⑲湯けむりにご注意を。


「この前さ……お前らの部屋でなんか如月の声らしき声が聞こえたんだけどさ…なんかあったの?」

「ぶふっ!」

「なんか、エロい声してたぞ?あとなんか言ってたなぁ……」

「希望さんっ!やめてくださいよ……てか、なんでこの二人も?」

「はーい。夢玖ちゃんにちょっぴり大人の体験をさせた張本人です〜」

「夢玖ちゃんと廉命さんの同棲に興味津々な人で〜す」

ある日の俺の部屋。如月さんは隣の希望さんの部屋で舞姫さんと女子会をしていて、俺達はあることについて語り合っていた。念の為言うが、俺と希望さんの部屋は隣同士で、たまに俺達の会話や生活音が聞こえるらしい。それにこの夜海も仁愛もいて、余計に話しづらい状況だった。

「そういえばこの前来た時、顔赤くしてたなぁ…」

「確かに夢玖ちゃんは……水着は苦手ですからね…サイズもあれですし」

「水泳の授業始まってんだろ?どうなの?」

「どうって………」

「なんか、夢玖ちゃんのせいで何かが壊れそうだってLINEが…」

「夜海……よせよ」

何を隠そう。如月さんの水着姿を見る度に、何かが壊れそうなのは事実だ。汗や水に濡れる白い肌、宝石のように澄んだオッドアイ、身長に見合わない大人っぽい顔立ち…そして、年相応にムチッとした身体…。何より水着が彼女のボディラインをより強調しているため、胸部がもの凄いことになっているのだ。そのせいで周りの男共は皆、如月さんの顔や胸部に集中してしまうのだ。

「それで……あれから如月とはシたのかよ…」

「シたって………いや、してないって!」

「さすが……確かにあれからまた成長したよね」

「確かにこの前のストーリー見たけど、凄いパツパツだったよね……」

「うん……夢玖ちゃんからLINE来たんだよね…廉命さんに触られたって」

「嘘だろ……それでか……この、馬鹿廉命っ!」

このメンバーで話している内容は…俺と如月さんの間に起きた、大人の体験についてなのだろう。事の発端は夜海の酒に対する強さで、如月さんも彼女に少しだけ酒を飲まされた。今年になってから成人年齢は十八歳に下げられたものの、飲酒や喫煙に対する年齢制限は変わっていない。俺も酒は飲むが、喫煙はしない……。喫煙に興味もないし、如月さんや希望さんに何かあれば大変だと思っているからである。でも夜海による大人の夜について教えるには、まだ早い…と思う。確かに、如月さんの胸に触れた俺にも非はあるが、彼女はそれをどう受け止めてるのだろうか。

「それ俺も見た。確かにパツパツだったよなぁ……谷間も見えてたし、そりゃ男が変な目をしちまう訳だ。特にこいつがな」

「複数の男からDM来てたけど、皆ブロックしたらしいよ…その内容キモい文章だったみたい……水着ねぇ…廉命君もストーリー載せてたよね?」

「あ、あ……あぁ。俺も同じさ……でも中にはケロイド無理っ!ってDM来たよ…こっちから願い下げだってのに…如月さん、その時も顔真っ赤だったんだよ…」

「廉命さんは上半身にもケロイドと傷跡が沢山ありますからねぇ……」

あの時のことを思い出しては妄想ばかりしてしまう。あの時自分がこの先のことをしていたら、夜の運動というのを彼女に教えられたら、大学で学んだ座学の内容も彼女と復習出来たら……でも、たった一晩の出来事で、如月さんが孕んでしまったら…後先が大変だ。でもあの時の俺は…挿れたかったのだろう。あの時俺の手で乱れた彼女を…独占したかっただけなのに……。すると希望さんが話してきた。

「廉……廉命っ!」

「はっ!」

「さては如月のこと考えてただろ……お前いつ告白すんだよ…俺言ったよなぁ?死ぬ前に告白しろよって……病気が治っても…その約束は変わんねぇからよぉ……」

「確か…夢玖ちゃん、廉命君にキスされたとか…言ってた」

「夜海……はぁ…」

「その状況見たかったわぁ……廉命、よくやった」

もしかしたら希望さんは、俺達の間に起きたあの時のことについて、直接見たわけではないがその時の状況を知っているのだろう。このマンションの建築年数や防音性を計算すると、周りの生活音は意外と聞こえるというのもあるかもしれないが…。

「キスは出来たのか…如月とほぼ同棲してる感じだし、大学の授業もバイトも一緒だからなぁ…夫婦みたいだよなぁ……それなのに、付き合ってないってどゆこと…?」

「これだけ一緒にいるのに……ね」

「廉命さんはどう思ってるんですか?」

「俺はね…付き合ってるのかな?というか…家族みたいな……?」

「家族ねぇ…夏祭りに、如月に話した言葉だろ……花火が打ち上がると同時に告白かぁ……」

「その前に関節キスですよ?甘酸っぱ過ぎません?」

「うん……甘酸っぱいよね…本当に」

誰もが俺と如月さんの関係を「甘酸っぱい」と表現してくる。過去に付き合ってる彼女がいたが、俺から好きになった人ではなく、家庭環境のせいで別れた。でも今は違う。本気で愛せる人を見つけたから、毎日が幸せである。これまで如月さんとは、たくさんのエピソードがあった。出会った当初、二人きりで話した過去の話に、希望さんの見舞や夢の世界で暴れていた希望さんを、彼女と一緒に止めたこと。生きるのを諦めてた希望さんに言ったあの言葉…。彼女の生まれ育った大阪という遠い距離から、この恋は始まっていたのかもしれない……。

「思い出すだけでも甘酸っぱいよ……そう言えば俺が入院してた時…なんか言ってたよなぁ」

「あぁ…確か、如月さんが俺と結婚して、子どもを産んで、幸せを見届けてから死んでくれって…」

「聞きたかったなぁ…仁愛その時、凪優ちゃんと夢玖ちゃんをコンビニに連れてたからいなかったんだよねぇ……でも廉命さんがそんなこと言ってたなんて…」

「もう結婚して家庭築く気満々じゃん…」

「なんなら俺と舞姫の結婚を機に、プロポーズしちまえよ………」

「ぶふっ!」

「愛先生と雷磨さんと同じパターンでね…てか最近二人同棲始めたらしいよ?」

「知ってる。舞姫から聞いた。てか廉命、いつプロポーズすんだよ…」

希望さんはどちらかというと起業家ポジションで、コミュニケーション能力がずば抜けて高い。そのお陰で全国各地を回りながら、ドナー講演会とシューズ講習会の講師として動き回っている。バイト先の社長もその事については理解しているので一番傍にいる俺と如月さんがアルバイトにも関わらず補助として、彼の出張に同行している。もちろん交通費や宿泊費は会社側が負担してくれている。希望さんの出張では関東は北東北はもちろん、北陸や関西…東海地方も……とにかく色んな場所を旅した。正直この三人でいるのが定番化している…。

「それは……」

「多分、如月も最近、お前からの好意気付いてると思うぞ…?」

「確かに夢玖ちゃん、夏祭りでの関節キス、バイト中での姫抱き、大学生活を機に始まった二人暮らし……これで好意に気付かないのはちょっと……」

「でも夢玖ちゃんこの前、廉命さんのこと愛しそうに話してたよ?」

「愛しそう…か。廉命の場合は告白とプロポーズが逆になりそうだよね」

図星だ…。いざ如月さんに告白する時に、告白とプロポーズが逆になりそうだと、俺自身も思っていた。その話の内容に体温が上がったのでアイスコーヒーを口に含んでいると、夜海がそれに気付いた。

「あー、廉命君…。克服出来たんだね…コーヒー」

「ぶふっ!最近ブラック飲めるようになったんだよ…」

「この前まで、カフェオレだったのに…やるじゃん……俺甘党だから、ミルクティー以外飲めねぇや」

「仁愛は辛党ですよぉ……夢玖ちゃんが見掛けによらずブラックコーヒー飲めるの凄いですよね…」

そう…。最近俺は努力の甲斐があってコーヒーをブラックで飲めるようになったのだ…。初めは眠気覚ましの目的で大の苦手なコーヒーを嫌々飲んでいた。俺も希望さんと同じ、甘党でカフェオレやフルーツティーしか飲めなかったが、今ではブラックコーヒーを飲めるようになった。というか希望さんがミルクティー以外の飲み物を飲んでいるのを見たことはないが…もし彼がミルクティー以外のものを飲んでいたら、後日槍が降るのではと……俺は思う。

「確か夢玖ちゃん、辛いの苦手でしたよね?」

「あー……そういえば昨日のキムチ鍋、そんな食べなかったなぁ…」

「仁愛ちゃんはもっと辛いのいけるけど、私はお酒がないとしんどいかなぁ……」

「話脱線してるぞ……今度の出張、確か岐阜の旅館に泊まるよな……アイツの浴衣姿は危険だぞ?」

希望さんが余計な発言をしてきた。俺と暮らすようになっても如月さんは、ブラジャーを着けない癖が直っていない…。俺という男がいるというのに、俗に言うノーブラでいるとは…。それに最近は暑く、世間では薄着になるので胸の先っぽが透けそうで、首元をめくっただけでそれが見えてしまう……。あんなことがあったのにも関わらず、旅館の浴衣姿でいるのは危険だ……。

「あ〜……分かります。なんか想像出来ます」

「あいつまだノーブラ癖直ってねぇのかよ……将来垂れるから止めろってよ…」

「浴衣姿……仁愛も撮影したなぁ…」

「この前の雑誌のやつ、めちゃくちゃ良かったよね…すげぇ好評だった」

「福吉さんはなんか納得いかなかったみたいだけどね……でも流石にこの前のことがあったから、如月にはちゃんとブラするように言っとくよ」

かれこれこの話は終わり、仁愛と夜海、希望さんは帰った。そして次の希望さんの出張帰り…俺達はとある旅館に来ていた。


「ふぅ……暑い」

「この暑さが丁度いいんだよ……お酒と温泉…最高」

「ええ…お酒?なんか贅沢やなぁ……ま、温泉も悪くないねぇ」

「うんうん。夢玖ちゃん、あれから廉命さんとはどうなの?」

「夢玖って…確か温泉苦手だったような…」

「ええ〜廉命さんと〜……?って……えっ?」

ある日の希望さんの出張帰りに、私達は岐阜の温泉旅館に来ていた。露天風呂に浸かり、寛いでいると、凄く知っている声がした。後ろを振り返ると同じ露天風呂に夜海、仁愛、凪優も浸かっていた。

「夜海ちゃん、仁愛ちゃん、凪優までっ!何してん?てか……見んでっ!」

「隠さないでいいよぉ?あれから廉命君と何かあったのか気になってねぇ」

「何もないでっ!触らんといてやぁ…っ!」

彼女達も来るとは思ってもいなく、体にはバスタオルを巻いていなかったので、慌てて胸と又を隠す。すると夜海が私に近付いてきた。

「相変わらず柔らかいね…ふふっ」

「やっ…な、なゆぅ……止めてやぁ…っ」

「予想外に大きいんだね……夢玖」

「仁愛にも触らせて〜っ!」

めちゃくちゃに乳を揉まれ、四人で仲良くサウナに入ったり、洗いっこをしたりして、全身のケアをしてる時だった。

「あ!このボディクリームいいよね!仁愛も使ってるの!」

「分かるっ!うちは敏感肌だから…このクリームないとしんどい……」

「へぇ…私はこの…バストクリーム使っとるんよ……舞姫さんが誕生日プレゼントにくれた」

「だからこんなにふわふわなんだね!」

「あっ……夜海ちゃんっ!」

「ちゃんと下着着けないとダメだよ?」

「はいはい……」

髪も乾かし合い、自販機で牛乳を買っては談笑して、私達は解散した。彼女達も新幹線を乗り継いで来たらしく、明日には帰るようだ。浴衣に着替え、私も部屋に戻った。すると生野さんと廉命さんも浴衣姿で私を待っていた。

「ふぅ……あ、お二人も温泉から上がってたんですね」

「おう如月……今日はちゃんと……着けてるな」

「やめてください…?廉命さん見てますって」

「まあまあ。お前も座れよ」

「は……はぁ……」

「そんな緊張しなくても大丈夫だっての……もしものために…避妊具あるからっ!廉命っ!」

「ぶふっ!」

生野さんは、私を見てはほんの少し胸元を捲り、ちゃんと下着を着けてるかを確認してきた。例の癖が出てないかを確認するためだろう。廉命さんはというと、私の方を見ないように携帯に視線を向けながら茶を啜っている。すると生野さんはとんでもない発言をしてきた。この部屋に避妊具があることを……。彼曰く、部屋を捜索していたら見つけたらしい……。私が座布団に座ったと同時にそのことを話したので、廉命さんはその言葉を聞いて啜っていた茶を吹き出してしまい、それが生野さんの顔や上半身に掛かってしまった。

「ええ……い、生野さん…大丈夫ですか……?」

「何すんだきったねぇなぁ……」

「げほっ……ごめん……てかよ、余計なこと言うなよっ!」

「そうでもしないと……面白くねぇっしょ」

「いや、そ、そんなの……ダメだろ……とりあえず、拭こう。如月さん」

どんなハプニングだろう……か。たまたま近くにいた宿の従業員が私達の部屋に入り「どうしましたかっ!」と大事があったように駆け付けてきたが…気まずく、顔と体が茶で濡れた生野さんを見て、拭くものを持ってきてくれた。

「はぁ……明日朝風呂必須だなぁ……廉命も来いよ」

「わかりましたよぉ……」

「いやぁ…それにしても如月は浴衣似合うよね!舞姫の次に」

「ありがとうございます……生野さん、いちいち下着チェックやめてくださいよ…」

「お前のノーブラ癖が直ったらやめるよ…ほら、明日は名古屋で講演会なんだ。今日はもう寝よう」

そして、私達は部屋の電気を消し、夜を明かした。翌朝は四時に起き、朝風呂やサウナに皆で行った。多分、この時間だと凪優達も寝てるとは思うが、彼女達も朝風呂目当てで起きていたので、当然浴場で会い、また髪を乾かし合い、一緒に化粧や着替えもした。予想外だったがこの出張も、思い出の一つになったのだった……。





……To be continued

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