大丈夫だ、問題ない

 パパリンの会社で仕事をしていると、誰かが事務所のドアを開けて入って来た。

「あらぁ、あなた新しい事務員さん?ずいぶん派手なのね」

 現れた女性は私を見るなり、甲高い声を上げ、肉のたっぷりついた体を揺らした。手にはたくさんの荷物を抱えている。

 結婚の報告をした時にお会いしたことがある、義父の姉にあたる人だ。私はころころ見た目が変わるし、一度会ったきりなので、覚えていないのは当然かもしれない。だが開口一番、他人にかける言葉とは思えない。

 確かに今日の頭は黄色だし、ピンクの柄シャツを着ているから、そう言われても仕方がないにしても、だ。

「いえ、嫁っす」

「あらそう、お茶淹れてきてくれない?喉が渇いたわ」

「はあ」

「最近の若い子は目上に対する言葉遣いもなってないのね」

「すんません。頭悪いもんで」

「そうみたいね」

 自由な義父とは違い、ずいぶん頭の固い人物のようだ。相手にするだけ面倒なので、私は適当に応接室に案内して給湯室に行った。

 お茶を淹れて戻ると、外から戻ったらしい義父が彼女の相手をしていた。どうやらお土産を持ってきたので、様子見がてら遊びに来たらしかった。

「お茶の淹れ方はまあまあね」

「姉さん、チンピラちゃんはいい嫁やで?」

「ふーん。まあ、いいわ。最高級マスクメロン買って来たから切ってみんなで食べましょう。あなたも一緒にね」

「あ、いや、私はメロン苦手なんでいいっす」

「あらぁ、食べ慣れてないのかしら?おうちが貧乏だったの?」

「姉さん、好き嫌いくらい誰でもあるやろ。感じ悪いで」

 食べると口中がブツブツになるから食べられないのだが、こちらが喋る隙を与えぬ勢いで捲し立てる義伯母に、ようやく義父がツッコミを入れる。

「ふーん、そう。ところで結婚生活はどう?慣れた?子供は?」

「苗字変わったの変な感じっすね。受付で名前呼ばれてもピンとこなかったり……」

「まぁぁぁぁ!!パパリンちゃん!この子頭大丈夫ぅ!?名前くらい分かるでしょ!」

 冗談のつもりで言った言葉に、大袈裟に反応した義伯母は、わざとらしく義父の肩を叩きながら、甲高い声を張り上げる。

 だいぶアクの強いババ……いや、ご婦人だな、と思ったが、そこは無でやり過ごす。多分、どんな言葉を返しても、相手は私を貶めたくて仕方がないのだ。この人の嫁が気の毒だ。

「すんませんね。頭悪いもんで。メロン切ってきますね~」

 心の中で中指を立てながら、ニッコリ笑って応接室を後にする。ドアをくぐる前に後ろをチラリと振り返ると、義父は申し訳なさそうにこっそり片手で私を拝んでいた。

 面倒な親戚はどこにでもいるものだ。むしろ清々しいほどの嫌味に、メロンを切りながら笑いが止まらない。私を心配したらしい義父が給湯室まで様子を見に来てしょんぼりしている。

「すまんなあ。悪い人やないんだが、口が悪くて」

「大丈夫。おもろい人っすね」

「がははは、あれをおもろいって言う子初めて見たわ」

 真実ではないことを言われたところで、何の問題もない。私の良さは、私と私の好きな人達が知っていればいいのだ。

 な!パパリン。

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