登校日、その時の俺は未だにクラスに馴染めてなかった。先天性の白血病なのにも関わらず、周りの生徒はそれに理解がない。でも舞姫だけは…違かった。元々彼女とは同じ中学ではあったが、雷磨とは違う中学だった。しかも舞姫とは同じクラスで…中々話せそうにはなかったが、彼女に対するいじめを機に、俺達は話すようになった。
『希望君!これ数学のノートと……お花!』
『いつもありがとう……って…何この絵?』
『希望君が好きそうな……猫と犬!』
『なんだそりゃ……でも舞姫の描く絵、可愛いよね……もちろん舞姫も…可愛……あ』
『や、やだなぁ……この前オッドアイの猫の画像見て可愛いと思ったから描いてたんだけど…授業途中までしか聞けなかった……お姉ちゃんにも怒られちゃった…』
『でもありがとな……部活も生徒会もあるのに毎日俺のところに来てくれてさ……大丈夫なの?』
『うん!希望君の為ならどんな事でも大丈夫!』
『ならいいけど…舞姫は優しいから、たまには自分の時間取ってくれよ……』
『自分の時間か……じゃあ希望君、今度近くに遊びに行こうよ』
『いや……舞姫一人の時間の話……誰だって一人になりたい時はあるだろ?』
『確かに一人の時間が必要な時もある……でも、私はお姉ちゃんやお父さん、希望君といる時間が一番幸せなの』
俺が入院しても舞姫は生徒会や部活で忙しいにも関わらず、毎日俺の見舞いに来てくれた。授業で取ったノートを見せてくれたり、学校や家族であったことを話したり、時には俺の話を聞いてくれたり……どんな時でも舞姫は寄り添ってくれた。『んん……ゆ…め……君……』
『寝ちゃった……カーディガン掛けてやるか』
『ぐへへ…私達…ずっと一緒だよ……すう』
『どんな夢見てんだか……』
また別の日……院長が俺の目の前に現れ、重要な話をしてきた。両親に捨てられた俺は入退院関係なく病院で日々を過ごしていた。でも院長がそれを心配して、俺にある提案をしてきた。彼は俺に舞姫が必要と強く思っていて、煌星家の一軒家の一部屋を貸すと言ってきたのだ。言われた時はなんて答えればいいか分からなかったが、舞姫からの頼みであると聞き、俺はその提案を飲んだ。気付けば舞姫とは男女の仲を通り越して、何かしらの糸で結ばれた関係になっていた。入退院は相変わらずで、数年後の闘病の末、一番傍にいてくれた舞姫にプロポーズもできて、今に至るという……。
「あ、思い出した……。確かに俺ら、中学の頃に会ってたわ」
「でしょ?初めて希望君を見た時、懐かしいなぁと思ってたんです」
「おお……舞姫と店長と愛さんと院長……あとは……」
「俺だよ……雷磨が入院してた頃、俺大学四年生だったんだよ……でもアメフトの練習試合で脚と左腕を大怪我しちまって…松葉杖で歩いてたよ」
「脚…松葉杖………あっ!あの時の大学生か!」
討論者ポジションの加堂さんは、当時大学四年生でアメフト部の主将かつエースでどの大会でも大活躍をしていた有名な選手だった。当時の彼と病院内で会っていた記憶も同時に蘇った。
『おいガキ共!うるせぇよ……静かにしてくれ』
『ごめんなさい……希望君…ちょっと移動しません?』
『……待って、ちょっ…しんど……げほっ!』
『おい……拭くもの……これで拭け!』
『希望君、大丈夫ですか?』
『…………あ、あぁ……てか誰あんた?』
『常識がなってねぇガキだな……俺は加堂。大学四年生さ』
『へぇ………大怪我してますね…』
『あぁ…実は俺、アメフト部の主将でエースなんだよ……でもこの前の練習試合で大怪我しちまってさ…見舞いは誰も来ねぇし、寧ろ俺が怪我したせいでアメフト部は壊れた……家族からは白い目で見られるようになって、部員達からも悪口を言われてた……結局、皆味方だと思ってたのは俺だけだったんだよ』
『つまり……怪我は治っても心は閉ざしたままってことですか…』
『察しが良くて助かるよ……そのせいで内定もらってた就職先に内定取り消されちまって…』
『それならうちのバ先来る?』
『『え?』』
加堂さんは、練習試合での大怪我により就職や家庭環境が全て台無しになったらしい。彼が大怪我をしたことにより、幾度も大会で優勝していた彼率いる大学のアメフト部は……最後のインターハイであっさりと敗れ、最も寒い夏を背後に、大学生活を終えたのだという…。元々彼がアメフトで大活躍をしているのを面白くないと感じてる部員も多く、でも彼は部員達を信頼していたのに、陰口を言われた時には頭が真っ白になったらしい。すると当時の盾澤店長がやってきて、加堂さんにある提案をしたのだ。
『おい……俺はお前より年上だぞ?はぁ…最近のガキは上下関係もなってねぇのか…』
『失礼な……確かに大怪我でサークルも就職も家族も台無しになったかもしれない………でも、怪我が治って大学卒業したらどうするつもりなの?うちのバ先で正社員として働けば、何もしないよりは『てめぇには何が分かるんだよっ!』
『あ、いた!加堂君ダメだよ!手をあげるのはやめなさい!』
『……っち…次会ったら、覚えとけよ…』
加堂さんが盾澤店長に手を上げようとした時、病室内に白衣を着たある男性が入ってきて、彼の腕を止めた。加堂さんはそれに不貞腐れ、こちらを睨みつけて病室を後にした。
『危なかった……ごめんね。彼、大怪我してサークル引退も余儀なくされちゃって…就職先もなくなって家庭環境も悪くなって……挙句の果てにはアメフトを引退、部員からも裏切られてて…心を閉ざしてるんだ』
『…………辛さは、その人にしか分からないんですね』
『あぁ。俺はまだ医大生で実習中だけど、どうしても彼が心配で……それにしても力強かったなぁ…さすが有名な花形選手』
『元だけどな……あ、福吉君…実習のレポートは出来たかい?丁度手が空いたから私が見よう』
『はい!それじゃ俺はこれで……たまに、加堂君のことを気に掛けてあげてね』
白衣を着た男性は、福吉さんといって、当時は医大生だった。実習中にこの病院で沢山のことを学び、医師に憧れている。加堂さんの一つ歳上で、院長曰く県内一位の高校出身で、首席で医大生になったらしい。彼も忙しい学校生活と並行し、盾澤店長と同じ、今のスポーツ用具店でアルバイトをしていた。今思うと、俺達が繋がれてるのは院長のお陰だと思う……。
「……いやぁ、懐かしいなぁ……院長のお陰で沢山の出会いと刺激、思い出がある」
「ですねぇ……希望君が女性の看護師の白衣の下を容赦なく覗こうとしてたを思い出します……あれだけ僕止めたのに…」
「嘘だろお前そんなこともしてたの?やっぱりお前問題児だよなぁ……」
「問題児はないだろ……」
「いや、希望君は問題児以外、似合う言葉はありませんよ……院長のお陰で愛さんと出会えたんです…今思い出しただけでも…凄く綺麗な人だなぁって…」
「舞姫も、毎日俺の見舞い来てさ……落書きだらけのノートと花を俺に見せてきたな……」
「あれから如月さんの接客で数年振りに愛さんと再会したんです……それから連絡先交換してご飯行って……」
「長ぇよ…話が……てかラーメン伸びてるじゃねぇか!」
「………頑張って食うか……あはは」
「でも、希望君のお陰でもあるんです。ずっと恋してた愛さんと再会出来たのも……その…」
ありがとうございます。そう雷磨は桃色の瞳を光らせた。両親の裏切りによる失われた記憶が蘇った夜、俺はチャーシュー丼を頬張りつつも、加堂さんと雷磨が、麺が伸びてしまったラーメンを平らげられるかを見守っていた。この後……煌星家が隣のテーブル席に座っていたため、雷磨の愛に対する言うことが彼女に丸聞こえになっていると知るのは………すぐの話だった。
……To be continued
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます